[ 小台 ]小台銀座商店街

「旧小台(おだい)通り」の標識が点在するこの道は、隅田川の渡し舟と明治時代から日本鉄道が通る田端駅を結ぶメイン道路だった。
ところが昭和8年(1933)、東側に小台橋に連なる小台通りができ、商業地もそちらに移り気味。「旧道の商店会も南北2つに分かれてしまいました」と南側の小台本銀座商店会会長の内野国営さん。
それでも旧小台通り全体を見渡せば、今も肉・魚・野菜の生鮮三品の店もあり、普段着の商店街だ。中でも『梅の湯』や『天ふじ』など若手店主たちは工夫を凝らして魅力ある店づくりを頑張っている。さらにおもしろ物件を扱うR不動産が空き店舗を仲介して、しゃれた店が並び始めた。わざわざ行きたい商店街となる日も近い!

Y字路の左は旧小台通りで、この南側から小台本銀座商店会が始まる。中央の建物は『おぐセンター』。
Y字路の左は旧小台通りで、この南側から小台本銀座商店会が始まる。中央の建物は『おぐセンター』。

【梅の湯】

60余年前の創業時の天井画を残して飾る2016年新築の銭湯。露天風呂にオリジナル薬湯など極楽気分が楽しめる。隣の入り口は家族が営む焼き鳥店。完璧だ。●15:00〜翌1:00、月休。☎03-3893-1695

【天ふじ】

揚げたて天ぷらがずらりと並ぶ。週2回市場で仕入れた旬の具のほか、ニンニク丸揚げ100円も珍しい。4種類の天ぷらの海鮮天丼850円なども人気だ。●10:30~19:00ごろ、日・
祝休。☎03-3894-4746

【 おぐセンター】

古い店舗を改造した居心地のよいカフェ。地元の人たちが寄り合える場をと、R不動産の直営店。日替わり定食900円も美味だ。●11:30~20:30LO、月休。☎03-6807-9181

[ 王子駅前 ]王子柳小路商店街

王子駅前の目の前にある一見飲み屋街。取材期間中はコロナ禍のためか休業の店も多かったが、よく見れば八百屋や精肉店もある。「最盛期には電気屋や鮮魚店など、約50店がにぎわっていたんですよ」と商店会長の奥田さんの妻は語る。
一帯は戦災の焼け野原を経て終戦後は闇市に。その後、商店街の発起人が地主からまとめて土地を購入。小さく区割りして各商店に分譲し、現在に至る。でも店も徐々に様変わりしている。
「とにかく路地を明るくして」と貸主に期待され、『王子珈琲焙煎所サクラピアス』はガラス張りのカフェを開いた。レンタル教室には子供たちも通う。「ここは交通の便も治安もいいです」 と、『夢ひろば』で子供ロボット教室を開催する講師は言う。迷宮っぽさを残しつつ、風通しがいい路地に進化したのだ。

今は移転してしまった工場帰りの勤め人が立ち寄る、飲み屋街だった。明治通り沿いと路地で現在21店。
今は移転してしまった工場帰りの勤め人が立ち寄る、飲み屋街だった。明治通り沿いと路地で現在21店。

【すし屋のやすけ】

持ち帰り専門寿司店。主人自ら市場で仕入れ魚をさばく。ネギトロやウニの手巻き寿司300円〜は具がぎっしり。●10:00〜18:30、月休(不定休あり)。☎03-3914-9511

【レンタル教室 夢ひろば】

商店街中央のコンクリート建築はレンタル教室。ダンスやヨガなど定期教室のほか、単発レンタルも。写真は悠々社主催の子供向けロボット教室だ。☎03-3911-4366

【王子珈琲焙煎所サクラピアス】

入り口には飛鳥山の実物の木を模した立体的な桜の木、焙煎したてのコーヒーの香り。奥で好みのコーヒーを楽しめる。●10:00~20:00(土・日・祝は8:00~)、不定休。☎03-6903-3505

[ 都電雑司ヶ谷 ]雑司が谷弦巻通り商友会

都電の駅からはちと離れて突然始まる商店街。なぜだ?
実はこの道筋は弦巻川の暗渠。元岸辺の田畑や川筋に道路や新たな土地が造られ、そこに商店街が発達した。一帯は関東大震災や戦災の被害も少なく、店や住宅も増えて戦後は商店街は大にぎわい。
だから鉄板焼きせんべい製造店や腕のいいクリーニング店など、商店街の年輪を感じさせる職種や昭和風味の雑二ストアーなどが点在して、お宝発見気分だ。ストアー内で旅行社を営んでいた元商店会会長の清田明さんは、「商店街には若い感覚の店も増えてきました」。
清田さんたちの最近の取り組みは、江戸野菜の雑司ヶ谷ナス。新旧それぞれの店先で育てれば会話が弾む。じわりと温かさが伝わる。

昭和7年(1932)に暗渠化されて道路に。現在は31店舗が営業。法明寺の御会式には一同熱が入る。
昭和7年(1932)に暗渠化されて道路に。現在は31店舗が営業。法明寺の御会式には一同熱が入る。

【小倉屋製菓】

せんべいのタネを熱い鉄板に並べ、上からも重い鉄板を乗せてジュっと焼く。青のりなど16種の味付けをして出来上がり。創業70年以上、パリッとうまい!● 9:00~18:00、日・祝休。☎03-3983-3316

【赤丸ベーカリー】

関東大震災後にこの地で生菓子屋を創業。「弦巻通りでは一番開店が早かったようです」。焼きたてパンの数々に赤丸プリン160円も魅力的だ。●11:00~19:30、木と第1・3水休。☎03-3971-6624

【雑二ストアー】

清田元商店会長の先代は1956年にここで荒物屋を開店。21年に八百屋が閉店して寂しくなったが、市場の風情はそのままで皆住んでいる。かつて奥に大家さんが建立した観音堂があったとか。

【荒木クリーニング店】

創業70年。先代はお屋敷に大八車で配達した。「セーターはアイロンを浮かせて蒸気で仕上げるんです」と店主の荒木さん。熟練の腕に絶大な安心感。●9:00~19:00ごろ、日休。☎03-3982-4205

[ 熊野前 ]川の手もとまち商店街

「50m20軒、小さくて悪かったね!」と商店街会長である『ヘアーサロンキムラ』 の木村實さんは笑う。本来は東側の尾久本通り商店街と一体だったが、54年前に尾久橋通りの開通で分断され独立した。でも充実度はピカイチ。
元割烹店や美味な寿司屋、呉服屋など華やかな業種が並ぶのだ。
なぜなら「ここが昔のメイン通りだったから」と木村さん。さらに熊野前の寺で大正時代に温泉が湧き、旅館や芸者で華やぐ三業地の近くだったことも、この界隈の繁栄の歴史と聞いて納得した。
とはいえ今も「商店街を通過する人の7割は店に用事のあるお客」という。理髪店帰りのお客は喫茶で一服、焼き菓子屋には行列。どこも居心地のよい場所なのだ。

短くても街灯は立派な商店街。フラッグの江戸寄席文字は『喜久寿司』主人の筆。皆で盛り上げている。
短くても街灯は立派な商店街。フラッグの江戸寄席文字は『喜久寿司』主人の筆。皆で盛り上げている。

【たうん尾久店】

転勤族だった松井夫妻は、かつて妻の母の店があった場所で約40年前に開店した。以来地元のオアシスに。日替わりバンズセット750円で満腹。●8:00~17:30、火休。☎03-3800-5086

【斉藤燃料】

今では珍しい燃料店。戦後、炭の配給所跡に移転して営業再開。プロパン、灯油と家庭燃料の変化に対応。売れ筋は焼肉店の備長炭、氷とドライアイス。●8:00~17:00、日・祝休。☎03-3893-8307

【nécoya BAKE STAND】

店主の古澤さんは菓子づくりひと筋の腕前で、マフィン390円など営業日を狙った行列に納得の味。夏は『斉藤燃料』の氷でかき氷も。●13:00~売り切れ次第終了、木・金・隔週土のみ営業。☎なし

取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則
『散歩の達人』2022年5月号より