アクセス
鉄道:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から小田急小田原線で約50分の本厚木駅下車。神奈川中央交通バスに乗り換え約30分で清川村中心部。
車:東名高速道路東京ICから同道を利用し、厚木ICまで約35km。同ICから清川村中心部まで約12km。圏央道相模原ICも利用可。
神奈川県唯一の村
昨年暮れだったか、思い立って神奈川県愛川町の登山口から仏果(ぶっか)山・高取(たかとり)山を目指したことがある。山頂に立つと視線の先には丹沢の山並みが横たわっていたが、それ以上に気になったのが眼下に見える宮ヶ瀬湖とダム建設に伴う高台移転で整備されたと思しき宅地や学校、そして広大な湖畔園地だった。
下山後に調べると、山頂から見えていたのは「神奈川県唯一の村」が謳(うた)い文句の清川村だという。「唯一」の言葉が気にかかり、季節を変えて足を運んでみることにした。
半年前に稜線から俯瞰していたのが宮ヶ瀬地区で、ダム建設により誕生した宮ヶ瀬湖の一角に各施設が寄り添っているのは、登山時の記憶のままだ。水没前の界隈の様子はもちろん知る由もないが、丹沢山系から流れ下る豊富で良質な水と色濃い自然は、昔も今もさほど変わらないのだろう。
周囲の山並みに目をやりながら湖畔園地を離れ、湖を前にした特等席にポツンと立つ『Le Café d’Oguisso(カフェ オギッソ)』で一服してから、さらに南を目指して土山峠を越えた先が、村役場や道の駅のある煤ヶ谷地区になる。ダム建設の余波はこちらまで及ばなかったため、昔ながらの曲がりくねった狭い路地が今も随所に息づいている。
清川はなけれど清らかな水はある
ところで村名の清川はどこを流れているのだろう。村づくり観光課の朝倉義則さんに尋ねると、「宮ヶ瀬地区にあるのが中津川、ここ煤ヶ谷地区を流れるのが小こ鮎あゆ川で、実は清川はないんですよ」とのこと。
そこで由来をひもとくと、1956年に宮ヶ瀬村と煤ヶ谷村が合併した際、中津川や小鮎川が育む自然の清らかさを保ち、川のごとき大らかな人情を培い、水のごとく絶え間ない意気をもって文化産業を振興する、との思いで名付けられたのだとか。清らかな川が流れている程度の発想しか思い浮かばない自分とは雲泥の差だ。
そんな村内のあちらこちらで目にしたのが「清川恵水(めぐみ)ポーク」である。地元・山口養豚場で育てられたブランド豚の名称で、精肉販売のほか、多くの飲食店のメニューとしても注目されている。手にした資料には「清川村の豊かな自然と丹沢山系のミネラル豊富な伏流水に育まれ……」とあるので、さぞかし人里離れた山奥で飼育されているのかと思いきや、「いや、村役場のすぐ近くですよ」と再び朝倉さんに教えられた。裏を返せば、地域全体の自然環境が豊かであることの証左で、そういえば住民の誰もが「清川村の水は本当においしいんです」と誇らしげなのも合点がいった。
その自慢の水を沸かした『別所(べっしょ)の湯』で汗を流したら、道の駅に立ち寄り、清川恵水ポークのうまみを凝縮した『清川ミートファクトリー』のソーセージでも見繕っていくことにしよう。
清川リバーランド
家族や仲間たちと気軽にアウトドア体験を
川遊びもできる渓流沿いのキャンプ場。日帰りでBBQ(1カ所1100円)に興じたり、コテージ(1万6500円/繁忙日2万2000円)やバンガロー(5500円/繁忙日6600円)に泊まったりと、過ごし方は自由だ。追加料金でニジマスのつかみ取りや釣りも楽しめる。
宮ヶ瀬湖畔園地
とにかく広くて開放感もたっぷり
宮ヶ瀬ダム建設で誕生した宮ヶ瀬湖の西畔に位置し、園地を吹き抜ける風が心地よい。バス停や駐車場から水の郷商店街を抜けた先にあるメイン階段からは、鮮やかな芝生が印象的なけやき広場や水の郷大つり橋を一望できる。大噴水が目を引く親水池をはじめ、ピクニック広場、じゃぶじゃぶ池、グラススライダーなどが点在し、誰もが思い思いにゆったり過ごせるのがいい。園内を約20分で一周するロードトレイン「ミーヤ号」は土・日曜・祝日や繁忙日を中心に運行。大人も気軽に乗れる(一周400円)。
Cafe WILD CHICKEN
熱き思いの詰まった丹沢滋黒軍鶏を味わえる
宮ヶ瀬湖畔園地の水の郷交流館内にあり、無投薬飼育に徹した丹沢滋黒軍鶏(じぐろしゃも)の料理を提供。ガラスープにチャーシュー2種がのった軍鶏ラーメン1210円、軍鶏肉を炭火で炙った親子丼1500円など、滋味あふれる軍鶏肉の魅力を堪能できる。
宮ヶ瀬手しごとの家
古民家がゲストハウスに変貌!
築約100年の養蚕農家を再生した素泊まり施設で、シングル2室・ツイン1室がある。風呂・トイレは共同で自炊用キッチンも完備。「さとくらし」HPからAirbnbのサイトを通じて予約可。離れには酒類販売店『手しごと商店』を併設(週末営業)。
Le Café d’Oguisso(カフェ オギッソ)
静かにジャズが流れる居心地のよい空間
宮ヶ瀬湖を前にした立地もさることながら、気の利いた接客が好印象の自家焙煎カフェ。食感の妙が楽しめるサンドイッチや季節感を重視した手作りスイーツも評判だ。フードのみの注文は不可で、スペシャルランチセットは合計金額から200円引き。
シュミノクラウス
アメリカンなメニューが似合うPOPな店構え
看板メニューは清川恵水(めぐみ)ポークを炭火で丁寧に焼き上げたスペアリブで、醤油ベースで甘めの特製タレが合う。長さ45cmのハーブ風味ソーセージを挟んだMEGADOG2000円は2人で取り分けても十分な量だ。自家製ジンジャー・エールやレモネード各650円もぜひ。
手作りパンHEAVEN(ヘヴン)
薪で熱した石窯で黙々とパンを焼き上げる
「生地の中心にも熱が伝わり、ムラなく焼ける石窯にこだわってます」と語るパン職人の城所(きどころ)照彦さん。国産小麦、白神(しらかみ)こだま酵母に清川村の水を加えたパンは25種前後。清川茶のパウダーを練り込んだ大納言茶ブレッド600円は、デニッシュならではの食感に小豆の甘さが合う。
仏果山・高取山
宮ヶ瀬湖を見下ろしながら低山ハイクを楽しむ
清川村と愛川町の境に位置し、いずれの山頂からも宮ヶ瀬湖越しに丹沢や大菩薩方面の山並みを見通せる。登山口は複数あるが、近くに駐車場もある仏果山登山口バス停を基点に両山を巡った場合の標準タイムは約4時間。公共交通利用であれば登頂後に愛川町側へ抜けてもよい。春~秋はヤマビルが発生するので忌避剤を準備するなど対策を。
清川村ふれあいセンター 別所の湯
森に囲まれた日帰り入浴施設
丹沢山系の水を加温した沸かし湯で、行楽帰りに汗を流すのに便利。サウナや露天風呂を備えた浴室は「清流のテーマ浴場」「森のテーマ浴場」に分かれ、男女が毎週入れ替わる。併設の食堂では清川恵水ポークを使用した料理も提供。
清川ミートファクトリー
村の新たな特産品として注目を集める
清川恵水ポークを加工した手作りソーセージとベーコンの工房。さっぱりとしつつもジューシーな脂質を生かすべく、ソーセージは食感のよい粗挽きに。店頭販売は『道の駅清川』のみで、あらびき100g 496円、唐辛子・にんにく・山椒入りは100g 各521円、ベーコン220g 1229円。HP内の通販サイトからも購入可。
☎046-281-7320
【耳よりTOPIC】村の伝統行事「青龍祭(せいりゅうさい)」が8月に開催
江戸時代から昭和初期にかけて煤ヶ谷地区で行われていた雨乞いの儀式を、地域学習活動の一環として1986年に復元したもの。竹・茅(かや)・藁(わら)で組まれた2頭の龍が、緑小学校から本祭会場の清川村運動公園まで約2kmの道のりを子供らに引かれながら練り歩く。2024年の開催日は8月10日(土)で、来場の際は公共交通の利用を。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年7月号より