まるで森の中にいるようなくつろぎ空間『喫茶 吉野』【北鎌倉】

柔らかな日ざしが降りそそぐソファ席。そっと座れば、気分は名画の中の人物。
柔らかな日ざしが降りそそぐソファ席。そっと座れば、気分は名画の中の人物。

東慶寺の階段下に現れるきれいに波打った瓦屋根とレンガの壁。エントランスの向こうには、シャンデリアの抑えた灯(あか)りが見える。足を踏み入れると一転、ウッド調の内装はまるで避暑地のロッジのよう。

庇(ひさし)のように張り出した瓦屋根のおかげで夏も涼やか。
庇(ひさし)のように張り出した瓦屋根のおかげで夏も涼やか。

サンルームの窓から見える庭にはキジ科の野鳥が訪れたり、竹垣の上をリスがすばやく駆けたり。10年前に両親から店を受け継いだ2代目店主の吉野文史男さんは「午後、光が差し込む奥のソファ席に女性が座っていると、まるでフェルメールの絵画みたいで」と話す。

平日は席の予約もできる人気のサンルーム席。
平日は席の予約もできる人気のサンルーム席。

設計は北鎌倉に住み、この地の気候や地形に寄り添う多くの作品を遺した建築家・榛澤(はんざわ)敏郎。「1980年当初にはまだ珍しかった大きなガラス窓、アンティークの照明、寄木張りの床材、何から何まで榛澤先生のこだわりを感じる」と吉野さん。

「人と話すのが面白くて」と店主の吉野さん。
「人と話すのが面白くて」と店主の吉野さん。

庭を毎日手入れし、テーブルには花を絶やさず、サイフォンで淹れるコーヒーやドライフルーツたっぷりのケーキも開店当時から変わらない。できれば一度目はお気に入りの本を手にして一人で訪れてみてほしい。

サイフォンのまるいフォルムが空間に映える。
サイフォンのまるいフォルムが空間に映える。
アネモネ柄など「アラビア」で揃えられたコーヒーカップ。
アネモネ柄など「アラビア」で揃えられたコーヒーカップ。

『喫茶 吉野』店舗詳細

住所:神奈川県鎌倉市山ノ内1379/営業時間:10:00~16:00LO/定休日:不定/アクセス:JR横須賀線北鎌倉駅から徒歩4分

昭和初期の雅な時代に思いを馳せる『葉山茶寮 六花(りっか)』【逗子】

選べるお菓子とお茶のセット1500円(写真は冷抹茶とチョコ羊羹)。
選べるお菓子とお茶のセット1500円(写真は冷抹茶とチョコ羊羹)。

葉山御用邸近く、土塀に囲まれた家屋には思わず見入ってしまう気品と風格が漂っている。ここは、昭和9年(1934)、当時の宮内省が昭和天皇の侍医頭(じいのかみ)・塚原伊勢松の別邸として建てた一軒家だ。

庭の緑と白いのれんで涼しげな玄関。
庭の緑と白いのれんで涼しげな玄関。

引き戸を開け靴を脱いで上がると、和風建築でありながら、上質な洋のテイストが加わり、そのたおやかさに気持ちが華やぐ。「今では再現できない日本の伝統技術があちこちに施されているんです」と、店主の高橋章子さん。たとえば羽根の連なりを表したガラスのフェザー模様、風が強い海辺ならではの障子の桟の塵(ちり)返し、引き戸にはめ込まれたグリーンのダイヤガラス……。精緻でノーブルな意匠に惹きつけられる。

ゆとりある室内空間。毎週火曜日には金継ぎや日本刺しゅうのワークショップが開かれる。
ゆとりある室内空間。毎週火曜日には金継ぎや日本刺しゅうのワークショップが開かれる。
貴重な黒雲母の土壁が当時のまま残る奥のお座敷席。
貴重な黒雲母の土壁が当時のまま残る奥のお座敷席。

「この家を守りたい」という一心で5年前に店を始めたが、代々受け継がれた丁寧な暮らしと、日々の手入れのおかげで室内はほぼ建築当時のままだという。庭のマツの木や花々を眺めつつ、季節ごとの食材が盛り込まれた昼膳やお抹茶をいただきながら過ごす時間は、まさにリトリート。心に柔らかな余白がうまれる。

8種の小鉢と2段のせいろ蒸しに心ときめく六花御膳昼はん3400円(お茶とお菓子付き)。
8種の小鉢と2段のせいろ蒸しに心ときめく六花御膳昼はん3400円(お茶とお菓子付き)。
カウンターにしつらえられた茶釜の湯で抹茶をたてる。
カウンターにしつらえられた茶釜の湯で抹茶をたてる。
美濃焼や有田焼の茶碗、自家製餃子とラー油の販売も。
美濃焼や有田焼の茶碗、自家製餃子とラー油の販売も。

『葉山茶寮 六花』店舗詳細

住所:神奈川県葉山町一色1664-1/営業時間:水~日の11:30~16:30(ランチは~14:00LO・カフェは~16:00LO)。六花バーは金・土の18:00~21:00LO。/定休日:月・火(火は不定期営業あり)/アクセス:JR横須賀線逗子駅から京浜急行バス「海岸回り葉山・一色」行き約15分の「三ヶ丘 神奈川県立近代美術館前」下車1分

取材・文=平野かおり 撮影=佐藤侑治
『散歩の達人』2026年6月号より