受け継がれた「鎌倉の四季の表現」

鶴岡八幡宮へ続く小高い参道・段葛(だんかずら)。かの源頼朝が「参拝者が歩きやすいように」と、ぬかるむ道に石を置いて造ったという伝承から「置石」という別称も持つ。それにあやかり、かつて段葛付近は「置石町」と呼ばれていた。「鎌倉を訪れる皆さまの置石になれたら」と、『豊島屋』広報・宮井さん。そう、『豊島屋洋菓子舗 置石』の由来なのである。

左奥から時計回りに、置石450円、有機焙煎コーヒー550円、モンブラン(和栗)750円、トラディショナル プリン450円。
左奥から時計回りに、置石450円、有機焙煎コーヒー550円、モンブラン(和栗)750円、トラディショナル プリン450円。
1階は売店。鳩デザインの装飾がキュートだ。
1階は売店。鳩デザインの装飾がキュートだ。

明治27年(1894)の創業時、初代店主の久保田久次郎は界隈に軒を連ねる武家屋敷にちなんで瓦せんべいを始めとした和菓子を作っていた。テーマは「鎌倉の四季の表現」。以後、現代に至るまでこの思いは継がれていくこととなる。その後、外国人客にもらった焼菓子をヒントに現代まで続くロングセラー・鳩サブレーを発明。その知見もあってか、大正10年(1921)からは本店で洋菓子の販売を開始。長らく和菓子と洋菓子を並べていたが、当代である4代目・陽彦さんはある課題を感じていた。

ショーケースに並ぶケーキが魅力的すぎ。
ショーケースに並ぶケーキが魅力的すぎ。

「旬の異なる和菓子と洋菓子が入り混じっていると、鎌倉の四季を表現することが難しい」。そして、和菓子と洋菓子、どちらも良いものを作るため、2015年に『置石』を開業。それぞれの店舗で初代から受け継いだテーマである「鎌倉の四季の表現」を体現している。

カフェは参道に面していて、開放的。
カフェは参道に面していて、開放的。

繊細で、おいしくてさりげなくお茶目

1階はテイクアウトと売店スペース。魅力的な品々に目を奪われるが、ぜひ2階のカフェに立ち寄るべし。看板のエクレア・置石をはじめ、ケーキ、プリン、パフェなどのスイーツに、エクレアドック、ホットサンドといった軽食とバラエティー豊か。見目麗しさと繊細な味わいには圧巻のひと言だが、よく見れば鳩のモチーフが。プリンに至っては鳩のチョコとハートの皿。さりげない遊びも心憎く、このクオリティでお財布に優しいのもうれしい。

2階カフェで軽食もいかが? エクレアドック900円。サクフワの不思議食感エクレアにチョリソーやタマゴなどの具がベストマッチ!
2階カフェで軽食もいかが? エクレアドック900円。サクフワの不思議食感エクレアにチョリソーやタマゴなどの具がベストマッチ!
ホットサンド(ハム&チーズ)900円。駅前の姉妹店『扉店』のパンとぶ厚い鎌倉ハム、2種のチーズと、なんとも豪勢!
ホットサンド(ハム&チーズ)900円。駅前の姉妹店『扉店』のパンとぶ厚い鎌倉ハム、2種のチーズと、なんとも豪勢!

「豊島屋は鎌倉の皆さまに大きくしてもらったので、恩返ししていかなければ」

八幡の守り神は鳩。参道にも甘~い菓子を携えた鳩が、羽根を広げて待っている。

住所:神奈川県鎌倉市小町2-15-5/営業時間:10:00~18:30(カフェは11:00~17:00LO)/定休日:水(祝の場合は営業)/アクセス:JR横須賀線・江ノ電電鉄鎌倉駅から徒歩5分

取材・文=どてらい堂 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年6月号より

古都・鎌倉といえば、やはりお寺。名刹(めいさつ)から小さな古寺まで、どこを巡っても仏像や庭、四季折々の景色に出合える。では、みほとけ流の鎌倉寺巡りの楽しみ方とは。読めば、鎌倉のお寺がぐっと身近で奥深くなるかもしれない。
聞こえてくるのは、風の音や鳥の声。人工的な音が少なく、歩いていると心も体も軽くなっていく気がする。山の景色には四季折々の表情があり、飽きることがない。北鎌倉では、のんびり、自然に身を委ねるのがいい。
海にも山にも近く、自然豊かな鎌倉は、四季折々に訪れたくなる歴史と文化の街。にぎやかな小町通りを抜ければ、静かな路地が縦横無尽に走り、地元の人が太鼓判を押す店も点在する。一日かけてのんびりぐるり、巡りたい。
鎌倉に来たのならやっぱり乗らずにはいられない。グリーン&クリーム色のツートンカラーのこの単線。今日は、鎌倉駅から江ノ島駅まで6.7kmの距離を、乗って車窓を眺めたり、降りては線路伝いに歩いたり……。気まま散歩へ出発進行!