街並みと共に高低差をも味わう冒険へ

ジェラートを待ちながら、今日歩く道をマップで確認。中目黒から恵比寿まで、起伏に富んだ地形を思い切り味わいたい!
この近辺も東山、青葉台など地形が由来の地名が多い。中目黒駅西側の『JOHN’S ICE CREAM』は、美容室『BROSS TOKYO』が店内で兼業する店で、ラインナップは一見奇抜だが、ジェラートは合成着色料不使用。コンテナ式のギャラリーも併設し、旬のアートを発信中だ。中目黒の最先端を体験したら、いざ出発。

駒沢通りから西郷山通りが分岐。西郷山通りの方が若干勾配があり、進むにつれて高低差が開く。
駒沢通りから西郷山通りが分岐。西郷山通りの方が若干勾配があり、進むにつれて高低差が開く。

駒沢通りを越えてしばらく南下すると、なべころ坂にぶつかる。坂下のカセットテープ店『waltz』の店主・角田さんは目黒出身で、「昔この辺りには町工場がたくさんありました。ここも金型工場だった」そう。店内のガラスケースには90年代に発売されたウォークマンなど、修理済みの再生機器も。この先の急勾配(こうばい)を思い、へこたれそうな自分を鼓舞するためにも、ウォークマンにお気に入りの音楽を入れて携帯したくなる。

目黒川には、いつの季節も癒やしを求めて人が集まる。名物のしだれ桜は葉が落ちたシルエットもいい。
目黒川には、いつの季節も癒やしを求めて人が集まる。名物のしだれ桜は葉が落ちたシルエットもいい。

立つ位置によって見える景色が一変

今日イチの難所、別所坂を見上げ、その角度に足がすくむ。さっき『中二北商店』で弁当を買った時、「恵比寿に行くにはこの坂を抜けるといい」と教わった。住民の通勤・通学路らしいが、毎日こんな急坂を上り下りしているのか……。中目黒住民の脚力、すごすぎる。別所坂児童遊園に逃げ(と言っても長〜い階段あり)、その敷地の先端に立つと、視線の先には中目黒のタワーマンションが(top写真参照)。
ちなみに、駒沢通りと旧山手通りが交わる鎗ヶ崎(やりがさき)交差点の辺りを昔は別所台と言い、台地から鎗の穂先のように突き出ていたことから鎗ヶ崎と呼ばれたそうだ。

別所坂の頂上から反対側に下る坂は観音坂という。この峠を越えると徐々に恵比寿の匂いが濃くなる。

今回のルートでは、この観音坂が恵比寿の入り口。中腹に馬頭観世音が、坂下には道しるべが立つ。
今回のルートでは、この観音坂が恵比寿の入り口。中腹に馬頭観世音が、坂下には道しるべが立つ。

『トキワ卵の会』では、「ここ恵比寿南は、以前向山という地名でした」と聞いた。そこまでキツくはないが、ここも北西から南東に上る緩やかな斜面にある。

日が暮れ、高低差を巡る冒険はいよいよ終了。

恵比寿駅前で50年以上続く商店街、『えびすストア』。鮮魚店は良心的な価格で、近隣住民やプロの料理人も仕入れに訪れる。
恵比寿駅前で50年以上続く商店街、『えびすストア』。鮮魚店は良心的な価格で、近隣住民やプロの料理人も仕入れに訪れる。

『大衆喫茶つばき』の生レモンサワーで乾いた喉を潤す。それに合う3品を盛り合わせてもらったら、自家製和風ピクルスのほのかな酸味とカツオ出汁の旨味が歩き疲れた体に効く〜! ああ、別所坂児童遊園から見た景色が脳に焼き付いて離れない。酔いが回ると共に、心地よい疲労感が広がっていく……。

illust_3.svg

【坂を越えれば彩を変えゆく街と景色】

1. JOHN’S ICE CREAM

カスタム自由の極上ジェラート

美容室の店内で営業。季節で替わるフレーバーは、静岡県の杉山牧場で自然の素材を使って製造したオリジナル。トッピング自由で出来不出来はその人次第。味は確かだから、うまくできなくてもまた一興。ジェラート750円~(トッピングは別料金)。

●11:00~21:00、火・第3月休。☎03-3770-7750

2. 岩茶房

本場中国のお茶文化を発信

「僕の名前は茶茶。看板猫の仕事は楽しいよ……zzz」。
「僕の名前は茶茶。看板猫の仕事は楽しいよ……zzz」。

岩茶は中国・福建省の岩山で作られたお茶。お湯がおかわり無料で、2煎、3煎と楽しめる。味や香りが徐々に変化し、「6煎目が好き」という常連も。おすすめは極品肉桂2500円。

住所:東京都目黒区上目黒3-15-5/営業時間:12:00~17:00(16:30LO)/定休日:日・月・祝/アクセス:地下鉄日比谷線・東急電鉄東横線中目黒駅から徒歩5分

3.なべころ坂 〔☆高低差味わいポイント〕

いつか本当に転がしてみたい

緩やかなカーブが美しい。坂名の由来は諸説あるが、なかでも「鍋が転がるほど急坂だったから」という説にひかれる。実際に歩くと見た目よりキツく、確かに鍋がころころとよく転がりそうだ。

4.waltz

随一の品揃え。カセットテープの名店

廃れたと思われたカセットテープの文化は2010年代に再燃。「むしろ現在進行系です。旧譜の復刻版だけでなく、新譜も続々リリースされています」と店主の角田太郎さん。店頭に出ているだけでも、なんと5000タイトル以上!

●13:00~19:00、月休。☎03-5734-1017

5.目黒工芸社

ベテランも若手も元気な町工場

アクリル加工が得意な創業60年以上の町工場。街でよく見かけるような防災系の銘板は、特に注文が多いとか。キーホルダーなどのオリジナルグッズは工場で直接購入でき、ナカメのぼんぼり1650円は名入れも可能。

●8:30~17:30、土・日・祝休。☎03-3711-8418

中目黒みやげにぴったり!名入れは550円〜。
中目黒みやげにぴったり!名入れは550円〜。

6.なかめ公園橋+中目黒公園

区民が心を込めて草花をお世話

なかめ公園橋を渡り、中目黒公園へ。園内には緑があふれ、「みんなの花壇」「いきもの池」は区民が管理する。ベンチで弁当を食べる人がいたり、ほどよい生活感が心地よい。

7.中二北商店

日替わりのおかずが選べる大満足弁当

昼時、住宅地にちょっとした行列が。その先にあるのはキッチンカーで、おかずが選べる自分好みセレクト弁当750円が人気。キュウリの種を取り除いたり、一つひとつ丁寧に手作り。近々夜の営業も始める予定で、副菜セットはつまみに◎。

●11:30~14:00(売り切れ次第終了)、土・日休。☎なし

8.別所坂 〔☆高低差味わいポイント〕

下りはヨイヨイ、上りはツライ

目黒川に面した急斜面を切り開いた切り通しの坂。上に行くほど急になり、上り切る直前、追い打ちをかけるように難所が……。後悔しないとも限らないが、挑戦しがいがある。

9.別所坂児童遊園 〔☆高低差味わいポイント〕

約100段上るとたどり着く別天地

開放感たっぷりで気持ちいい。「ヤッホー!!」と叫びたくなる。
開放感たっぷりで気持ちいい。「ヤッホー!!」と叫びたくなる。

界隈きっての急坂、別所坂。枝分かれした長〜い階段をやっとの思いで上り切ると、広〜い青空が待っていた。向こうでは中目黒アトラスタワーと中目黒GTタワーが背比べ(前者の圧倒的勝利)。

10.トキワ卵の会

有志が集まりこだわり卵を直売

「私はいつも卵かけご飯にして食べていますよ」
「私はいつも卵かけご飯にして食べていますよ」

青森県の野辺地農場から仕入れた平飼い卵を直売。元々は生協の共同購入だったが、1977年頃にサービスが終了し、「それでも欲しいという主婦が集まって自分たちで始めたんです」。さっぱりした後味に根強いファンが多数。M玉6個174円。

●11:00~17:00、木・土・日休。☎03-3793-0047

11.東京豚饅

本格豚饅を片手に恵比寿さんぽ

厨房で指揮を執るのは、その道40年の台湾出身点心師。完全無添加、3種類の豚肉をブレンドすることで奥深い旨味、食感を引き出したあんを使う。ほんのり甘い皮は自社工場で製造し、新鮮なうちに直送。豚饅250円、焼売6個入り580円。

●11:30~21:00、月休。☎03-3441-0551

12.uRn.chAi&TeA(アーン チャイ アンド ティー)

スパイスを砕く音にもわくわく

「茶葉とスパイスを煮詰めてチャイの原液を作ります」
「茶葉とスパイスを煮詰めてチャイの原液を作ります」

店内にスパイスの香りが漂い、それを嗅ぐだけで体力回復の兆し。6種類のスパイスを使ったオリジナルチャイ600円は、カルダモンが主張する華やかな味わいで、活力が湧く。ミルクは豆乳、オーツミルクなど選べる。

●9:30~20:00、不定休。☎080-9179-8317

13.大衆喫茶つばき

食通が集うエリアに現れた新星

2022年8月にオープン。和洋に中も折衷した創作料理ながら、奇をてらわない味で親しみが持てる。メニュー表はあるが、出張料理で培った対応力を武器に「食べたいと言われたものは何でも、冷蔵庫にあるもので極力対応したい」と店主の潤さん。

●18:00~23:00、火休。☎080-9679-7991

取材・文=信藤舞子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2022年12月号より