大切にしているのは「日常の中の特別感」

東急電鉄世田谷線の沿線に『LIFENRI』がオープンしたのは2023年。外観は車窓からも見え、近隣住民は「開業前からお店ができあがっていく過程をわくわくしながら眺めていた」という。店名は「Life」と「Enrichment」を組み合わせた造語で、そこに込められているのは「日常を豊かに」という願い。扉を開けると、笑顔のスタッフが「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。

ライフスタイルショップのようなすっきりとした内装がケーキの魅力を際立てる。
ライフスタイルショップのようなすっきりとした内装がケーキの魅力を際立てる。

ショーケースを覗くと、なぜだかケーキが微笑みかけてくれたような気がして、思わずにっこり。見目麗しく、それでいて華美ではない、親しみやすさすら感じられる姿に胸がときめく。「ケーキは嗜好品でありながらも、日常を彩ることができるアイテムだと思っています」とオーナーシェフの清水佑紀さん。「『LIFENRI』のケーキが日々の楽しみ」と、毎週のように通う常連客もいるのだとか。

ショーケースに並ぶケーキたち。決して奇をてらってはいない、個性的なデザインが秀逸。
ショーケースに並ぶケーキたち。決して奇をてらってはいない、個性的なデザインが秀逸。

ショーケースには通年商品と、季節のフルーツを主役にした期間限定の商品が並ぶ。毎回お気に入りの定番と、その時季にしか出合えないものを1つずつ買っていく人も少なくないとか。さらに、『LIFENRI』は「チョコレートが得意なパティスリー」としても評判。チョコレート関連の商品も充実していて、ファンが多い。

ペルー産カカオを使用した「ペルー70%」など、自慢の10粒が入ったボンボンショコラ10個入4320円。
ペルー産カカオを使用した「ペルー70%」など、自慢の10粒が入ったボンボンショコラ10個入4320円。

もちろん、材料にはとことんこだわっている。例えば、産地の異なるカカオを仕入れ、それぞれの特徴を生かしながらチョコレートのバリエーションを生む。バターは国産のものと、フランス・ノルマンディー産の発酵バターを商品によって使い分ける。

ケーキのデザインはシンプルかつユニークで、「ケーキではないもののデザインを参考にすることも。『LIFENRI』らしいと思ってもらえるように意識して作っています」。

奥深きチョコレートの魅力を体験

特別感と日常の空気をバランスよく兼ね備えているケーキ。これを作り出す清水さんにとって、ケーキとはそもそもどのような存在だったのか。パティシエを目指す前、少年時代の清水さんはサッカー一筋だったらしい。「ケーキといえば、イチゴのショートケーキやモンブラン」で、誕生日やクリスマスに食べていたという。

オーナーシェフの清水佑紀さん。「2022年、『LIFENRI』はまずオンラインショップとして始まりました」。
オーナーシェフの清水佑紀さん。「2022年、『LIFENRI』はまずオンラインショップとして始まりました」。

パティシエの道に進んだ清水さんは、世田谷区の『成城アルプス』で6年半修業。その中で「チョコレートには正解がなく、無限と思える表現の幅を感じた」といい、オーナーシェフ・太田秀樹さんの紹介でショコラティエの先駆者である川口行彦さんの元へ。川口さんが創業した自由が丘「オリジンーヌカカオ」で、シェフパティシエ兼シェフショコラティエとして腕を磨いた。そんな清水さんのスペシャリテは、チョコレートケーキのエクチュア。

「王道のチョコレートケーキを作ろう思って、さまざまなテクスチャーや口溶け、香りを一つのケーキで楽しめるように考えました」

エクチュア720円。ペルー産のカカオを41%使用したミルクチョコムースと、マダガスカル産64%のダークチョコムースが合わさる。
エクチュア720円。ペルー産のカカオを41%使用したミルクチョコムースと、マダガスカル産64%のダークチョコムースが合わさる。

コクのあるとろりとした甘みや、後味としてやってくるふわっとした軽やかな甘み、輪郭がくっきりした明るい甘み。舌触りなど質感もグラデーションのように変化し、実に多彩な表情に出合うことができる。食べ進めるうちにそれらが重なり合い、勢いを増した香りが鼻に抜ける。土台になっている生地のザクザクした歯触りも絶妙だ。

その日の朝に焼き上げたリフェショコラ460円、マドレーヌバニーユ320円、焦がしバターのきび糖フィナンシェ320円も人気。
その日の朝に焼き上げたリフェショコラ460円、マドレーヌバニーユ320円、焦がしバターのきび糖フィナンシェ320円も人気。
リフェショコラは、カカオクランブルの香ばしさとかすかな塩気も心に残るブラウニー。
リフェショコラは、カカオクランブルの香ばしさとかすかな塩気も心に残るブラウニー。
焼き菓子では、リフェショコラが一押し。上部のザクザク感は、サブレとブラウンシュガーで表現されている。内側にいくほど口溶けがよく、そこにはチョコレートの繊細な一面も。ショコラを厳選し、分厚くじっくり焼き上げることで食感のコントラストを生み出している。

一品一品から真摯な仕事ぶりが伝わる

店内には、フレッシュな活気と共に老舗のような貫禄が漂う。オープンしてまだ数年の比較的若いお店なのに、早くもこの境地に至ることができたのはどうしてだろう。そう思いながら話を伺い、謎が解けた気がした。清水さんの仕事ぶりや人柄がお店の芯を確立し、その一本筋が通った感じがお客の信頼に繋がるのだ。

サブレアソート ラ・メール缶3240円。「塩」をテーマに、ガレットブルトンショコラなど3種類のクッキーを一つに。
サブレアソート ラ・メール缶3240円。「塩」をテーマに、ガレットブルトンショコラなど3種類のクッキーを一つに。
てみやげにもしやすい5枚入りサブレ各780円。煎茶のサブレは、煎茶をサブレに練り込み、さらに粉末煎茶を粉糖と一緒にコーティング。
てみやげにもしやすい5枚入りサブレ各780円。煎茶のサブレは、煎茶をサブレに練り込み、さらに粉末煎茶を粉糖と一緒にコーティング。

サブレやマドレーヌは、煎茶、烏龍茶といっためずらしいフレーバーも見逃せない。種類豊富な焼き菓子は、贈り物にもぴったりだ。缶入りのサブレアソートは、パッケージにアートをあしらったオリジナルデザイン。「友人にプレゼントしたらとても喜ばれました」とわざわざ報告してくれる人もいるそうだ。

サブレやマドレーヌなど、焼き菓子は単品でも販売。
サブレやマドレーヌなど、焼き菓子は単品でも販売。

のどかな街に溶け込む一軒のパティスリー。そこでは日々、パティシエが真摯にお菓子作りに励む。

何でもない日に特別感のあるひとときを作り出す。『LIFENRI』のケーキには、そんなちょっとした魔法みたいな力がある。

住所:東京都世田谷区赤堤4-2-16/営業時間:11:00〜19:00/定休日:火・水/アクセス:東急電鉄世田谷線松原駅から徒歩1分

取材・文・撮影=信藤舞子