風鈴に胡弓。蚕都に流れる風の音
展示された曳山を見て驚く。高さ7mほどの巨大さもさることながら、彫刻や金具の精巧さが圧巻で一台まるごとが伝統工芸品のよう。
「車輪などの彫金は高岡、彫刻は井波、漆工は高岡や城端(じょうはな)と、越中の伝統の技が詰め込まれています」とは、越中八尾観光協会の楠純太さん。
江戸時代、養蚕と和紙作りで栄えた越中八尾は、蚕都(さんと)と呼ばれ、富山藩の財政の6割を賄っていた。贅を尽くした曳山は、その財力があればこそ。
「蚕種(卵)を生ませ、各地に売り歩くのに利用したのが、軽くて丈夫な和紙でした」と『桂樹舎』の2代目・吉田泰樹さん。
八尾和紙に惹かれた初代は、昭和21年(1946)に和紙工房を設立。重要無形文化財・型絵染の保持者である芹沢銈介(せりざわけいすけ)との交流から、型染め和紙が誕生した。
特徴的なのが、型紙を紙にあてて糊を置く作業。このときの糊の厚みやズレが機械的ではない温かな模様を生む。
曳山と並んで代表的なのが「おわら風の盆」。約300年前から踊られていたが、いまのかたちになったのは昭和初期。
財力をもった町人たちが「もっと洗練され、芸術性の高いおわらを」と、昭和4年(1929)に東京から日本舞踊の家元を呼んで新しい振りつけを導入。これが、新踊りと呼ばれるいまの男踊り・女踊りとなった。
「移住前に2回見に来ましたが、おわらの時期の越中八尾は、ぼんぼりが灯り美しかった」とは、『八尾ピザマニア』を2026年春に開業した中野哲さん。
「地元の人が、自信をもって紹介してくれるような本格イタリアンを目指しています」
海外から地元富山にUターン後、越中八尾に惹かれ、10年前に移住したのが『越中八尾ベースOYATSU』の原井紗友里さん。
「泊まりに来た方に、この町の日常の豊かさを伝えたい。『村井商店』の駄菓子を喜んでくれるフランス人もいれば、『玉旭酒造』のECHOES(エコーズ)のファンになってくれたマレーシア人もいるんですよ」
『玉旭酒造』の13代目・玉生貴嗣(たもうたかつぐ)さんいわく「八尾は感じる町」。「夜、夫婦でウォーキングしていると、おわらに向けて胡弓を練習する音が聴こえる。この町に生まれてよかったと思う瞬間です」
哀調ある音色や唄とともに、夜深くまで踊り歩く「おわら風の盆」。その季節も、もうすぐだ。
『八尾おわら資料館』「おわら風の盆」の季節がやってくる!
毎年9月1~3日、台風被害を受けず豊作になるよう祈りを込めて踊られる伝統行事。三味線や胡弓、『越中おわら節』に合わせ情緒豊かに舞う。資料館では歴史や見どころを展示。
☎076-455-1780
9:00~16:30受付
無休(臨時休あり)
200円
富山県富山市八尾町東町2105-1
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の鏡町下車、徒歩2分
「おわら風の盆」の最新情報はこちら
https://owara-gyoujiunei.com/index.html
『越中八尾ベースOYATSU』ここを拠点に回遊、町のコンシェルジュ
元紙問屋の商家を改装した「蔵」、欄間や檜風呂が美しい「織」など4棟の古民家を各一棟貸し。「チェックインの際は、30分近くかけて越中八尾の魅力を伝えています。食事や体験、お土産探しなどで町を回遊してほしくて」と女将の原井さん。
☎076-482-6955
一棟貸し3万円~(1名につき+3000円)
カフェは日曜の10:00~16:00
富山県富山市八尾町上新町2702
JR高山本線越中八尾駅からバス8分の曳山展示館前下車すぐ
『水上芳一(みずかみよしかず)商店』木桶で一年熟成ゆえのコクと香り
4代目夫婦で切り盛りする小さな味噌蔵。米糀から手作りする味噌は、長期の一年熟成にこだわり、風味が豊かで毎日味噌汁で飲んでも飽きがこない。夏場は糀の甘酒「おわら酔芙蓉(すいふよう)」360円を冷やして飲むと最高!
☎076-454-2311
8:30〜18:00、不定休
富山県富山市八尾町西新町3949
JR高山本線越中八尾駅からバス7分の西新町口下車すぐ
『桂樹舎(和紙文庫)』民藝好きの琴線にふれるやさしい意匠
富山藩・2代藩主の前田正甫(まさとし)により売薬が奨励され、その薬包紙や顧客名簿などで重用された八尾和紙。ここはいまも和紙を手漉きし、型染技法による模様染紙を作り続ける。手しごとならではのやわらかな風合いやぬくもりある模様が魅力だ。
☎076-455-1184
10:00~17:00(和紙文庫の受付は〜16:30、550円)
月(祝の場合は翌日)休
富山県富山市八尾町鏡町668-4
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の上新町口下車、徒歩3分
『八尾ピザマニア』おわらの町に本格イタリアンの風が吹く
富山の昆布の食文化から着想し、ピザ生地に昆布水を練り込む。「生地がやわらかくなり、あと味に昆布の風味が立ち上るんです」と店主の中野哲さん。ほかにもカルパッチョやアクアパッツァなど、富山湾の魚介を使ったメニューも!
11:30〜14:00LO・17:30〜22:00LO
水の昼と火休
富山県富山市八尾町東町2083-1 2F
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の鏡町下車すぐ
『玉旭酒造』多様化する食に合う豊富な酒質
さまざまな食事に合うよう、甘口や辛口、端麗に芳醇まで幅広い味わいのお酒を醸す。近年人気なのが、甘・酸・旨が共鳴している玉旭 ECHOES 2310円。こちらをはじめ生酒が多いが、お店でクール便も対応してくれる。
☎076-455-1331
9:00〜20:00
日・祝休
富山県富山市八尾町東町2111
JR高山本線越中八尾駅からバス5分の東町下車すぐ
『こうどん常松寺』喉ごしいい細麺で口から涼を
本宮京子さんの夫は常松寺と常福寺の兼務住職。常駐していない常松寺にも気軽に参拝に来てほしいと、本堂を利用し、自身の好きな氷見うどんの提供を開始。氷見うどんの名店・海津屋の麺はなめらかなコシと餅のような粘り!
☎090-4687-0331
11:00〜14:00
月〜金休(8月は第1〜3土・日も休)
富山県富山市八尾町東町2086
JR高山本線越中八尾駅からバス6分の鏡町下車すぐ
取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2026年8月号より






