カレー南蛮が名物という意外性『日本ばし やぶ久』[日本橋]
明治35年(1902)創業。以来、日本橋で変わらず暖簾(のれん)を守る。現在の建物は1960年築で、1、2階はテーブル席、3階は掘り炬燵(ごたつ)の部屋。狭い急な階段は昭和の名残だ。定番のつまみはもちろん、揚げ物、煮物と種類が多い。冷酒は〆張鶴や澤乃井、八海山、真澄などといったなじみの銘柄がずらり。昔ながらの足踏み製法でコシを生むそばは、厚削りの本枯れ鰹(かつお)を煮出した濃いめのつゆによく合う。調味料も含め添加物を一切使用しない本物の味ばかりだ。
『日本ばし やぶ久』店舗詳細
古きよき昭和がそのままに『利久庵』[三越前]

1952年創業。その生き証人である大旦那の水谷清之さんは大正15年(1926)生まれで、今も混雑しない時間帯に帳場に座る。厨房の中台からメニューを出すカウンターなど、1階席は昭和のまま。さらにゆっくりしたければ地下でも良い。つまみならお昼は定食用のおかずである焼き魚などが格好のアテとなる。ポテトサラダがあるのもうれしい。日本酒は大関などだが、季節によっておすすめも提供。創業以来の更科そばは喉越しよく、甘めのつゆに合う。

『利久庵』店舗詳細
たまには池波正太郎のように昼酒を『神田まつや』 [神田]
食通で知られた池波正太郎が通った店としても知られる名店。ビル街の一角、屋号を記した釣り行灯や軒下に下がる大きな提灯が目を引く。昭和2年(1927)に閉店した、明治17年(1884)創業のそば屋『松屋』を譲り受けたのが始まり。ソバは、日本各地から、その時期に最もよいものを選ぶ。石臼で碾きぐるみにして、そば粉10に対してつなぎ2の割合で手打ちする外二。そば粉が多く、つなぎに鶏卵を使用するため、そばの香りと喉越しのよさが特徴だ。
『神田まつや』店舗情報
文化財級のレトロ庶民派そば屋『翁庵』 [上野]
明治32年(1899)創業。浅草通りに面した店は、昭和2年(1927)建築の木造2階建て。黒い屋根瓦や格子窓、黒光した床、船底天井などにも歴史を感じる。そばは、主に北海道産ソバを使用した細打ちの二八そば。冷たいそばには鰹節、温かいそばは宗田鰹と鯖節と、だしを使い分ける。名物のねぎせいろ800円は、戦時中、手頃な料金で天ぷらを食べられるようにと、先代が考えた創作料理だ。温かいつゆに長めに切った長ネギとイカのかき揚げの旨味が溶け込む。このイカ天を使ったイカ丼800円もある。
『翁庵』店舗詳細
アイデア満載!でも基本はしっかり二八『元禄二八そば玉屋』 [両国]
大正8年(1919)創業。屋号にあるように、国産のソバを石臼碾きにし、小麦粉2割を加えて打つ二八そば。通常メニューは製麺機のそばだが、プラス110円で手打ちに変更できる。つゆは、鰹節、鯖節、昆布に加えて、隠し味にしいたけのだしを加えてコクを出す。この店での注目は、3代目主人のアイデアメニュー。その代表が、辛味のある野菜入りそばと、酸味を利かしたたれで仕上げた天丼をセットにした義士御膳。店に近い吉良邸にちなみ、辛酸の思いをした赤穂浪士を偲んで作った料理だ。
『元禄二八そば玉屋』店舗詳細
そばとつゆの相性にこだわる『神田尾張屋本店』 [神田]
大正9年(1920)創業。屋号は初代の出身地である尾張町(現在の銀座5丁目あたり)に由来する。そばは、主に北海道産そば粉を使った細打ちの二八。温かいそばは、鯖節と本枯れ節でだしを取り、風味を生かすためにつゆは薄口仕上げ。冷たいそばは本枯れ節のみでだしをとり、つゆは濃いめの辛口。温冷とも、そばとつゆの相性を考え抜いた逸品だ。ビジネス街という場所柄、丼もののメニューも多く、夜は酒席として利用する人が多数を占める。
『神田尾張屋本店』店舗詳細
創業140年超ながら、気さくな家族経営『神田錦町更科』 [神保町]
更科の始祖・布屋太兵衛のいとこの堀井丈太郎が、太兵衛の妹と結婚し、明治2年(1869)に現在地に『麻布永坂更科分店』として創業。ソバの実の芯に近い部分を碾いた一番粉の白いそばに、大葉やユズなどを練り込んだ変わりそばと、ほんのり甘さを感じるつゆは更科伝統の味。昭和30年築の木造2階建ての建物をはじめ、風情のある引き戸や今でも現役という黒電話などが店の歴史を物語る。140年を超す老舗だが、家族経営ということもあって、“近所のそば屋さん”といった気さくな雰囲気を感じる。
『神田錦町更科』店舗詳細
藪の味と伝統を守るのれん分け1号店『上野藪そば』 [上野]
「そばにちょっとだけつけて食べる」という辛口のつゆが有名な“藪そば”だが、『上野藪そば』では、かえしに2種類の醤油をブレンドし、風味豊かに仕上げる。そばは北海道産や福井産のソバを使用した細打ちの二八そば。冷たいそばは風味が生きる手打ち、温かいそばは製麺機で固めに仕上げる。だしも冷たいそばには鰹節と宗田鰹、温かいそばには鯖節を使うなど、味へのこだわりも強い。
『上野藪そば』店舗情報
ここに来たら鴨せいろで決まり!『銀座長寿庵』 [銀座]
『銀座采女町 長寿庵』から出た『茅場町長寿庵』からのれん分けされた店で、昭和10年(1935)創業。鴨せいろ発祥の店といわれる。昭和30年代のこと。親子でそばを食べていたが、父が誤ってつゆをこぼしてしまった。仕方なく娘が食べていた鴨南ばんのつゆで食べたところ意外においしく、その後、工夫を重ねて専用の汁を考案し、鴨せいろとして売り出した。当時は、冷たいそばを温かい汁で食べることがなかったので評判を呼んだという。現在では、客の7割が注文する店の看板メニューだ。
『銀座長寿庵』店舗詳細
大坂発祥の砂場の流れを汲む総本家『南千住 砂場』 [三ノ輪]
『砂場』は大阪を発祥とするが、嘉永元年(1848)に編纂された『江戸名物酒飯手引書』には6軒の『砂場』が記載されている。この中の『糀町七丁目砂場藤吉』直系で、現在地に店を構えたのは大正元年(1912)。建物は昭和29年建築の総檜造り3階建てで、荒川区の文化財。国産そば粉と、つなぎの全卵を木鉢に入れ、備長炭で濾過した水を加えて手こねする。先代から使っているという製麺機で仕上げる二八そばは、滑らかな食感が特徴。鰹節と宗田鰹を使ったつゆはやや辛口。
『南千住 砂場』店舗詳細
取材 ・ 文=塙広明、工藤博康 撮影=山出高士、オカダタカオ 、鈴木賢一、原幹和