稀有(けう)な世界にハマるミクスチャー系喫茶『安藝(あき)'s Garden&Café』

抹茶オレ370円、モルトウイスキーはショット650円~。
抹茶オレ370円、モルトウイスキーはショット650円~。

「祖父が営んだ時計店に同居する形で始めました」と、店主の安藝勇樹さん。以来、特注焙煎のコーヒーファンが少なくないが、実はボトラーズのシングルモルトウイスキーが約300種も揃う宝庫。加えて兄の勇人さんが品種改良にいそしみ、販売するビカクシダが個性豊か。ワークショップも。

8:00〜15:00(金は〜21:00、土は10:00〜22:00、祝は10:00〜16:00)、日休。

地元で愛された老舗中華の味が復活『DSG STAND』

大三元シュウマイ2個500円、粒マスタード付き2個550円、DSGレモンサワー750円。
大三元シュウマイ2個500円、粒マスタード付き2個550円、DSGレモンサワー750円。

父が営んだ錦糸町の老舗中華『大三元』の定番人気を引き継ぎ、齋藤喜正さんは気軽なシュウマイバルを2024年3月に開店した。粗めの豚肩ロースが肉肉しく、エビや干し貝柱が名脇役。頬張るごとに濃厚な旨味があふれ、自家製レモンサワーを誘う。甜麺醤ベースの肉味噌・ザージャン麺で締める人も。交差点を眺める湾曲カウンターやオリジナルTシャツもシャレている。

12:00〜15:00・17:00〜22:00、日・祝休。
☎050-1035-2847

コレらすべて国旗! どの国のか分かる?『TOSPA 東京製旗』

戦前の日の丸製造に始まり、「旗ならなんでも」と胸を叩く3代目の小林達夫さん。一時、日本橋に本社と直営店を構えたが、2022年に染め工房があった現在地に帰還。国連加盟国を超える世界約210カ国を網羅し、卓上旗はもちろん、2階でプレスした缶バッチ、ブランケットなどオリジナル商品も。三須店長は即座にどの国か答えられる国旗博士だ。

9:00~17:00、土・日・祝休。
☎03-5787-7750

さまようように開く止まり木『cafe 宙(ちゅう)』

木曜限定スープ600円。日替わりカレーのトマトキーマ1000円、目玉焼きのせは+100円。マンゴーラッシーラム800円。
木曜限定スープ600円。日替わりカレーのトマトキーマ1000円、目玉焼きのせは+100円。マンゴーラッシーラム800円。

営業日も開店時間もメニューも「気まま」。ルカタマさんは音楽活動の傍ら、帰京するたびに店を開ける。L字カウンターにラム、ジン、ウイスキーなど多彩な酒瓶が並ぶが、「私自身はお酒が苦手」とノンアルも用意。日替わりカレーや、木曜お店番のまーちゃん特製スープも滋味深い。スナック仕込みの話術が客を繋(つな)ぎ、みんなで笑い合う夜になる。チャージ500円。

不定期営業(Xで告知)。

デッドストックとアートブックに見ほれる『ちいさな硝子(がらす)の本の博物館』

影もきれいな丸グラス、キャンドルカバー各1650円は松徳硝子のデッドストック。
影もきれいな丸グラス、キャンドルカバー各1650円は松徳硝子のデッドストック。

棚には約900冊のガラス関連書籍。「以前、錦糸町にあった松徳硝子を父が営んでいた時に集めた本です」と、館主の村松栄理さん。香水瓶をはじめ、店の片隅で読み耽(ふけ)りたくなる美しい本ばかり。製造を終えた色ガラスのコップや、廃業した工房の製品などデッドストックもお値打ち。ガラス彫り体験は要予約。

10:00~19:00(火・月祝は11:00~18:00)、月休(祝の場合は翌火休)・不定休。
☎03-6240-4065

世界が注目する工場発の紙文具『ITO BINDERY』

大きさ、色が選べるメモブロックは本文350枚、Sサイズ1100円~。
大きさ、色が選べるメモブロックは本文350枚、Sサイズ1100円~。

世界のホテルやインテリアショップでも扱われているのがメモブロック。祖父の代から続く製本会社だが、2010年より上質な紙を用いたオリジナルのステーショナリーを発売。2023年に小さな店を工場に併設した。黒い紙にえんぴつで書けば文字が照って見え、書き味もなめらか。好みの紙を選んで作るワークショップも人気だ。

10:00〜12:00・12:50〜17:00、土・日・祝休。
☎03-3622-8865

ビールに、シードル、そしてラキヤへ『Miyata Beer』

自販機は5~23時に稼働。左からハードサイダー、ゴールデンエール各1000円。ビールはタンク替わりで約4種あり。
自販機は5~23時に稼働。左からハードサイダー、ゴールデンエール各1000円。ビールはタンク替わりで約4種あり。

「農家から果実を仕入れて作る、ワイナリーへの憧れがあって」と、2014年よりクラフトビアを造る宮田昭彦さんは長野の農家直送のリンゴを用いて、ハードサイダー(シードル)を2017年より醸造開始。さらに、セルビアに赴き、地ブランデーのラキヤの蒸溜も学び、今ではリンゴ、モモ、プルーンなどで仕込むように。果実の香味がクセになる。

金は18:00〜24:00、土・日・祝は15:00〜24:00、月〜木休。

illust_2.svg

のどかで心楽し、凝り性たちの逸品めぐり

錦糸~業平を貫くタワービュー通り。
錦糸~業平を貫くタワービュー通り。

両国に居を構えた葛飾北斎がもしも現代に生きていたら、きっと東京スカイツリーも浮世絵に忍ばせたに違いない。民家や商店の屋根の上で、ビルの隙間で、路地の向こうで、視界に滑り込んでくる。

そんな塔下町は、近代以降、モノづくりで大いににぎわってきた。「舟運が盛んで、隅田川沿いに工場が建てられたそうです」と教えてくれたのは『ちいさな硝子の本の博物館』の村松栄理さんだ。ガラス関連の書籍に加え、ガラス職人さん手書きの記録ノートも館に保管され、ページをめくれば、汗と挑戦の日々に胸が熱くなる。

アルカキット錦糸町前で見ほれる人多数。
アルカキット錦糸町前で見ほれる人多数。

工場の多くがマンションに取って代わったと耳にするが、それでも、オリジナル商品の直版で活路を見出す工場は少なくない。業平の路地奥には、国旗マニアにはたまらぬ旗の専門店『TOSPA東京製旗』が潜んでいるし、本所の『ITO BINDERY』は高いデザイン性と丁寧なつくりで世界にファンを増やしている。しかも2023年から工場を覗(のぞ)き見できる小体の店でワークショップを始めたら、外国人観光客らも熱中。代表の伊藤雅樹さんは「日本の上質素材で日常品を作りたいそうですよ」と目を輝かせる。

木陰が心地いい隅田公園(向島)。
木陰が心地いい隅田公園(向島)。

引き継ぐのは街が紡いできた縁

テントサインに記された店名は時計・メガネの『正確堂』。でも中を覗(のぞ)くと、喫茶店でもあり植物店でもあり。「母は今も時計の電池交換を担当してますよ。昔なじみの方も多いですから」と話すのは『安藝’s Garden & Café』の安藝勇樹さんだ。祖父が営んだメガネや時計、2階で祖母が営んだ会員制スナックの赤いソファを並べ、そこに、勇樹さんが集める珍しいモルトウイスキー、兄の勇人さんが沼ったビカクシダを配置し、その隙間にアートも展示。安藝家みんなの凝り性の証しを一緒くたに収めた摩訶(まか)不思議さだが、ほっこり和んでしまうのは、ご近所さんと共に縁側風情を醸すからか。

東京ミズマチを物色しながら川沿いをぶらぶら。
東京ミズマチを物色しながら川沿いをぶらぶら。

東京スカイツリー好きが高じて『cafe 宙』を開くルカタマさんは「このまちは良い意味で、田舎にいるみたい。近所付き合いがあって、人情があって」と、目尻を下げる。ご近所さんが新しい客を連れてくるなんて日常茶飯事。自身も店の客と共に新店詣でに出かけたりと、すっかりすみだ流をマスター。初めての客も外国人観光客も、カタコトの英語とスマホの翻訳機能を駆使して、朗らかに笑い合うマチナカサロンと化している。

ひがしん北斎ギャラリーで北斎さんとパチリ。
ひがしん北斎ギャラリーで北斎さんとパチリ。

『Miyata Beer』では、毎度、造りを変えて仕込むクラフトビールが味わい深い。喉を潤しながら、客はそれぞれ、けん玉に興じたり、中東界隈の写真を眺めたり。しかも、店主の宮田さんの知人がコーヒーやアラブのお菓子を販売することもあって、駅から離れた店はのどかにいろんな世界観が混ざり合う。

昔ながらの街にツリーがひょっこり。
昔ながらの街にツリーがひょっこり。

ふと『安藝’s Café』の勇樹さんが「もともとのんびりした町ですが、好きな世界に没頭する人が多いのかな」と話していたことを思い出した。遊び心を持つものづくりの人たちは、世間話的に始まる見知らぬ世界に感化され、新たなアイデアのタネにする。この町のご近所付き合いは、世界から集う人たちもそっと巻き込んで繰り広げられ、新たな街の魅力を生んでいる。

押上駅前自転車駐車場の屋上はツリー&電車のビュースポット。
押上駅前自転車駐車場の屋上はツリー&電車のビュースポット。

取材・文=林 さゆり 撮影=山出高士
『散歩の達人』2025年8月号より

錦糸町駅から南に5分ほど歩いた首都高速7号小松川線の高架下で毎年夏に「すみだ錦糸町河内音頭大盆踊り」が開催されている。私も最近は毎年参加していて、2024年は私が描いている漫画のタイトル『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』が書かれた提灯を献灯した。会場は「竪川(たてかわ)親水公園特設会場」で、来るたびに高架下にこれだけ巨大な空間が広がっていることが不思議だった。以来暗渠(あんきょ)となっている竪川の歴史についてもいつかきちんと調べたいと思っていたのだが、先日たまたまこの竪川を歩くまち歩きツアーが開催されるということを知り、参加することにした。そのツアーとは旧本所区周辺の水路を研究する「旧水路ラボ」による「堀の記憶を歩く」と題した4回連続のイベントで、最終回の第4回「川跡と鉄道編」が錦糸町駅から大横川親水公園を経由して竪川を歩くものだった。案内人の暗渠マニアックスのお二人の解説とともに竪川に架かる橋(暗渠に架かる橋なので“暗橋”)を巡る行程は大変楽しく、勉強になった。そこで今回は勝手にそのツアーの復習も兼ねつつ、竪川の橋の他に見ておきたいと思っていた横十間川と小名木川が交差する地点まで歩いてみることにした。
「べらぼうめ!」主人公の蔦屋重三郎(以下・蔦重)をはじめ、登場人物が度々口にするこの言葉。ドラマのタイトルにもなっているが、もともとは穀物を潰した道具の「箆棒(へらぼう)」からきているとも言われ、意味は「穀潰し」という不名誉なものであったと伝えられている。それがいつしか一般的でない者に対して使われるようになり、転じて「常識では考えられないばかげたこと」や「桁外れなこと」を示す江戸ことばとなっていったとか。実際には「ばかだなぁ」くらいの、軽い意味で使うことも多かった。そして同じ江戸ことばで「何を言っている」を表す「てやんでぇ」と合わせ、「てやんでぇ、べらぼうめ!」が江戸っ子の決まり文句のようになっていく。まぁ大抵が気の短い江戸っ子の、喧嘩(けんか)の前口上という場面でのようだが。