第1話 海なし県で、魚の目にも涙
脂ののった魚が会話の潤滑油『大衆うお酒場 そうか二郎』【新田】
「にった」なのか「しんでん」なのか。読み方も分からぬ駅に初めて降りる。ローカル駅で魚にこだわる個人店は、間違いないと踏んだのだ。のれんをくぐると、カウンター上にはホシザキの冷蔵ネタケース。これは期待できるぞ。ホワイトボードに目をやると……ツーフーペアだと?
「ツーフーセブンもありますよ」尿酸値既読スルーで頼んだそれは、白子と生ウニ、とびっこにイクラと魚卵の龍宮城。くぅ、辛口の酒が進んでしまう。
寿司もつまみたいが秘にぎりの「秘」って?
「ほら、おまかせだと今日のネタは?とか聞かれるでしょ。面倒だから“秘”にしてるんです(笑) 」
並んだ5貫は秘密で上がったハードルも軽く超えてきた。生本マグロは口でとろけ、炙(あぶ)った鯖棒寿司は酒のアテに最高。
ところで大将、上に並ぶ木札ってなに?
「札を1万円で買ってもらえたら名前を書いて店に飾るのと、当日の飲食代は無料に。ここのナオコママは昨年亡くなられて……。間借り営業もさせてくれた恩人でした」
思わず目から熱いモノが。大将、この寿司ワサビ効きすぎだよ。
『大衆うお酒場 そうか二郎』店舗詳細
第2話 先入観を覆すネオ居酒屋の新鮮もつ焼き
注文後に串を打つ朝ジメのレバー『もつ焼ローカルズ』【越谷】
今日はもつ焼きと口が決まっている。越谷駅西口を彷徨(さまよ)っていると「もつ焼」の文字。でも、コンクリート打ちっぱなしに木枠の窓に白のれん。おしゃれ過ぎやしないか。
アメリカンダイナー風の店に入ると女性客が多い。注文はQRコードを読み取ってスマホで? 40過ぎには、これが慣れない。でも、奮闘して頼んだタンユッケの旨(うま)さに、杞憂だと分かった。旨いぞ、臭みが全然ないぞっ。
「越谷食肉センターから、朝ジメのブゥちゃんが入ってきます。レバーなんてまだ温かいかいときもありますよ」とセミロン毛、アメカジ好きの店主。では、怒涛(どとう)のもつ焼き祭りの開宴だ。
注文後にさばいて串を打つレバーが甘いのなんの。コリジュワの喉なんこつを喰(く)らう俺はもう酒場のライオンだ。祭りを盛り上げる酒はと……あれ、ウイスキーが異様に多い。おいおい「イチローズモルト」の限定品まであるじゃないか。祭りの主役は蒸留酒に替わり、赤ら顔。
隣の常連さんは「ハラミとカシラが最高だね」。負けるものか、今夜の俺は百獣の王。大将、ハラミ2本追加で! あっスマホで注文でしたネ。
『もつ焼ローカルズ』店舗詳細
第3話 男気ビストロの立志伝に酔う
まっすぐなカウンターで料理も直球勝負『tablier(タブリエ)』【春日部】
かすかべ大通りを曲がった細い路地。全面ガラス張りの入り口から見えるのは、まっすぐ延びるカウンターとオープンキッチン。ここまで手の内を見せてくれる店が、ハズレのわけがない。
「ウチはお客さんとの距離も近いし、僕自身も一緒に楽しみたい」と店主。まずは、シャルキュトリーの盛り合わせを。肩ロースハムはしっとりで塩味絶妙。鶏のレバームースのほのかな香りと甘みはいったい?
「バニラエッセンスとハチミツです。開業前は実家で料理の研究を続けました。フォンドヴォーを8時間煮込んでたら、母から『いつ終わるの?』って(笑)」
聞くと、店主は若い頃から料理人を志すも、トラックの運転手を経験するなど濃厚な経歴の持ち主。酒場で聞く夢物語って、酔いを加速させるんだよな。でも、シメに頼んだ美桜鶏のコンフィでふと我に返る。これ、食べきれるのか……。
「骨付きで400g。あの値段でこんなにボリュームが! と喜んでくれたら」
受け止めようその男気。皮カリ・身ホロリのコンフィは満腹でもフォークが進む。グワォー、今夜も俺はライオンだ!
『tablier』店舗詳細
第4話 燗酒(かんざけ)は、待つ楽しみと心得たり
美しいお膳での開宴にこれだけで完落ち『きび』【獨協大学前】
春近けれど、なぜこうも寒い。今日は断然熱燗だ。『きび』は、この辺じゃ珍しい燗酒メインの店らしい。カウンターに座ると酒燗器が見え、ホッとひと息。
「熟成酒を経て燗酒にハマり、今や3分の2を占めています」と店主夫妻。
その魅力を広めるべく、今年始まった燗酒半合と酒菜3種セットがニクい! 和牛ジャーキーや発酵白菜など燗好きの心を見抜く肴に「神亀」半合では止まらず、品書に目を落とす。「日置」45℃、「玉川」60℃……うわ、燗つけの温度まで併記してる。「5℃違えば味も違ってきますから」。
続いて頼んだポテサラは、大葉・長ネギ・ミョウガと薬味たっぷりで、これぞ酒肴。さらに、塩コショウで軽く下味を付けた天然本マグロのユッケなんて反則だよ、もう。
「自分の料理は引き算。日本酒に伴走するよう心掛けています」
昭和のアンティークな雰囲気が温かく、燗つけを待つ時間も居心地がいい……と、目の前に夫妻の娘さんが遊びで書いた「何でも100円で売ってる。ひなこショップ」の張り紙が。
ああ、最近飲み歩き過ぎだ。今日は息子が寝る前に帰ろう。
『きび』店舗詳細
写真・文=鈴木健太
『散歩の達人』2026年3月号より






