一般麺食いもプロも集う、楽しき麺会所『うどんスナック松ト麦』[駒沢大学]
うどんライターの井上こんさんは、小麦愛が極まり店を開業。壁には今まで打った品種20種の名札が! かけ600円を頼むと、この日打った岩手・ネバリゴシはムニュッと吸い付く舌ざわり、滋賀・びわほなみはもちもちと小麦による食感の違いに驚く。 「全国の小麦の魅力を伝えられたら。目指すは小麦のアンテナショップ!」 と井上さん。この麦ヲタぶりに引かれやって来た他のうどん店の店主も一般の麺好きもみな笑顔。麺&PEACEな空間がここにある。
『うどんスナック松ト麦』店舗詳細
もちもちじゃなくて、“餅”なのだ『餅うどん 功刀屋』[旗の台]
「新しいうどんを作りたいんです!」 と店主の功刀(くぬぎ)さんはキッパリ。手打ちうどんを歯応えの有無だけで語られたくないと言う通り、ここの麺を噛んだ歯が感じるねっとり感は、他では味わえない。小麦粉から水にまでこだわった素材と、圧力鍋で茹で上げる絶妙の塩梅から生まれる食感と風味。上品な薄味の出汁と味を染ませた牛肉と、新感覚の弾力を備えた麺と融合する牛肉餅うどん740円の一杯に、お店が掲げる餅つきマークの意味を再確認するのだ。
『餅うどん 功刀屋』店舗詳細
おなかも目も喜ぶうどん食堂『自家製さぬきうどんと肉 甚三』[大門]
肉かけ640円の大盛り豚肉を味わったら、 「肉の店をやりたかった」という代表・岡本さんの言葉に納得。うどん店と肉料理店の名店で働き、吟味した素材をぜいたくに使いつつ、うどんは大衆食というポリシーを崩さぬ心意気。香川の老舗製粉所の粉を使って打った麺は、エッジの利いた歯応えとおいしさで、挽きたて黒胡椒が風味を引き立てる。自家製だいだい酢もぜひ。 「故郷千葉の、どこか田舎の畑の真ん中に店を作りたい!」と笑う岡本さんの夢はきっと叶う。
『自家製さぬきうどんと肉 甚三』店舗詳細
新食感の麺ワールドへよォーこそ『うどん屋 ギビツミ』[西新橋]
こだわりの自家製麺は、麺肌つるつるで喉越し良し。噛むと不思議なむちっと感が、次のひと口を誘う。 「岩手のネバリゴシという粉を使って、この“グミ”みたいな食感を出してるんです」 と店主の内田晴子さん。出汁は真昆布など関西の味をベースに、いりこで旨味を底上げ。きつねうどん750円(夜は800円)の肉厚お揚げを口に含めば、下味の甘みとつゆの魚介出汁がジュワッとあふれ、えびす顔。
『うどん屋 ギビツミ』店舗詳細
製粉したての地粉の香りにただ恍惚。『蕎楽亭』[神楽坂]
ここの凄みは、そばだけでなくうどんの小麦粉も自家製粉するところ。上州の「さとのそら」という銘柄の原麦を製粉し、同じく上州「つるぴかり」とブレンドして喉ごしをプラス。「自家製粉だと、ふすま(小麦の表皮部分)をたくさん入れられて、甘さと香りがたつ麺になる。製粉時は店がパン屋みたいな香りになるよ」と店主・長谷川健二さん。和服美人のように細めで艶やかに光る麺を啜れば、小麦のフレッシュな風味にうっとり。
『蕎楽亭』店舗詳細
つけにもかけにも寄り添うたおやか麺『東奔西走』[南阿佐ヶ谷]
中太で角が立った麺は、一見コシが自慢かと思うが、さにあらず。むにゅっと感が心地いい、しなやかな麺なのだ。 「どこどこ風の麺というのに捉われず、ただおいしいものを求め、 マイナーチェンジを重ねてます」とは、関西で料理人の修業をした静岡出身の塚本さん。お出汁は昆布やウルメ、サバなどを重ねた関西ベース。看板の東奔西走うどん980円のつけ汁は、そこに牛肉の甘み、ゴボウなど野菜の滋味、お酢の酸味が交わり、奥行きある味わいに!
『東奔西走』店舗詳細
晩秋の体を温める幸せけんちん!『志な乃』[押上]
30年以上続く老舗の看板は、けんちんうどん。「朝から里芋なんかの皮をむいてさ、ゴマ油をひいた鉄鍋で炒めて。そっから鰹節をダーッと入れてじっくり煮込む。だからウチのは具が大きくても味が染みてるの」と女将の恵子さん。具材がゴロゴロ入った白味噌の濃厚ツユは、豪快ながら懐かしい味わいで店主夫婦の人柄のよう。そこに主人・正男さんが打った細めでコシのある麺が絡めば、益子焼の巨大丼も一気呵成に完食!
『志な乃』店舗詳細
やるきトニーさん、おかわりもう一杯!『やるき』[中野]
インド・ニューデリー出身、気軽なやすらぎ処『やるき茶屋』で経験を積んだトニーさんが営む居酒屋。おでん、モツ煮といった定番つまみも、ここではスパイス香る魅惑の味わいに変身。焼きうどんもしかり。うどん専用に調合した約10種のパウダースパイスと、手製の鶏挽き肉入りのカレーペーストを投入。額に汗がにじみだすほどのシャープな辛さが、ビールを加速させる。そして訪れる爽快な疾走感。
『やるき』店舗詳細
精鋭のトッピング揃いです。『お山のすぎの子』[三軒茶屋]
手打ちうどん、北海道・日高の昆布と四国直送のいりこをきかせたダシが評判。創業30年超、「いろいろ試して、合う物のみ残してます」と2代目が語るカレーうどんのラインナップは、モチ、かき揚げ、エビフライ……など独創的な全7種。なかでも、揚げたてサクサクのトンカツ、シャキシャキの千切りキャベツをのせたとんカレーうどんは、コシのあるうどんとの対比が楽しい。濃厚なカレーがひたひたしみていくのも、これまたよい具合。
『お山のすぎの子』店舗詳細
京の出汁とカリーが結婚した味や!『かれんど』[調布]
昭和60年、店主・鈴木寿彦さんは商社マン時代に本場のスパイスや料理に触れ“本物のカリー”を伝えるべく開業。「10年経った頃、白い神様が店の中をふわ~っと通ってな、カリーうどんを作ってみたらって囁(ささや)いたんや」。実は鈴木さんは京都の料理旅館の生まれ。透明感のある京風の出汁をなじみ深いあんかけにし、自慢のカリーと合わせることに。たっぷりのショウガ、桜エビ、鰹節からも味が染み出し、オンリーワンの一杯が完成だ。
『かれんど』店舗詳細
麺の求道者がつむぐ新・武蔵野物語『手打ちうどん長谷川』[大泉学園]
「一推しメニューを聞かれてもみんな自分の子みたいなもんだから……」とうどん愛を語る店主・長谷川匡俊さん。地粉の農林61号で打った麺を見ると、表面に茶色い粒々が!「ローストしたふすまを入れてるから。ミネラル豊富で香りも高くなるんです」。早速麺を啜れば、小麦の優しい香りは武蔵野風ながら、つるっとした食感は讃岐のよう。「香川の粉もブレンドしてます。武蔵野に讃岐のいいとこを足したうどんが自分の理想ですね」。
『手打ちうどん長谷川』店舗詳細
毎日食べたい優しい300円うどん『讃岐うどん いわい』[十条]
「香川のうどん屋約900軒のなかでも、水回し(小麦粉に加水しこねる作業)から手作業で打ってる『宮武』のうどんに惚れてしまって」と主人の岩井佑介さん。同店で修業した主人が打つ麺はもっちりしなやかで、麺を冷水でしめ熱いツユをかける“ひやあつ”で味わえばコシも増して絶妙食感に。たっぷりのいりこや利尻昆布などでとるダシは食べ飽きない優しい味わい。「うどんは日常食。値段も味も毎日食べやすいものを心がけてます」。
『讃岐うどん いわい』店舗詳細
丼の底が見たくなる芳醇な出汁と麗し麺『はし田たい吉 新橋』[内幸町]
ごぼう天うどん600円から昇るいい香りに、まずはつゆをひと口。長崎産あご出汁の上品な甘さ、枕崎産かつお節の豊かな旨味がぶわっと広がる。「飲み干してもらえるようなつゆを作りました」とプロデューサーの橋田さん。細い平打ち麺を手繰れば、なめらかでしっとり食感の後に、福岡県糸島産小麦・チクゴイズミの芳醇な風味が。「打ちたて麺の香りのよさを味わってほしい。喉越しのよさも求め、麺は約60cmと長めに切っています」。
『はし田たい吉 新橋』店舗詳細
伊勢のやわうどんを絶妙アレンジ『いせ万』[高田馬場]
伊勢商人にルーツをもつ店主の大西秀一さん。「先祖が喜ぶかなと思い、15年前に伊勢うどんの店をはじめました」。麺は三重の小麦・あやひかりで打ったものを伊勢から直送。伊勢で主流の茹でおきではなく、茹でたてで出すので麺肌はやわらかいが芯はむちっと弾力も。通常の伊勢おうどん550円もうまいが、昆布や煮干しなどで毎日出汁を引く関西風つゆのかけうどんと、このむちむち麺がばっちり合うのだ。
『いせ万』店舗詳細
熟成麺を茹できり、しなやか食感に『筑後うどん まがり』[新大塚]
ごぼ天肉うどん910円をすすると、なめらかで絹のようなきめ細かな食感に恍惚。「やわらかいけど芯があり、伸びもある麺が理想です」と店主・大曲さん。粉はでんぷん質の多いチクゴイズミを使用。計4日も寝かして切れにくい、しなやかな麺に。この女性的な麺に寄り添うのが、羅臼昆布やあご、いりこを重ねたやさしいつゆ。大曲さんが我が子に何種も食べてもらい、一番食べ飽きなかったつゆを選んだそう!
『筑後うどん まがり』店舗詳細
出汁の風味をまとう細身のふわふわ麺『釜あげうどんはつとみ』[江戸川橋]
長野出身で、もともとそば派だった店主の熊谷晃さんは、渋谷『澤乃井』で宮崎うどんの旨さに開眼。約20年も同店に勤め、13年前に独立した。看板の釜あげうどん700円(写真のかきあげ天釜は1200円)の麺を手繰ると、ふわっとした舌触りで、喉越しもいい。つゆも素晴らしく、澄んでいるのにかつお、しいたけ、昆布、いりこなどを重ねた出汁の風味が濃厚。釜あげならではのとろりとした麺肌が、この珠玉のつゆをたっぷり拾い舌へ運んでくれるのだ。
『釜あげうどんはつとみ』店舗詳細
取材・文=土屋広道(編集部)、鈴木健太、沼由美子 撮影=オカダタカオ、加藤昌人