魚も人も活きがいい!
朝9時すぎ、水産市場はすでに大勢の人で活気に満ちていた。ターレーが出入りする先をたどれば、昔ながらの屋根付き建屋にマグロ、鮮魚、塩干加工品の仲卸店が縦横無尽に並び、店先のトロ箱にはハリツヤピンピンの魚たちが満載だ。
足立市場は、豊洲、大田と同じ東京都の中央卸売市場。前身は1580年頃(天正年間)開設の千住宿の青物市場で、戦後に青果・水産市場になり、取扱量の増加に伴って1979年より都内唯一の水産物専門市場に。毎朝0時から水産の、5時半からマグロの取引が行われ、早朝から買い出し人が目利きに訪れて、観光市場とは一線を画す。
しかし「あだち市場の日」だけは別。普段なら取引が落ち着く頃だが、一般人が買い物できるとあって熱気は収まる気配がない。「鮮魚はもちろん、マグロは定番。夏はウナギ、秋はサバもおいしいですよ。塩干も力を注いでいます」と、卸協同組合事務長の長沼宏和さんは胸を張る。
鮮魚もそれ以外もワクワクだらけ!
市場内を見渡すとひと際、人だかりができていたのが『三上水産』だ。巨大なインドマグロやクロマグロの解体が手際よく進み、「インド洋から届いた生マグロで最高級品だよっ!」の声に生唾ごくり。
トグロを巻く大行列に臆して、ひとまず先に進めば“でしこうなぎ”の名前に、はたと立ち止まった。「これは浜名湖ブランドのメスウナギ。希少だよ」と『中重』の店主に見せてもらえば、串打ちウナギが肉厚でテラッテラに輝く。
『青木』では光り輝くアジやカマスの一本売りが並び、目は泳ぐばかり。
他でも、肉厚ホッケにときめき、おでん種に献立を夢想し、ぷくぷくのタラコに逡巡し。
冷静になるべく、関連棟をのぞけば、こちらはこちらで、高級フルーツのこだわり熱弁に聞き惚れ、ブランド野菜の色艶に見とれ、かつお節などの出汁の香りの良さにうっとり。丁寧な食べ方指南もありがたい。
いかん。まだ何もゲットしていないじゃないか! 急ぎ水産市場に戻れば熱気はどこへやら。11時を回った途端、店先から魚が消え、後片付けに入っていた。
「この風情で買い物できるのはあと数年なんですよ」
長沼さんによると、今後、場内に新しい施設を作り、現在の売り場から引っ越す予定とか。近いうちのリベンジを強く心に誓うのだった。
『東京都中央卸売市場 足立市場』詳細
取材・文=林 さゆり 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2026年9月号より






