受け継がれた「鎌倉の四季の表現」
鶴岡八幡宮へ続く小高い参道・段葛(だんかずら)。かの源頼朝が「参拝者が歩きやすいように」と、ぬかるむ道に石を置いて造ったという伝承から「置石」という別称も持つ。それにあやかり、かつて段葛付近は「置石町」と呼ばれていた。「鎌倉を訪れる皆さまの置石になれたら」と、『豊島屋』広報・宮井さん。そう、『豊島屋洋菓子舗 置石』の由来なのである。
明治27年(1894)の創業時、初代店主の久保田久次郎は界隈に軒を連ねる武家屋敷にちなんで瓦せんべいを始めとした和菓子を作っていた。テーマは「鎌倉の四季の表現」。以後、現代に至るまでこの思いは継がれていくこととなる。その後、外国人客にもらった焼菓子をヒントに現代まで続くロングセラー・鳩サブレーを発明。その知見もあってか、大正10年(1921)からは本店で洋菓子の販売を開始。長らく和菓子と洋菓子を並べていたが、当代である4代目・陽彦さんはある課題を感じていた。
「旬の異なる和菓子と洋菓子が入り混じっていると、鎌倉の四季を表現することが難しい」。そして、和菓子と洋菓子、どちらも良いものを作るため、2015年に『置石』を開業。それぞれの店舗で初代から受け継いだテーマである「鎌倉の四季の表現」を体現している。
繊細で、おいしくてさりげなくお茶目
1階はテイクアウトと売店スペース。魅力的な品々に目を奪われるが、ぜひ2階のカフェに立ち寄るべし。看板のエクレア・置石をはじめ、ケーキ、プリン、パフェなどのスイーツに、エクレアドック、ホットサンドといった軽食とバラエティー豊か。見目麗しさと繊細な味わいには圧巻のひと言だが、よく見れば鳩のモチーフが。プリンに至っては鳩のチョコとハートの皿。さりげない遊びも心憎く、このクオリティでお財布に優しいのもうれしい。
「豊島屋は鎌倉の皆さまに大きくしてもらったので、恩返ししていかなければ」
八幡の守り神は鳩。参道にも甘~い菓子を携えた鳩が、羽根を広げて待っている。
取材・文=どてらい堂 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年6月号より







