高架下の片隅ではじめの一歩を踏み出そう『あやセンター ぐるぐる』
「やりたいことを、なんでもカタチに」とは、コミュニティービルダーの君塚豊さん。何かを始めたい地域住民の背中を押すべく、行政と連携して作られた空間だ。書店とバーを併設した「oasis」でやりたいことを見つけ、「base」で相談。「park」でイベントを実施する。これなら一歩を踏み出せそうだ。
多種多様なベーグルに心惑う、心弾む『しんのすけベーグル』
ベーカリーに勤めていた店主の佐藤大さんは、ベーグルの可能性に開眼。生地に味わいの変化をつけたり、総菜をたっぷりのせたり、常時約40種類が所せましと並ぶ。「軽い食べ口が好みで」と、工夫を凝らした生地は、もちふわながら、とても軽やか。がっつり具材がのった総菜ベーグルもペロリと平らげてしまえそう。人気の焼き菓子もいただいちゃおうかな。
雑貨×植物の無限の組み合わせ『Giardino della Luce/EL SOL(ジャルディーノ デッラ ルーチェ/エル ソル)』
足を踏み入れれば、そこは別世界。雑貨担当の山田幸子さん。植物担当の後藤亜紀子さん。それぞれの「大好き」をかけ合わせた品々が、店内を埋め尽くす。「植物は、初心者でも育てやすいものを揃えてます」と、後藤さん。気に入った一株を見つけたら、書籍やブリキの兵隊といったユニークな鉢に目が移る。育て方や飾り方を相談できるのも心強い。
スペシャルティコーヒーの通な楽しみ方『BASEcafe&bar 綾瀬』
厳選したスペシャルティコーヒーが看板だが「昼飲みのお客さんが意外と多いんです」と、店主の田村基(もとい)さん。客の心を摑んで離さないのが、エスプレッソマティーニだ。ひと口含めば、豆の果実味がカシスの風味と交わり、爽やかに口中を埋め尽くす。「するするいけるから気をつけて」と、妻の愛さん。ハヤシライスも合わせて、ゆっくり楽しもう。
欧州カジュアル古着に心掴(つか)まれる『古着屋PARER 綾瀬店』
店内に所狭しと並ぶのは「Stone Island」や「CHEVIGNON」、「C.P.Company」といった、欧州のカジュアルブランド。オーナーの吉田響さんが現地へ渡り、惚(ほ)れ込んだものを買い付けている。「ニッチだからこそ、ハマる人が多いです」とは、店長の渡邉善さん。誕生秘話や裏話も交えて話してくれるから、目の前の服が妙に愛おしく見えてくる。古着のリメイクやレディースものにも注力。とっておきの一着を見つけたい。
ここが街の新たなサードスペース『Rokumachi cafe』
オーナーの葭葉康世(よしばやすよ)さんが「六町に人が集まれる場所をつくりたい」と願いを込め、2026年の2月に開店した。広くて明るい店内に足を踏み入れると、マネージャーの川口楓瑚(ふうご)さんが爽やかにお出迎え。看板は「専門家の意見を取り入れた」というバスクチーズケーキだ。ふわふわで、舌にのせた瞬間、あま~くとける。どこか懐かしい味わいのナポリタンも、ホッと心和む。
絶品おにぎりを頬張り、米の味わいを知ろう『桶亀米穀店』
この地での商いは大正時代から。米屋は1945年から始まり、現在は3代目の姉妹が営んでいる。「いろいろな米の味わいを知ってほしくて」と、店主の伊藤友美さん。そのときに仕入れている米をおにぎりにして販売している。口の中に含めばほろりとほぐれ、海苔の芳香がふわり。バキバキにしょっぱい自家製梅干しが、米のうまみをグイっと引き上げる!
小さくゆるやかな進化が、心地よい
10年ほど前、綾瀬で暮らしていたことがある。牧歌的な風情は心地よいものの、若かりし僕には刺激が足りず、どこか退屈に感じていた。約2年経ち、更新を機に街を離れる。以来、訪れることもなかったから、北口のだだっ広いロータリーに、大きなマンションができていてびっくりした。そうか、離れている間に、街は進化していたんだな。
西口の高架下には、2023年に『あやセンターぐるぐる』ができた。実に20年間、シャッターが閉まっていて通りも真っ暗だった。今では「自分のやりたいこと」を実現しようとする人々が集まり、連日イベントが開かれ、にぎわっている。
「ここで一歩を踏み出して、自主的に街へ関わる人も現れています」とは、コミュニティービルダーの君塚豊さん。暮らしている街にどうかかわるか。そのきっかけがあれば、街へ愛着を持つための入り口になるだろう。
最近、大きく発展を遂げた北綾瀬。こちらへ向かう道中には、なかなか粒揃いの店が潜んでいる。『しんのすけベーグル』の店主・佐藤大さんは、もともと台東区に暮らしていたが、現在の店の大家との出会いがきっかけで、綾瀬にお店をオープンした。「すごく助けてもらって、今、好きなことができています」。
数十m先の『BASEcafe&bar綾瀬』にも足を運ぶ。厳選したスペシャルティコーヒーに、エスプレッソのカクテル。おしゃれだ……。俺の知っている綾瀬らしくない。「オープンした当初、よく言われました(笑)」と、店主の田村基さん。妻の愛さんは「友達を誘って、意を決して来た、という人が多いです」と、微笑(ほほえ)む。シャイな住民が多いのかしら。「住宅地だし、安心したい方々が多いのかも」。なるほど、けれどもひとたびハードルを越えれば距離が近くなるのも、下町情緒だ。
界隈を歩いて行くと、雑貨店と植物店が融合した『Giardino della Luce/EL SOL』や欧州古着特化の『古着屋PARER綾瀬店』といった、個性的な店とも出合える。どちらの店でも店内を物色していると、通りすがりの小学生が入ってきて、店のスタッフと元気に話している。すごいな、子供たちの方が尻込みしないんだな。
居場所を求める人々と、居場所をつくる人がいて
「自分も何かやりたいと思ったんです」とは、『Rokumachi cafe』の葭葉康世さん。もとは夫の建築会社の経理をしていたが、新築した自社ビルの1階に設けたテナントで、2月に開業した。界隈はカフェがほとんどないため、開業後は多くの近隣住民から「こんな店がほしかった」と、声を寄せられる。六町の新たなランドマークの誕生だ。
街へ吹き込む風を大らかに受け入れ、昔ながらの下町情緒も残ってる。ゆっくり、少しずつ。このエリアには新たな灯りがともっていく。
取材・文=どてらい堂 撮影=泉田真人
『散歩の達人』2026年9月号より








