狩野俊さん(TOP画像)
1998年「コクテイル書房」を国立に開店、2000年に高円寺に移転。文学作品で描かれる料理を“文士料理”として再現する古本酒場として人気を博した。2026年4月閉店。シェア型書店『本店・本屋の実験室』オーナー。
高円寺ブックストリート構想
2026年4月、「古本酒場コクテイル書房」は閉店、4つの違うタイプの本屋に分化する。24年9月開店のシェア型書店『本店・本屋の実験室』を中心に、「馬橋店」はシェア型書店と「本屋の学校」の教室、「大和町店」はブックカフェ、「駅前店」はシェア型書店。それぞれの空間に合わせたイベントを開催予定。地域の人たちや杉森中学校とも連携して、未来の読者につなげていく。
本店・本屋の実験室
2024年9月開店。書棚を借りて、各々の棚主が本や雑貨を販売するシェア型書店。一箱単位で貸し出される店が多いが、ここでは棚一列で貸し出されるため、より個性が際立ち“自分の店”感が出る。棚主の試行錯誤も感じられ、まさに実験場。棚を介して会話をしているようだ。
「古本酒場を長くやってきましたが、3年前にシェア型書店の「本の長屋」を始めてから、いろいろなことが変わってきました」と狩野さんは話す。「古本酒場コクテイル」は4軒長屋にあり、その一角に「本の長屋」を開店したのは2023年4月。翌年には、道をはさんだ隣に『本店・本屋の実験室』を開いた。「物件を借りたものの自分で古本屋をやる余裕はなく、シェア型書店という形態を知り、棚主の人に店番もやってもらえるなと、ものすごくイージーな感じで始めたんです」。
シェア型書店のオーナーは、これまでとはまったく別の仕事だった。棚主を募集し、意見を聞き、ときに棚主同士の諍(いさか)いの仲裁をする。「不動産管理や行政の職員の仕事に近いです。シェア型書店は普通の書店とは在り方がすこし違います。書店の経営とは違い、僕は棚主からの家賃が入ってくる。棚主は家賃(棚代)を払って本を並べているけど、家賃以上の売上があるとは限らない」。いびつな構造だと感じた狩野さんは、書店として成り立たせるためには、一人一箱という単位は小さすぎると思った。「それで、一人棚一列でやってみることにしたんです。単純に一列の箱数を加算すると高すぎるので半額以下くらいの家賃にして」。
狩野さんは、『本店・本屋の実験室』で、本屋を開業するための土壌をつくりたいと思っている。「本を買ってもらうための方策の一つとして、本を売る人を増やせば、本を買う人が増える。たとえ棚一列でも100冊以上の本を用意して、売れたら仕入れて値段をつけ、棚に並べる。循環させていくのがたいへんで、重要です。お客さんのことを考えて、棚をつくって本を売る。シェア型書店には、本屋をやる人を増やす可能性があると思います」。
コクテイル書房は4つの書店へ
高円寺で26年続いた「古本酒場コクテイル」と、「本の長屋」は、長屋の老朽化により閉店。だが現在、「高円寺ブックストリート」を構想中だ。
『本店・本屋の実験室』から徒歩3分の「馬橋店」はシェア型書店でありながら、学習支援事業「本屋の学校」の教室として地域の子供たちに開かれた場に。大学院生の先生が同席し、各自で勉強してよし、勉強を教えてもらうもよし、ただ本を読むもよし。読書案内もあり。さらに歩いて10分の「大和町店」はカウンター5席ほどのブックカフェ。高円寺北口すぐの「駅前店」はシェア型書店で、サイン会などの小さなイベントを開催する場に。
「新刊が出たときに、トークショーやサイン会などのイベントをやるだけではなく、本の寿命を長くするために4つの店の特長を生かしながら連動し、著者と読者がふれあう場所になっていければいいなと思っています」
さらに地域の中学校と連携して、子供たちと交流するイベントも始まっている。「今年(2026年)の5月には杉森中学校で、アイスランドの駐日大使に『アイスランドと文学』と題して話してもらいました。アイスランドは人口40万人で、出版社が80社あって、すごく本を読む国なんですね。そんなことをお客さんと話してて、じゃあイベントやってみようってアイスランド大使館にメールしたんです。そうしたらトントン拍子に話が進んで。杉並区長も来てくれました。子供たちも喜んでくれてね。やっぱり外に対する好奇心が本を読ませると思うんです。好奇心をつくる試みを、今後も続けていきたいと考えています」。
本を読む人を増やしたい、という思いから始まった「高円寺ブックストリート」は、街のあちこちに根を伸ばし、いつしか思いがけない場所で、違う色の花々を咲かせる予感がする。
取材・文=屋敷直子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年8月号より






