自家焙煎コーヒーを軸に話の花咲く『Coffee 豆貞』
路地裏オアシスでコーヒーブレイク
キッチンカーに積まれるのは500gの直火ロースター。浅・中・深煎りを織りまぜ、約10種のシングルオリジンを用意する。フライパン焙煎から始めた店主の石塚貞宏さんは、「おかげで匂いと色と音で豆の表情が分かるようになりました」と、豆の特徴を引き出す名手。くっきりした香りはため息モノだ。百名山制覇を目指す登山家でもあり「夏はときどき休みます」。
カラフルな糸を自在に使える贅沢さ『FRINGEE HANDS ON CAFE』
機織りにチャレンジ!
コットン、麻、シルク、変わり糸など、常時800種から好きな糸を選び放題。手芸が苦手な店主・石和田勢津子さんが「工作感覚で楽しめるさをり織を広めたい」と2025年に開店。ランチョンマットアレンジやストール風の袖カバーなど、使い勝手のいいデザインも魅力だ。カフェだけの利用も可。経糸選びも応相談。
仲卸仕入れのマグロ&旬魚がツヤピカ『食堂はとや』
昼も夜も本気の魚をいただきます
新潟県十日町市出身の店主の古澤源陽(よしあき)さんは、マグロ仲卸が営む料理店で腕を磨き、本マグロはもちろん、旬魚の数々を仕入れ。なかでも海鮮丼は、農家直送の魚沼産コシヒカリに昆布入りの酢を用いたまろやかなシャリが魚のうまみを際立たせる。真鯛中心の魚出汁が効いた味噌汁の奥深い風味にも目を見張る。
老いも若きもソフトクリームにぞっこん『デイリーチコ』
名物の特大虹色ソフトを頬張(ほおば)ろう
「中野ブロードウェイ」開業当初から地下に構え、当初の4段から、子供たちの声に応えて今や最大8段! 特大ソフトクリーム1200円(小は1〜3種400円〜)は中野名物だ。バニラのソフトミックスに、バナナ、ラムネ、コーヒーなどのシロップを自家ブレンド。フレーバーは季節で随時替わり、秋には焼き芋やマロンも登場。隣の讃岐うどんスタンドもファン多し。
駅近の隠しステージで個性派を目指せ『謎の店』
謎めく店で謎雑貨をディグる
ゲーム「くにおくんシリーズ」の謎の店ごとく、雑居ビル3階に隠れるのが、アパレルブランド「THUNDER BOX」の直営店。営むのは『HARD OFF』などのオフィシャルグッズも手掛けるデザイナーの森田ツヨシさんで「単なるネタじゃなくて、面白くてカッコいいファッション」を制作。新作は随時。目を皿にして逸品を見つけるべし。
進化を続ける宮造りの温泉銭湯『天神湯』
古くて新しい銭湯でさっぱり
戦前から営む路地にある銭湯は1956年築の宮造り建築が健在。ペンキ絵、岩造りの庭など、「できるだけ意匠を残したい」との2代目夫妻の願いに沿って、2023年にデザイナー銭湯の旗手・今井健太郎さんの手でリニューアル。さらに、メタケイ酸含有泉として2025年に温泉認定。温冷交代浴すれば、体がほぐれてほこほこ。550円。
フルーツの伝道師、横丁に降臨『果実房YAMATO』
ハシゴ酒の途中でフルーツチャージ!
パフェグラスの中までフルーツぎっしり。「香りや味の違いが分かれば、気に入った品種を自分で買いに行けますから」と、店主の松本昂己さんは品種違い、産地違いも盛り込む。コーンフレークやスプレッドは「味変用」だ。また、生搾りジュースは、リンゴならグランマルニエをと、フルーツに合わせたリキュール入りで味わうことも。
朗らかに“好き”に邁進する人たち
界隈のカルチャーを牽引してきたのは、「中野ブロードウェイ」だ。なかでも開業とともにオープンした『デイリーチコ』は、特大ソフトクリームがインパクト大。常時8種だが、フレーバーのレパートリーは驚異の30種以上。「過去に野菜ジュース味も作りましたが人気がなくてやめました」と、スタッフの柴田憲一さんはあっけらかん。歓声を上げながら激写するカメラ女子がいる一方、小サイズでも3種まで選べる特典をかなぐり捨て、「僕はラムネ味1種で」と的を絞る通人も。それぞれがそれぞれに楽しむ。これこそが中野スタイルだ。
「独自のカルチャーを目指せるところが中野のよさ」とは、おもちゃ箱のような『謎の店』の森田ツヨシさんだ。遊び心満載のシャツに目が泳ぐが、昨今は、シール帳ならぬピンズ帳が人気とか。「デザインしながら、ついピンズにできるか考えちゃいます」。
類を呼びながらも住民たちのオアシスに
どの店も若者が中心かと思いきや、妙齢客も子供もうれしそうに足を運んでいる。機織りを始めると時間が溶ける『FRINGEE HANDS ON CAFE』では、「シルクだけで織る小学生もいて、お目の高さに驚かされます」と石和田勢津子さん。中野をクリエイティブと相性がいい街と称し、80代の人が「カラフルな色に癒やされるわ」とのんびりお茶に訪れるという。
路地裏キッチンカーから飛ぶ、朗らかなあいさつの声に誘われた『Coffee豆貞』では、空きスペースに並べたベンチで近所暮らしのおばあちゃんらとの四方山(よもやま)話が楽しい。祖父の代から中野暮らしの石塚貞宏さんは「しゃべるのが好きだし、地元でやりたいことを形にしたい」と、コーヒーを通じて地域の人と触れ合う場を生んだ。
また、祖母が営んだ寿司店の名前を継ぐ『食堂はとや』は、デザイナーの姉の手による看板、画家である両親の絵をさらりと飾るアットホームさ。味に惚れ、人に惚れ、漂う空気感にもほっこり。
街の勢いさながら、バージョンアップしているスポットもある。『天神湯』は「丸山さんのペンキ絵は貴重」と、表面をきれいに手拭き。すがすがしい富士山を復活させるなど、昔ながらの意匠を残したままリニューアル。それでいて、人気のサウナを設けず、「熱湯が苦手な年配客や子供も入れるように」と、熱・中・冷(しかも24〜25℃)の3温度の風呂を用意した。おかげで、500円玉を握りしめた子供たちや若者、外国人と共に、風呂上がりのドリンクタイムも楽しめ、東京伝統の銭湯文化を満喫だ。
商店街の小さな寺「中野不動善成寺」では招き猫に手招きされた。「高めの声になって、声掛けされる参拝の方が増えました」と、住職の園部嘉美さんは保護猫のミーコに目を細めた。
飲屋街にも新風が。カジュアルバー風情のパーラー『果実房YAMATO』では、カラフルなフルーツにテンション爆上がり。香りのよさに癒やされ、酒で乾いた体に染みるフルーツの威力も再認識。夜パフェ、サイコー!
おしゃべりを通じて、違う視点にも気づける中野では、刺激と和やかさが交錯。夜の帳はまだ序の口だ。まだまだ楽しい出会いが待っているに違いない。
取材・文=林 さゆり 撮影=金子怜史
『散歩の達人』2026年8月号より






