第1話 海なし県で、魚の目にも涙

脂ののった魚が会話の潤滑油『大衆うお酒場 そうか二郎』【新田】

「にった」なのか「しんでん」なのか。読み方も分からぬ駅に初めて降りる。ローカル駅で魚にこだわる個人店は、間違いないと踏んだのだ。のれんをくぐると、カウンター上にはホシザキの冷蔵ネタケース。これは期待できるぞ。ホワイトボードに目をやると……ツーフーペアだと?

「ツーフーセブンもありますよ」尿酸値既読スルーで頼んだそれは、白子と生ウニ、とびっこにイクラと魚卵の龍宮城。くぅ、辛口の酒が進んでしまう。

生ガキを土台にしたツーフーセブン2000円に驚がく。
生ガキを土台にしたツーフーセブン2000円に驚がく。
「テン」を出す日もあるって!大将の入江達也さんいわく「上野のアメ横から移転した」そう。
「テン」を出す日もあるって!大将の入江達也さんいわく「上野のアメ横から移転した」そう。
こんなの出されたら日本酒に行くしかないっ!
こんなの出されたら日本酒に行くしかないっ!

寿司もつまみたいが秘にぎりの「秘」って?

「ほら、おまかせだと今日のネタは?とか聞かれるでしょ。面倒だから“秘”にしてるんです(笑) 」

並んだ5貫は秘密で上がったハードルも軽く超えてきた。生本マグロは口でとろけ、炙(あぶ)った鯖棒寿司は酒のアテに最高。

秘にぎりは5貫1200円。生本マグロとウニの品質にこだわっていて、もう“大衆”レベルを超えてる。
秘にぎりは5貫1200円。生本マグロとウニの品質にこだわっていて、もう“大衆”レベルを超えてる。
すじ煮込み500円は奥さん手製らしい。
すじ煮込み500円は奥さん手製らしい。

ところで大将、上に並ぶ木札ってなに?

「札を1万円で買ってもらえたら名前を書いて店に飾るのと、当日の飲食代は無料に。ここのナオコママは昨年亡くなられて……。間借り営業もさせてくれた恩人でした」

思わず目から熱いモノが。大将、この寿司ワサビ効きすぎだよ。

沖縄や愛媛の人の木札も。どんだけ~。
沖縄や愛媛の人の木札も。どんだけ~。

『大衆うお酒場 そうか二郎』店舗詳細

住所:埼玉県草加市金明町379-13/営業時間:17:00~22:30LO(土・日・祝は13:00~)/定休日:水(不定あり、2月21~23日休)/アクセス:東武鉄道東武スカイツリーライン新田駅から徒歩3分

第2話 先入観を覆すネオ居酒屋の新鮮もつ焼き

注文後に串を打つ朝ジメのレバー『もつ焼ローカルズ』【越谷】

今日はもつ焼きと口が決まっている。越谷駅西口を彷徨(さまよ)っていると「もつ焼」の文字。でも、コンクリート打ちっぱなしに木枠の窓に白のれん。おしゃれ過ぎやしないか。

アメリカンダイナー風の店に入ると女性客が多い。注文はQRコードを読み取ってスマホで? 40過ぎには、これが慣れない。でも、奮闘して頼んだタンユッケの旨(うま)さに、杞憂だと分かった。旨いぞ、臭みが全然ないぞっ。

タンユッケは680円。
タンユッケは680円。
大ぶりのもつ焼きは190円~。
大ぶりのもつ焼きは190円~。

「越谷食肉センターから、朝ジメのブゥちゃんが入ってきます。レバーなんてまだ温かいかいときもありますよ」とセミロン毛、アメカジ好きの店主。では、怒涛(どとう)のもつ焼き祭りの開宴だ。

店主の大塚雄士さんは赤提灯に短冊メニューの店から、思い切っていまの店にリニューアル。スマホ注文導入は、自身が飲みにいったとき、店員に話しかけられるのが苦手だから!
店主の大塚雄士さんは赤提灯に短冊メニューの店から、思い切っていまの店にリニューアル。スマホ注文導入は、自身が飲みにいったとき、店員に話しかけられるのが苦手だから!
ねぎま240円など佐賀のみつせ鶏を使う焼き鳥も。
ねぎま240円など佐賀のみつせ鶏を使う焼き鳥も。

注文後にさばいて串を打つレバーが甘いのなんの。コリジュワの喉なんこつを喰(く)らう俺はもう酒場のライオンだ。祭りを盛り上げる酒はと……あれ、ウイスキーが異様に多い。おいおい「イチローズモルト」の限定品まであるじゃないか。祭りの主役は蒸留酒に替わり、赤ら顔。

隣の常連さんは「ハラミとカシラが最高だね」。負けるものか、今夜の俺は百獣の王。大将、ハラミ2本追加で! あっスマホで注文でしたネ。

コロナ禍のときウイスキーにハマり、お店でもたくさん置くように! 山崎18年などウイスキーは約50種。
コロナ禍のときウイスキーにハマり、お店でもたくさん置くように! 山崎18年などウイスキーは約50種。
隣客の元プロレスラーのウスダさん、お世話になりました!
隣客の元プロレスラーのウスダさん、お世話になりました!

『もつ焼ローカルズ』店舗詳細

住所:埼玉県越谷市赤山町1-54/営業時間:17:00~23:00(モツがなくなり次第終了)/定休日:水(不定休あり)/アクセス:東武鉄道東武スカイツリーライン越谷駅から徒歩3分

第3話  男気ビストロの立志伝に酔う

まっすぐなカウンターで料理も直球勝負『tablier(タブリエ)』【春日部】

手前だけ向かい合える4席に。
手前だけ向かい合える4席に。

かすかべ大通りを曲がった細い路地。全面ガラス張りの入り口から見えるのは、まっすぐ延びるカウンターとオープンキッチン。ここまで手の内を見せてくれる店が、ハズレのわけがない。

「ウチはお客さんとの距離も近いし、僕自身も一緒に楽しみたい」と店主。まずは、シャルキュトリーの盛り合わせを。肩ロースハムはしっとりで塩味絶妙。鶏のレバームースのほのかな香りと甘みはいったい?

本日のキッシュ900円をはじめ、フランスの家庭料理が基本なのだ。
本日のキッシュ900円をはじめ、フランスの家庭料理が基本なのだ。
自家製シャルキュトリー盛り合わせハーフも男気価格の1500円。
自家製シャルキュトリー盛り合わせハーフも男気価格の1500円。
「塩味控えめで食材の味を生かしたい。それに合うよう、ワインもナチュールで揃えてます」と、店主の菅祐二さん。
「塩味控えめで食材の味を生かしたい。それに合うよう、ワインもナチュールで揃えてます」と、店主の菅祐二さん。

「バニラエッセンスとハチミツです。開業前は実家で料理の研究を続けました。フォンドヴォーを8時間煮込んでたら、母から『いつ終わるの?』って(笑)」

聞くと、店主は若い頃から料理人を志すも、トラックの運転手を経験するなど濃厚な経歴の持ち主。酒場で聞く夢物語って、酔いを加速させるんだよな。でも、シメに頼んだ美桜鶏のコンフィでふと我に返る。これ、食べきれるのか……。

美桜鶏のコンフィ2600円。
美桜鶏のコンフィ2600円。
お一人さまには…って口を濁していたのはこの量だからか!
お一人さまには…って口を濁していたのはこの量だからか!

「骨付きで400g。あの値段でこんなにボリュームが! と喜んでくれたら」

受け止めようその男気。皮カリ・身ホロリのコンフィは満腹でもフォークが進む。グワォー、今夜も俺はライオンだ!

『tablier』店舗詳細

住所:埼玉県春日部市粕壁東1-5-8 1-B/営業時間:17:00~23:00(夏季は18:00~)/定休日:月(不定休あり)/アクセス:東武鉄道東武スカイツリーライン・東武アーバンパークライン春日部駅から徒歩6分

第4話 燗酒(かんざけ)は、待つ楽しみと心得たり

美しいお膳での開宴にこれだけで完落ち『きび』【獨協大学前】

春近けれど、なぜこうも寒い。今日は断然熱燗だ。『きび』は、この辺じゃ珍しい燗酒メインの店らしい。カウンターに座ると酒燗器が見え、ホッとひと息。

「熟成酒を経て燗酒にハマり、今や3分の2を占めています」と店主夫妻。

店主の吉野允規さん・麻美さん夫妻。素敵な内装は麻美さんのセンス!
店主の吉野允規さん・麻美さん夫妻。素敵な内装は麻美さんのセンス!
お任せの燗酒半合と酒菜3種セット1980円で燗酒の門戸を広げてほしい。日本酒は燗向き20種・冷酒向き10種ほど。半合各880円、1合1210円~。
お任せの燗酒半合と酒菜3種セット1980円で燗酒の門戸を広げてほしい。日本酒は燗向き20種・冷酒向き10種ほど。半合各880円、1合1210円~。
今宵合わせたのは青森の「七郎兵衛」純米吟醸(1合1540円)。
今宵合わせたのは青森の「七郎兵衛」純米吟醸(1合1540円)。

その魅力を広めるべく、今年始まった燗酒半合と酒菜3種セットがニクい! 和牛ジャーキーや発酵白菜など燗好きの心を見抜く肴に「神亀」半合では止まらず、品書に目を落とす。「日置」45℃、「玉川」60℃……うわ、燗つけの温度まで併記してる。「5℃違えば味も違ってきますから」。

続いて頼んだポテサラは、大葉・長ネギ・ミョウガと薬味たっぷりで、これぞ酒肴。さらに、塩コショウで軽く下味を付けた天然本マグロのユッケなんて反則だよ、もう。

きびのポテサラ759円。
きびのポテサラ759円。
海苔で巻いて味わう大間の天然本マグロのユッケ3300円は、ちびちびやるのに最高だ。
海苔で巻いて味わう大間の天然本マグロのユッケ3300円は、ちびちびやるのに最高だ。

「自分の料理は引き算。日本酒に伴走するよう心掛けています」

昭和のアンティークな雰囲気が温かく、燗つけを待つ時間も居心地がいい……と、目の前に夫妻の娘さんが遊びで書いた「何でも100円で売ってる。ひなこショップ」の張り紙が。

ああ、最近飲み歩き過ぎだ。今日は息子が寝る前に帰ろう。

酒器・食器などは民藝品や骨董品を中心に揃えています
酒器・食器などは民藝品や骨董品を中心に揃えています

『きび』店舗詳細

住所:埼玉県草加市栄町2-5-23 エトワール山崎 1F/営業時間:18:00~23:00/定休日:月(不定休あり)/アクセス:東武鉄道東武スカイツリーライン獨協大学前駅から徒歩6分

写真・文=鈴木健太
『散歩の達人』2026年3月号より