にんにくの香りが食欲そそる! 福岡のB級グルメが食べられる専門店
鉄板焼肉は、もともと福岡・博多で60年以上前から親しまれてきたB級グルメだ。焼肉という名前だが、目の前にある鉄板で肉を焼くわけではないし、カルビやタンといった部位が選べるわけでもない。『三冠王』では脂の少ない豚のハラミ肉を角切りにしたものと、たっぷりのキャベツをにんにくとラードで炒めたものを熱々のステーキ皿にのせて提供する。
『鉄板焼肉 三冠王』は、その名の通り鉄板焼肉の専門店。鉄板焼肉とライスと味噌汁以外のメニューは生たまご、自家製ポテトサラダぐらい。鉄板焼肉は、一人前、一人半前、ダブル、トリプルと量が選べ、ライスもまた小、中、大、特大と量が選べる。つまり、焼いた肉とキャベツ、それにごはんで、しっかりおなかを満たしてほしいというお店だ。ランチタイムは、ライスが小か中、そして味噌汁が無料となる。
鉄板焼肉一人前とライスの中をモバイルオーダーで注文。厨房にある受信機が反応すると、店主石沢稔(いしざわみのる)さんの「ありがとうございます」という声が続く。それから石沢さんは、まず楕円形のステーキ皿をコンロの上に置いて火にかける。そして冷蔵庫から出した豚のハラミを計量。次は、ざるにキャベツを入れて、やはり計量する。
鍋の中でラードを熱したら、にんにくと肉をザッと入れる。両手にフライ返しを持って炒めて、肉に火が通ったらキャベツを加える。味付けは、塩をメインとした調味料だけで至ってシンプルだ。2本のフライ返しが中華鍋に当たるカンカンカンという音、炒め上がる具材のジュージューという音、そしてにんにくの香りも一緒に客席まで届く。
豪快に食べよう! ごはんが進む肉とキャベツ
高温になったステーキ皿に盛り付けられたキャベツと肉は、木製の台に載せて提供される。そのとき傾斜をつけるために木の棒を挟むのも鉄板焼肉の特徴だ。ステーキ皿の上からは、もうもうと湯気が立ち、ジュージューと鉄板の上で焼ける音も続く。
それから黄色いたくあん2枚をのせたごはんと味噌汁があとからテーブルに運ばれてきた。「さあアツアツを食べろ。腹いっぱいになれ」といわんばかりの光景だ。
まずは、肉とキャベツを頬張る。ハラミ肉の角切りは想像していたよりやわらかい。キャベツは噛むと、サクサクと音がするような歯応えが心地いい。石沢さんは「キャベツの甘さがおいしさのポイントなんですよ。半生ぐらいがちょうどよくて、季節にもよって焼き加減を変えますね」と教えてくれた。例えば春キャベツは、柔らかいので炒めすぎないほうが食感よく食べられる。
ところで、ステーキ皿に木の棒を使って傾斜をつけるのは、端に油を集めるため。その集めた油に卓上調味料の辛味噌を加えると味変できる。辛味噌は自家製で、味噌に豆板醤とコチュジャンを合わせることで、辛さに甘みも感じられる仕上がりだ。辛味噌を油に溶かして、肉やキャベツに混ぜ合わせると、ますますごはんが進む。
食べる前は中盛りのライスが食べ切れるかと、若干不安に思っていたが、それは杞憂だった。シャキシャキしたキャベツ、柔らかいハラミ肉、しっかりした味付けで、辛味噌を加えるとさらに箸は進む。気づいたら、ステーキ皿の上の肉とキャベツより、ライスの方が先になくなっていた。「やっぱりごはんと肉が主役のメニューだから、お米がおいしくないとね」と石沢さんが選ぶ米はコシヒカリだ。
九州で20年以上前に出合った味が忘れられず業態変更
石沢さんはずっと飲食店で働いていて、最初は日本そば店、その後はラーメン店などで勤務。熊本ラーメンの店に勤めていたときは、九州をたびたび訪れ、20年以上前に福岡で鉄板焼肉と出合った。強く記憶に残っていたが、独立後はラーメン店を開き、並行して焼肉店も営んでいた。
5年ほど前に再び福岡を訪れる機会があり、あの鉄板焼肉をもう一度と元祖の店へ。するとボリューム、味、提供の仕方のオリジナリティを改めて気に入った。これは焼肉店より人気が出るかもしれないと、業態変更を模索。コロナ禍に閉めた焼肉店の跡地で鉄板焼肉の提供を開始した。これまでの調理人としての経験を生かして、福岡の店の味を再現するような作り方をしている。元焼肉店経営者として、時間がかかるハラミ肉の下処理はていねいに行うのが石沢さんのポリシーだ。
「肉とキャベツ、1人前は何gですか?」とたずねてみると、「肉は1人前120g。キャベツは250g」とのこと。そんなにもたくさん食べただろうかと思うほど、ペロリとおなかにおさまった。
鉄板焼肉という名前から、主役は肉だと見せかけて、実はキャベツとごはんを食べるための肉なのだ。手頃な値段で肉と野菜、おいしいごはんでおなかいっぱいになりたい日に訪れよう。もちろん、冷たいビールを合わせるのも、たまらないだろう。
取材・文・撮影=野崎さおり






