アクセス
鉄道:私鉄・地下鉄浅草駅から東武鉄道伊勢崎線・日光線・宇都宮線で約2時間の壬生駅下車。おもちゃのまち駅へは壬生駅から約6分。
車:東北自動車道川口JCTから東北自動車道・北関東自動車道を利用し、壬生ICまで約86km。同ICから壬生町中心部まで約5km。
2025年2月オープンの開放的で居心地よい食事処『自然食 いなかめし』
狭い田舎道を進んだ先にあり、古民家をセルフリノベーションした店内にはゆったりとした時間が流れる。「子育て中の方や働く世代も、くつろいで長居してほしい」と店主の鈴木瞳さん。米や有機農法の野菜、平飼いの名古屋コーチンの卵など、食材の大半を自ら調達し、素材のおいしさを生かした料理を提供している。
東京ドーム11個分の広さを誇る『道の駅みぶ』
北関東自動車道壬生パーキングエリア・みぶハイウェイオアシスに連結した「みぶハイウェーパーク」、週末を中心に池を配した園内をわんぱくトレインが巡る「とちぎわんぱく公園」、ファミリー層に人気の遊具を備え、自ら鉄道模型を走らせることもできる「壬生町おもちゃ博物館」、「壬生町総合公園」から構成。総面積は全国各地にあまたある道の駅でなんと日本一とか。1日で回りきるのが大変な広さだけに、時間に十分余裕をもって訪れたい。
約2900点ものエジソンの発明品を収蔵『おもちゃのまちバンダイミュージアム』
日本のおもちゃ、西欧を中心としたアンティークトイ、エジソンの発明品、ホビーの4テーマからなる博物館。玩具を中心とした膨大な量の展示に郷愁を覚える大人も多いだろう。世界で五指に入るコレクション数の「エジソンミュージアム」も必見。
地元に根付く歴史や自然を和菓子で表現『しもつけ彩風菓 松屋』
無病息災を願う地元のきぶな伝説にちなんだ上品なミルクまんじゅう「きぶなまもり」や、壬生産のゴボウやニンジンの粉末などを練り込んだ「きんぴら揚げまんじゅう」が人気。夏向けの季節限定商品「生きぶなれもん」は葛を用いたプルプル食感で、さっぱりとしたレモン味が合う。
父が始めた蕎麦(そば)店を姉妹で継いでリニューアル『蕎麦とスイーツ みかど』
自家栽培の無農薬蕎麦を石臼で挽き、打ちたてを提供。香りと食感が格別のもりそば1000円などに加え、日替わりのスイーツにもこだわる。蕎麦のガレットに自家製プリン・季節の果物・アイスを添えたプリンセスアラモード1100円は、壬生お姫様料理認定のぜいたくデザートだ。
江戸中期に当地を治めた鳥居家の家祖をまつる「精忠神社」
正徳2年(1712)から明治維新まで壬生藩を治めた鳥居家。現在、壬生城址公園として整備された一角にある神社で、徳川家康に仕え、1600年の伏見城の戦いで自刃(じじん)した鳥居家の家祖・元忠を主祭神としてまつる。本殿裏手には、自刃の際に血で染まり、忠義の証しとして江戸城伏見櫓(やぐら)に置かれた畳を埋めた畳塚がある。
古墳時代後期築造の古墳が多く残る「みぶの古墳」
壬生町をはじめ、近隣の下野(しもつけ)市・上三川(かみのかわ)町一帯には6世紀後半以降のものとされる古墳が数多く点在。壬生町の古墳は茶臼山古墳や富士山古墳など町内北部の「羽生田(はにゅうだ)の古墳群」と、車塚古墳・牛塚古墳など南部の「壬生の古墳群」に大別され、現地には解説板も整備。出土した巨大埴輪(はにわ)などは『壬生町立歴史民俗資料館』に展示されている。
丁寧な仕事ぶりに裏打ちされた日光下駄と草木染『てしごと屋ひでお』
江戸時代に起源をもつ伝統の日光下駄と、藍や柿渋の草木染作品を手がける星秀男さんの工房兼店舗。独自に改良を施した軽くて丈夫な草履(ぞうり)型の下駄は3万円台が主流で、足型に合わせて調整してもらえる。草木染は5000円前後の小物から4万円台のバッグまで種類豊富で、手によくなじむ。
採蜜から瓶詰め、販売まで全工程を夫婦でまかなう『島田養蜂園』
壬生町周辺で採蜜した県産はちみつを、手間ひまかけて商品化。クセがなく上品でさっぱりとした味わいのアカシア200g1100円~と、フジ・エゴノキ・アカシアなどを合わせた濃厚で深みのあるブレンド同900円~のほか、稀少な季節限定品なども扱う(価格変更の予定あり)。
店のコンセプトは“心に余白を設(しつら)える”『Cafe:甘茶』
板前であり、バリスタであり、茶人としても活動する鈴木葵さんが営む落ち着きあるカフェで、来店は最大2名まで。提供されるスペシャルティコーヒー、お茶、甘菓子から、茶室の雰囲気を取り入れた空間づくりに至るまで、鈴木さんの思いが込められている。
「おもちゃのまち」の起源
壬生町に関心を寄せたのは、難読地名にも挙げられる町名と、「おもちゃのまち」なる地名・駅名が気になったからである。それ以外は事前情報もなく、少々不安な心持ちのまま、徒然旅が始まろうとしていた。
そんな私に、「大ざっぱに区分すれば、北関東自動車道の北側がおもちゃのまちに代表される新しい町で、南側が江戸時代に壬生城の城下町として発展した古くからある町です」と教えてくれたのは、壬生町の前観光交流係長・武田潤一さんだ。
聞けば、壬生藩に伝わる御献立帳を基に現代風にアレンジした「壬生お殿様料理・お姫様料理」企画の仕掛け人で、町内のありとあらゆる情報に常時アンテナを張り巡らす“超”熱い御仁であることが分かった。矢継ぎ早に繰り出される情報量の多さに、早くも頭の中がパンクしかけたため、ひとまず頭を冷やすべく、町の北側へ足を運んでみた。
1960年代前半、東京・下町の玩具メーカーや関連会社が平坦で広大な土地に着目し、生産拠点を移したのが「おもちゃのまち」の起源で、65年に東武鉄道の新駅が誕生。77年には正式な地名として登録されたのだとか。工場や住宅が整然と立ち並ぶ様子は、たしかに新しい町との印象を抱いたが、少し足を延ばせば、のどかな田園風景が至るところに広がっていた。
人の温かさに触れて不安な心持も一掃
ひとしきり町の北側の気になるスポットやお店を巡ったあとは、引き続き南側を探索することとしよう。
道すがら目にした「蕎麦とスイーツ」の看板や古墳を示す案内板に気を取られながら、かつての城下町と思しき一角へたどり着いた。
「壬生の歴史を語るうえで外せない地ですので」と前述の武田さんに教わった精忠神社は、壬生藩・鳥居家の家祖である元忠をまつる社で、地域住民の心の拠りどころでもあったとのこと。『壬生町立歴史民俗資料館』学芸員の藤栄友里絵さんによれば、元忠の命日に営まれる例祭は、以前は勇壮な武者行列が練り歩くほど盛況を極めたという。
さらに南に位置する『てしごと屋ひでお』や『島田養蜂園』にも足を運び、仕事に対するこだわりなどを伺ったが、これまで迎え入れてくださった皆さん同様、裏表のない気持ちのよい方ばかりなのが心底うれしい。
気づけば当初の不安はどこへやら、今では気分もすっかり晴れやかだ。旅の締めに立ち寄った『Cafe:甘茶』はそんな心持ちにぴったりの場所で、店内に流れる音楽に身を委ねていると、こわばっていた心身がほぐれていくのが分かる。店を切り盛りする鈴木葵さんから、「日々の生活の中の句読点として、この空間を利用してください」と声をかけられ、「うまいこと言うなあ」と感心しながら、自慢のお茶に口をつけた。
【耳よりTOPIC】近代かんぴょう発祥の地の新名物
国産かんぴょうの9割以上を生産する栃木県。正徳2年(1712)、壬生藩鳥居家初代の忠英が旧領の近江国(現・滋賀県)から種子を取り寄せたのが起源とされる(諸説あり)。一般的には甘辛く煮たかんぴょうを酢飯と海苔で巻いたかんぴょう巻きが思い浮かぶが、そこにあえてワサビを加えた「みぶのサビかん」を開発。口にするとワサビの刺激が意外なほど合うからびっくりだ。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2025年6月号より