そんな喫茶店が飛躍的に東京で急増したのは1950〜60年代にかけて。東京オリンピックや学生運動など、国際化と混沌の間で多様化し、ジャズ喫茶や名曲喫茶などの音楽系、とびきりの高級感で設えたゴージャス系、独特の風情や味わいを醸す文化系、地元民御用達系などが林立。そのころ開業した店が今も路地に、駅前に、商店街に、まだまだ数多残る。コーヒー片手に本を読むのもよし、語らうもよし。マスターと談笑すれば、やがて他の常連を交えて趣味や街の情報が交錯する。毎日でも通えるようにと、お値打ちにコーヒーチケットやモーニングを用意する店も少なくない。

一時はコーヒーチェーンの台頭で衰退の憂き目にもあったが、海外のコーヒー文化が流入し、味も風情も多彩さを極めるうち、昔ながらの喫茶文化が再び、脚光を浴びだした。なかには、若い世代が伝説店の系譜を受け継いだり、インスパイアされたり。オリジナリティあふれる新しい店もやがて、新時代のサロンへ育っていくのだろう。新旧のサロンが肩を並べる今こそ、多彩な喫茶文化を味わう絶好の機会なのだ。

珈琲西武

昭和ゴージャス的純喫茶系サロン

1964年の開業以来、朝から夜まで使える大箱喫茶。ブレンド珈琲700円の他、ナポリタン950円、ソーダフロート850円、チョコレートパフェ 1000円など王道が健在だ。

キーワード
「昭和ゴージャス」……きらびやかで凝った装飾、ベルベットや刺繍張りのイスなど、空間が贅沢だ。
「純喫茶メニュー」……ナポリタン、パフェ、ソーダ水などは喫茶特有。店頭サンプルにも注目だ。

『珈琲西武』店舗詳細

住所:東京都新宿区新宿3-34-9 メトロビル2・3F/営業時間:7:30~23:30(日・祝は~23:00)※3階は12:00~(土・日・祝は11:00~)/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から徒歩2分

珈琲アロマ

伝統的下町サロン

『ペリカン』製のパンを用いるのは1964年の創業時から。芸の街浅草らしく落語家の入船亭扇橋さんが命名したトーストセット「ゴミ箱」250円は、味とコクが深いブレンド350円と相性抜群。生ジュース400円にも癒やされる。

キーワード
「ネルドリップ」……ネル生地で抽出。一杯立てが主流だが、まとめ淹れは老舗で見かける風景。
「常連さん」……サロン文化の証しで風情の構成要素。常連により誕生するメニューもある。

『珈琲アロマ』店舗詳細

JUHA

カフェ系音楽サロン

2010年に開業。蒐集するLPでコーヒーにあう音楽を流す。13時までモーニングがあり、あんこトースト470円を自家焙煎のユハブレンド570円と。豆の販売・通販も行う。

キーワード
「いい音楽」……ジャズ喫茶、名曲喫茶以外にも、店主こだわりの音が魅力の新店が増殖中。
「モーニングとコーヒーチケット」……昔ながらの喫茶から引き継ぐ文化。客が通いやすいお値打ちサービスだ。

『JUHA』店舗詳細

住所:東京都杉並区西荻南2-25-4/営業時間:10:00~21:00(土・日・祝は~19:00。SNSで事前に要確認)/定休日:月(祝の場合は翌)/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩5分

COFFEE WORK SHOP Shanty

地元民御用達系サロン

商店街で1968年から愛されるサイフォンの店。自家焙煎コーヒーは香りが芳醇だ。ブレンドの急冷アイス450円や水出し500円は夏にいい。『ふらんすや』製食パンを使うヤサイトーストサンド500円はバナナが名脇役。

キーワード
「サイフォン」……蒸気圧を利用して浸透圧で抽出する方式。雑味が出にくく、香りが立つ。
「アイスコーヒー」……淹れたての急冷、水出しなどがある。シロップ入りは古い下町喫茶に多し。

『 COFFEE WORK SHOP Shanty』店舗詳細

文=佐藤さゆり 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2020年7月号より