バリスタチャンピオンが営む新進気鋭のロースタリーカフェ『Bespoke Coffee Roasters(ビスポーク コーヒー ロースターズ) 宮代店』【東武動物公園】
国内のバリスタ大会で初の2冠、その後に開催された世界大会では準優勝という輝かしい実績を持つ畠山大輝さん。驚くべきは、そのコーヒー技術はすべて独学で習得したという事実だ。「僕はそもそも、『自分がおいしいと思うコーヒーが飲みたい』というところが出発点なんです」と畠山さん。
2022年にオープンした同店ではブレンドが主力。シングルオリジンにはない魅力がそこにあると考えるからだ。
「スペシャルティのブレンドは料理やアートの感覚に近く、オリジナルの味をつくりたいと考える僕には合っていたんです」
コーヒーの抽出はTONEという最新鋭のマシンが担う。ハンドドリップが半ば常識のスペシャルティ専門店としては異端ともいえるが、「このマシンはトップバリスタ以上のきめ細やかな抽出技術を安定して再現できる」と畠山さんはその実力を評価する。もっとも、ハンドドリップの要望が多いのは百も承知。「これから始める可能性は十分にありますよ」と畠山さん。乞うご期待。
『Bespoke Coffee Roasters 宮代店』店舗詳細
鋳物の町の小さな自家焙煎店。深煎り主体に約18種もの品揃え『AMBER DROP COFFEE ROASTERS(アンバードロップコーヒーロースターズ)』【川口】
川口駅の北東、にぎやかな市役所通りに面した一軒。「琥珀の雫」を意味する店名に、アイアンとウッドが印象的なシックな内装。2016年に開いた店は、店主の新井寧夫(やすお)さんと奥様の和美さんがふたりで営む。
アイアンをインテリアのキーにしたのは「鋳物の街・川口だから」と寧夫さん。店奥に鎮座する立派なオランダ・ギーセン社の焙煎機も漆黒だ。コーヒーは深煎りを中心にずらりと約18種類。カウンターに並んで輝く焙煎豆の瓶もまた壮観。
「ウチは浅煎り・中深・深煎りをレパートリーにしていて、中深と深煎りで約8割を占めます」
セットで味わうケーキも充実。すすめられたトレフォルマッジチーズケーキが驚くほどの絶品だった。ほのかに香るゴルゴンゾーラなどの風味がなんとも絶妙。レシピはご主人、作るのは奥様だとか。「試作して、娘たちが『もう一度食べたい!』と言ったものだけ出すんです」と寧夫さん。3人娘の忌憚(きたん)のない意見も確かなようだ。そんな何げない会話で時間が過ぎる、居心地のいい珈琲店。
『AMBER DROP COFFEE ROASTERS』店舗詳細
都市生活に憩いを与える海外スタイルのおしゃれカフェ『ZEBRA Coffee & Croissant (ゼブラ コーヒーアンドクロワッサン) 津久井本店』【津久井湖】
デザイナーの嶋田耕介さんが店を開いたのは2012年。
「当時の僕は大企業相手のデザイン事務所に勤めていて、お陰でカフェ文化が盛んな外国に行く機会がよくありました」
メルボルンやシドニー、サンフランシスコ、シアトルなどの進んだカフェ文化に魅せられた。それでなぜ津久井湖に?と尋ねると、
「世界的には都心から40㎞は通勤できる生活圏。そのキワのキワで挑戦しようと。コンテンツがよければお客さんは来てくれる」。デザインは経営そのものだと話す嶋田さん。信念に従ってコンセプトを設計し、緑豊かな津久井湖畔の空き工場をリノベートした。
壁、床、窓、キッチンやテーブルから椅子まですべてを手作りした空間に、奥の焙煎室で自家焙煎したコーヒーと、2階で焼いたクロワッサンの香りが満ちる。
「わざわざ行きたい郊外店は、外国の雑誌の特集では『エスケープ』と称されていました。この『津久井本店』はまさにそれ」
忙しい毎日を離脱して、カフェでの時間を心豊かに過ごしたい。
『ZEBRA Coffee & Croissant 津久井本店』店舗詳細
丘上の駅前通りになじむ焙煎豆販売メインの人気店『TERA COFFEE 白楽店』【白楽】
2004年に社長の寺嶋典孝さんが当地で創業して20年。
「まだスペシャルティという言葉も聞こえなかった頃に『これからは本物のコーヒーが来る』と思って、脱サラして始めました」
長く知られた品質の高い豆を主に扱うので、産地はグアテマラやコロンビア、ケニア、インドネシアのマンデリンと、聞きなじみのあるものが多いそう。
「深煎りに耐える良質な硬い豆を使うので産地の標高も高めです」
焙煎豆の販売が主で、その数およそ30種。主婦やサラリーマンと思しき地元客が絶えず来て、自宅用の豆を買っていく。白楽店は席こそないが窓辺にカウンターテーブルがあり、店内飲食も可能。
この日はすすめてもらったタンザニアと、深煎りに合うモカロールケーキを味わった。隣駅の妙蓮寺店にはレストアされた1960年代の立派なオールドプロバットの焙煎機があるし、店内席でゆったりと過ごしたいなら大倉山店を訪ねるのもいい。本格的なコーヒーと愛らしい店構えが共存する、地域の名店だ。
『TERA COFFEE 白楽店』店舗詳細
小高い丘の古民家で週末営業する、わざわざ行きたい人気店『TSUKIKOYA COFFEE ROASTER 山の上店』【追浜】
八景島と横須賀のほぼ中間、追浜(おっぱま)の丘上にひっそりとあるのが『ツキコヤ』だ。かつて日本各地を旅してコーヒー理論を学んだ田村英治さんが、日々研究を重ね、実に数千日分にもなる緻密な焙煎データをもとにして、その日の気温や湿度に応じて愛用のプロバットで焙煎している。
コーヒー好きなら一度は聞いたであろう名店で、横浜中華街には豆販売とテイクアウトの支店がある。この山の上店は、焙煎拠点でもある週末営業の本店だ。スタッフも田村さんに負けないストイックさでコーヒーに取り組むが、微塵(みじん)も圧を感じさせない穏やかな雰囲気が素晴らしい。
取材時はバリスタの石井新(あらた)さんに教わって、グアテマラやコスタリカをチョイス。表面サクッと、中はふわふわの、バゲットを使ったフレンチトーストも……。食べている間、カウンターでは若い男女のお客さんが熱心にコーヒーを選んでいた。臆することなく気軽に聞けてうれしそう。週末の小旅行で目指したい、隠れ家的なおすすめカフェだ。
『TSUKIKOYA COFFEE ROASTER 山の上店』店舗詳細
試飲ができる湘南の人気店!ホンジュラス豆でもおなじみ『27 COFFEE ROASTERS 辻堂本店 CORNER 27』【辻堂】
湘南の辻堂にあり、ホンジュラスのコーヒーを丸ごとコンテナで自社輸入する「ワン・コンテナ・ミッション」でもおなじみ。本店にはそのホンジュラスの諸農園の焙煎豆を中心に常時25種類ほどを並べ、いずれも試飲できる状態で置いてある。
店主の葛西甲乙(こおつ)さんは往時の「かさい珈琲」を最新機器を揃えたスタイリッシュな専門店へと大胆に変えた人で、今では業界の一翼をも担う。近年、鎌倉の長谷と小町通り、茅ヶ崎にも支店を持った。
「長谷は古民家改装で『自分が行きたい店』を造りました。コーヒー飲んで、ゆっくりできて」
さらに聞くと、実はコロナ禍の在宅需要でスタッフ全員が忙し過ぎて、「皆がゆっくりコーヒーに向き合える場所を作らねば」という思いもあったそう。
「コーヒーに添える、この農園主のイラストカードも僕の発案」と笑いながら、イタカヨ農園のコーヒーを出してくれた。後味がすっと切れるきれいな味のゲイシャには「おいしさを伝えたい」という葛西さんの思いもこもっていた。
『27 COFFEE ROASTERS 辻堂本店 CORNER 27』店舗詳細
取材・文・撮影=永島岳志、高橋敦史
MOOK『散歩の達人 東京スペシャルティ珈琲時間』 より