この記事に関連する書籍
旅の手帖 2026年8月号
旅の手帖 2026年8月号
平均標高が1000m以上という長野県は、上高地や軽井沢だけでなく、古くから避暑地としての文化をもち、日本屈指の美しい山岳風景が連なる風土だ。おなじみの山々や高原の向こう側には、まだまだ知られていない眺望や秘湯、歴史がひそんでいる。

風鈴に胡弓。蚕都に流れる風の音

展示された曳山を見て驚く。高さ7mほどの巨大さもさることながら、彫刻や金具の精巧さが圧巻で一台まるごとが伝統工芸品のよう。

「車輪などの彫金は高岡、彫刻は井波、漆工は高岡や城端(じょうはな)と、越中の伝統の技が詰め込まれています」とは、越中八尾観光協会の楠純太さん。

江戸時代、養蚕と和紙作りで栄えた越中八尾は、蚕都(さんと)と呼ばれ、富山藩の財政の6割を賄っていた。贅を尽くした曳山は、その財力があればこそ。

絢爛豪華な曳山3台を鑑賞できる『曳山展示館』。
絢爛豪華な曳山3台を鑑賞できる『曳山展示館』。
専能寺の前でラジオ体操。どこか幸せな風景。
専能寺の前でラジオ体操。どこか幸せな風景。

「蚕種(卵)を生ませ、各地に売り歩くのに利用したのが、軽くて丈夫な和紙でした」と『桂樹舎』の2代目・吉田泰樹さん。

八尾和紙に惹かれた初代は、昭和21年(1946)に和紙工房を設立。重要無形文化財・型絵染の保持者である芹沢銈介(せりざわけいすけ)との交流から、型染め和紙が誕生した。

特徴的なのが、型紙を紙にあてて糊を置く作業。このときの糊の厚みやズレが機械的ではない温かな模様を生む。

八尾和紙の型染めが味わい深い『桂樹舎』のはがき箱(手前)5280円など。
八尾和紙の型染めが味わい深い『桂樹舎』のはがき箱(手前)5280円など。
「事前予約で紙漉き体験も受け付けています」と『桂樹舎』代表の吉田泰樹さん。
「事前予約で紙漉き体験も受け付けています」と『桂樹舎』代表の吉田泰樹さん。

曳山と並んで代表的なのが「おわら風の盆」。約300年前から踊られていたが、いまのかたちになったのは昭和初期。

財力をもった町人たちが「もっと洗練され、芸術性の高いおわらを」と、昭和4年(1929)に東京から日本舞踊の家元を呼んで新しい振りつけを導入。これが、新踊りと呼ばれるいまの男踊り・女踊りとなった。

「移住前に2回見に来ましたが、おわらの時期の越中八尾は、ぼんぼりが灯り美しかった」とは、『八尾ピザマニア』を2026年春に開業した中野哲さん。

「地元の人が、自信をもって紹介してくれるような本格イタリアンを目指しています」

北側から町を望むと、井田川の氾濫を避け、高台に町を築いたことがわかる。
北側から町を望むと、井田川の氾濫を避け、高台に町を築いたことがわかる。
格子戸や白壁の町並みが続く諏訪町本通り。東から西へ向かって上がる坂の町で、「おわら風の盆」のメイン舞台でもある。
格子戸や白壁の町並みが続く諏訪町本通り。東から西へ向かって上がる坂の町で、「おわら風の盆」のメイン舞台でもある。

海外から地元富山にUターン後、越中八尾に惹かれ、10年前に移住したのが『越中八尾ベースOYATSU』の原井紗友里さん。

「泊まりに来た方に、この町の日常の豊かさを伝えたい。『村井商店』の駄菓子を喜んでくれるフランス人もいれば、『玉旭酒造』のECHOES(エコーズ)のファンになってくれたマレーシア人もいるんですよ」

『玉旭酒造』の13代目・玉生貴嗣(たもうたかつぐ)さんいわく「八尾は感じる町」。「夜、夫婦でウォーキングしていると、おわらに向けて胡弓を練習する音が聴こえる。この町に生まれてよかったと思う瞬間です」

哀調ある音色や唄とともに、夜深くまで踊り歩く「おわら風の盆」。その季節も、もうすぐだ。

創業約80年の『こどもや村井商店』を営む村井陽子さん・憲治さん夫妻。「店に来る常連の子の名前は、なるべく覚えるようにしているよ」。地元の子はみんなここの駄菓子で育った!
創業約80年の『こどもや村井商店』を営む村井陽子さん・憲治さん夫妻。「店に来る常連の子の名前は、なるべく覚えるようにしているよ」。地元の子はみんなここの駄菓子で育った!
散策中、そこかしこから風鈴の音が……。
散策中、そこかしこから風鈴の音が……。
illust_2.svg

『八尾おわら資料館』「おわら風の盆」の季節がやってくる!

写真=越中八尾観光協会
写真=越中八尾観光協会

毎年9月1~3日、台風被害を受けず豊作になるよう祈りを込めて踊られる伝統行事。三味線や胡弓、『越中おわら節』に合わせ情緒豊かに舞う。資料館では歴史や見どころを展示。

☎076-455-1780
9:00~16:30受付
無休(臨時休あり)
200円
富山県富山市八尾町東町2105-1
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の鏡町下車、徒歩2分

「おわら風の盆」の最新情報はこちら
https://owara-gyoujiunei.com/index.html

『越中八尾ベースOYATSU』ここを拠点に回遊、町のコンシェルジュ

内蔵造りの「蔵」。中庭の緑が美しい。
内蔵造りの「蔵」。中庭の緑が美しい。
「蔵」は日曜にカフェ営業も。「⾚紫蘇ジュースやオリジナルブレンドを提供しています」と女将の原井さん。
「蔵」は日曜にカフェ営業も。「⾚紫蘇ジュースやオリジナルブレンドを提供しています」と女将の原井さん。

元紙問屋の商家を改装した「蔵」、欄間や檜風呂が美しい「織」など4棟の古民家を各一棟貸し。「チェックインの際は、30分近くかけて越中八尾の魅力を伝えています。食事や体験、お土産探しなどで町を回遊してほしくて」と女将の原井さん。

☎076-482-6955
一棟貸し3万円~(1名につき+3000円)
カフェは日曜の10:00~16:00
富山県富山市八尾町上新町2702
JR高山本線越中八尾駅からバス8分の曳山展示館前下車すぐ

ウェルカムドリンクの一例。
ウェルカムドリンクの一例。
町内で着物をアップサイクルするアパレルショップ『tadas』も展開。
町内で着物をアップサイクルするアパレルショップ『tadas』も展開。

『水上芳一(みずかみよしかず)商店』木桶で一年熟成ゆえのコクと香り

無添加味噌 特選おわら風の盆680円、定番の越中山吹味噌1㎏600円。甘酒はその場で飲む場合、紙コップ一杯300円で提供。
無添加味噌 特選おわら風の盆680円、定番の越中山吹味噌1㎏600円。甘酒はその場で飲む場合、紙コップ一杯300円で提供。
いまも木桶での醸造にこだわる4代目。
いまも木桶での醸造にこだわる4代目。
富山産コシヒカリで造る米糀。
富山産コシヒカリで造る米糀。

4代目夫婦で切り盛りする小さな味噌蔵。米糀から手作りする味噌は、長期の一年熟成にこだわり、風味が豊かで毎日味噌汁で飲んでも飽きがこない。夏場は糀の甘酒「おわら酔芙蓉(すいふよう)」360円を冷やして飲むと最高!

☎076-454-2311
8:30〜18:00、不定休
富山県富山市八尾町西新町3949
JR高山本線越中八尾駅からバス7分の西新町口下車すぐ

『桂樹舎(和紙文庫)』民藝好きの琴線にふれるやさしい意匠

和紙の上に型紙(黒い部分)を置き、もち粉と米ぬかをまぜた糊をしく。糊の部分が染まらず残る。
和紙の上に型紙(黒い部分)を置き、もち粉と米ぬかをまぜた糊をしく。糊の部分が染まらず残る。
20人の職人さんが在籍。
20人の職人さんが在籍。
館内には、国内外の紙を用いた調度品や生活用品を展示する和紙文庫を併設。
館内には、国内外の紙を用いた調度品や生活用品を展示する和紙文庫を併設。

富山藩・2代藩主の前田正甫(まさとし)により売薬が奨励され、その薬包紙や顧客名簿などで重用された八尾和紙。ここはいまも和紙を手漉きし、型染技法による模様染紙を作り続ける。手しごとならではのやわらかな風合いやぬくもりある模様が魅力だ。

☎076-455-1184
10:00~17:00(和紙文庫の受付は〜16:30、550円)
月(祝の場合は翌日)休
富山県富山市八尾町鏡町668-4
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の上新町口下車、徒歩3分

『八尾ピザマニア』おわらの町に本格イタリアンの風が吹く

ビアンケッティベース(しらす・チーズ・青海苔)1650円に、飛騨高原の生モッツァレラ カプレーゼ300円をプラス。牡蠣と大葉のリゾット2400円。
ビアンケッティベース(しらす・チーズ・青海苔)1650円に、飛騨高原の生モッツァレラ カプレーゼ300円をプラス。牡蠣と大葉のリゾット2400円。
特注の石窯でピザを焼く。
特注の石窯でピザを焼く。

富山の昆布の食文化から着想し、ピザ生地に昆布水を練り込む。「生地がやわらかくなり、あと味に昆布の風味が立ち上るんです」と店主の中野哲さん。ほかにもカルパッチョやアクアパッツァなど、富山湾の魚介を使ったメニューも!

11:30〜14:00LO・17:30〜22:00LO
水の昼と火休
富山県富山市八尾町東町2083-1 2F
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の鏡町下車すぐ

『玉旭酒造』多様化する食に合う豊富な酒質

純米吟醸 玉旭 BLACK2200円、大吟醸おわら娘2530円(各720ml)。
純米吟醸 玉旭 BLACK2200円、大吟醸おわら娘2530円(各720ml)。
「立山連峰の雪解け水の伏流水で仕込んでいます」と13代目の玉生さん。
「立山連峰の雪解け水の伏流水で仕込んでいます」と13代目の玉生さん。

さまざまな食事に合うよう、甘口や辛口、端麗に芳醇まで幅広い味わいのお酒を醸す。近年人気なのが、甘・酸・旨が共鳴している玉旭 ECHOES 2310円。こちらをはじめ生酒が多いが、お店でクール便も対応してくれる。

☎076-455-1331
9:00〜20:00
日・祝休
富山県富山市八尾町東町2111
JR高山本線越中八尾駅からバス5分の東町下車すぐ

『こうどん常松寺』喉ごしいい細麺で口から涼を

やわらかな八尾クリーンポークが覆う、豚おうどん御膳1900円。ミニトマトの呉羽(くれは)キャンディなど富山の食材を多用。うどんは冷・温を選べる。
やわらかな八尾クリーンポークが覆う、豚おうどん御膳1900円。ミニトマトの呉羽(くれは)キャンディなど富山の食材を多用。うどんは冷・温を選べる。
「散策の休憩にそばようかんや水出し玉露をぜひ」と、店を営む本宮京子さん。
「散策の休憩にそばようかんや水出し玉露をぜひ」と、店を営む本宮京子さん。

本宮京子さんの夫は常松寺と常福寺の兼務住職。常駐していない常松寺にも気軽に参拝に来てほしいと、本堂を利用し、自身の好きな氷見うどんの提供を開始。氷見うどんの名店・海津屋の麺はなめらかなコシと餅のような粘り!

☎090-4687-0331
11:00〜14:00
月〜金休(8月は第1〜3土・日も休)
富山県富山市八尾町東町2086
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の鏡町下車すぐ

illust_23.svg

取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年8月号より

龍野藩の城下町として栄え、江戸時代から昭和初期の町家や蔵が残る、龍野の重要伝統的建造物群保存地区。その東に流れる揖保川(いぼがわ)の恩恵を受け、うすくち醤油が生まれ、手延べそうめんの一大生産地となった。目と口で涼を求めて、白壁の連なる町へ。
2時間も歩けば、9つの商店街すべてを回れるほどコンパクトな群馬県前橋の街なか。シャッター街に活気をもたらす若手の出店や老舗ホテルの再生で、中心街がいま熱い。と思いきや、赤城山周辺にも新施設が続々と生まれ、地域全体の旅先の魅力が急上昇!
『アドベンチャーワールド』の人気者・パンダが返還されちゃった……南紀白浜。が、町長が原点回帰を謳い、温泉やビーチといったもともとある魅力を改めて磨き上げ。一方で、新たな施設やお店を展開する老舗も。海開きの初夏を迎える白浜が、いまおもしろい!
日本標準時の基準となる東経135度線。その経線=子午線が通り“時のまち”の愛称をもつ明石は、昼網で有名な明石浦漁港を抱える“魚のまち”でもある。ピンクの桜鯛が春の訪れを告げる明石へ。
東海道五十三次の42番目の宿場として栄え、いまもおおよそ1㎞四方のめぐりやすい範囲に史跡が点在する桑名。ハマグリをはじめ、名産品も多い美(うま)し国・三重の玄関口で“新旧のいいもん”を訪ねた。