アクセス

鉄道:JR・地下鉄東京駅からJR常磐線などで約1時間20分の土浦駅下車。関東鉄道バスに乗り換え、阿見町役場前まで約15分。

:常磐自動車道三郷JCTから同道を利用し、桜土浦ICまで約39km。同ICから町中心部まで約7km。圏央道牛久阿見IC、阿見東ICも利用可。

命を賭け、空を目指した少年らの姿に胸が詰まる『予科練(よかれん)平和記念館』

予科練習生が過ごした吊床や教室を再現した展示室「訓練」。館内には写真家・土門拳が練習生を撮った作品も掲示されている。
予科練習生が過ごした吊床や教室を再現した展示室「訓練」。館内には写真家・土門拳が練習生を撮った作品も掲示されている。

昭和14年(1939)、航空機の搭乗員を育てる飛行予科練習部(予科練)が横須賀市から海軍航空隊のある阿見町へ移転。時代に翻弄された少年らの日々の様子や苦悩などを、予科練制服の七つボタンにちなんで入隊・訓練・心情・飛翔・交流・窮迫・特攻と7つのテーマに分けて紹介している。

広大な湖面を渡る風が心地よい「霞ヶ浦沿いの道」

霞ヶ浦の先に土浦の街並みや筑波山を見通す。
霞ヶ浦の先に土浦の街並みや筑波山を見通す。

琵琶湖に次ぎ、日本で2番目に広い湖・霞ヶ浦の南西畔に位置する阿見町。湖沿いの道は全長180kmのサイクリングコース「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の一部に指定されており、『予科練平和記念館』ではレンタサイクルの貸し出しにも対応している(要予約)。ポケットパークの島津小公園にはベンチのほか駐輪場・駐車場も整備。

町が歩んだ歴史に思いをはせる「旧海軍の遺構」

海軍航空殉職者慰霊塔の前に立つ安部次男会長(中央)ら阿見観光ガイドの皆さん。春と秋にはウォーキングイベントも開催。
海軍航空殉職者慰霊塔の前に立つ安部次男会長(中央)ら阿見観光ガイドの皆さん。春と秋にはウォーキングイベントも開催。
茨城大学農学部構内にある直径2mの方位盤。
茨城大学農学部構内にある直径2mの方位盤。

大正11年(1922)から太平洋戦争終戦まで、阿見町には霞ヶ浦海軍航空隊が置かれ、本部地区のあった現茨城大学農学部構内や、阿見坂下交差点から南へ延びる幅の広い旧海軍道路沿いなどに当時の史跡が残る。ボランティア団体である阿見観光ガイドの解説とともに訪ね歩けば、理解も一層深まる(申し込み:あみ観光協会☎029-886-8771)。

お気に入りの席に陣取り、くつろぎの時間を楽しめる『桜坂テラス since 1923』

注文を受けてから客の目の前で仕上げていく生搾りモンブランは、見ているだけで幸せ気分に。
注文を受けてから客の目の前で仕上げていく生搾りモンブランは、見ているだけで幸せ気分に。
予科練の制服にある七つぼたんをあしらった人形焼も販売。
予科練の制服にある七つぼたんをあしらった人形焼も販売。
店内の棚には山本さんのティーポットコレクションが並ぶ
店内の棚には山本さんのティーポットコレクションが並ぶ

2024年オープンのカフェで、店名には店を切り盛りする山本みゆきさんの曽祖父がこの地で創業した年への思いが込められている。「つくば霞ヶ浦りんりんロード」の一部である国道125号に面したテラス席から、テーブル席・小上がり・デッキ席へと続き、座る場所により店の印象が異なる造りが面白い。紅茶インストラクターの資格を持つ山本さんが厳選した紅茶とともに、アイス入り生搾りモンブランをじっくり味わいたい。定番の鳴門金時モンブラン1200円、ドリンクセット1700円(ダージリンは100円増)のほか、季節限定モンブランも要チェックだ。

店先のテラス席にはサイクルラックも設置。
店先のテラス席にはサイクルラックも設置。

町民に親しまれる阿見のソウルフード『伊勢屋』

「変わらぬ味を保つため、日々作り方を変えています」と平岡誠さん・真穂さん夫妻。
「変わらぬ味を保つため、日々作り方を変えています」と平岡誠さん・真穂さん夫妻。
塩気の強い甘だんごなど、この店だけの伝統の味も人気の一因。
塩気の強い甘だんごなど、この店だけの伝統の味も人気の一因。

いつ通りかかっても客足が途絶えない1976年創業の和菓子店。店頭には焼きだんご・甘だんご各100円のほか、いなり100円、茶めし120円、玉子巻き160円など腹持ちのよいごはんものも並ぶ。「昔ながらの製法にこだわり、今後も懐かしい味を提供していきたい」と2代目の平岡誠さんは語る。

濃厚で肉汁あふれる常陸(ひたち)牛のハンバーガー『Sal de Café』

「樽型の席はとても落ち着くと人気があるんですよ」と話す店主の木幡大輔さん。
「樽型の席はとても落ち着くと人気があるんですよ」と話す店主の木幡大輔さん。
超豪勢なトッピングのサルデ BURGERポテトセット2150円。
超豪勢なトッピングのサルデ BURGERポテトセット2150円。

モーニング、ランチ、週末限定のディナーと都合に合わせて使い分けられ、メニューもソフトドリンクからアルコール、食事まで幅広い。目玉は常陸牛100%のパテを挟んだハンバーガーで、人目を気にせずがぶりとかぶりつきたい。

彩り鮮やかな弁当や総菜の数々に思わず見ほれる『手作り惣菜の店 トレンドキッチン』

田中健一さん(右)と栄養士でメニュー作りの強い味方の椎名麻理沙さん。
田中健一さん(右)と栄養士でメニュー作りの強い味方の椎名麻理沙さん。
ローストビーフ丼1000円はじめ手の込んだタルトやマリネも評判だ。
ローストビーフ丼1000円はじめ手の込んだタルトやマリネも評判だ。

町の中心部から離れた場所にありながら、デパ地下のようなクオリティの高い弁当や手間をかけた総菜がずらりと揃うテイクアウト専門店。代表で料理担当の田中健一さんいわく、「持ち帰って食べたとき、いかにおいしく味わっていただけるかを逆算しながら提供しています」とのことだ。

アイデアあふれる阿見町みやげを創出『ギフトセンターツカモト』

みそ豚ジャーキー498円は県産豚肉を地酒「桜翔」の酒粕とレンコン味噌で漬け込んだ珍味。肉厚でしっとりとした食感の逸品だ。
みそ豚ジャーキー498円は県産豚肉を地酒「桜翔」の酒粕とレンコン味噌で漬け込んだ珍味。肉厚でしっとりとした食感の逸品だ。

本業である冠婚葬祭用贈答品取り扱いの一方、地元に密着した商品も開発・販売。ちゃんこ鍋の素やブルゾンなど町内に部屋を構える大相撲二所ノ関部屋公認グッズのほか、特産であるヤーコン芋のパウダーを練り込んだヤーコンバウムクーヘン1080円(受注販売)などを扱っている。

世界初の山野草から手頃な多肉植物まで育種・生産『ワイルドプランツ 路地裏のギボウシ』

手入れに余念のない後ノ上(ごのかみ)憲一さん。山野草愛にあふれ、語り口は穏やかながら熱い。
手入れに余念のない後ノ上(ごのかみ)憲一さん。山野草愛にあふれ、語り口は穏やかながら熱い。
異なる花弁数の咲き分けを作出したイワギボウシは世界初。
異なる花弁数の咲き分けを作出したイワギボウシは世界初。

ギボウシと呼ばれるかれんな山野草をはじめ、ヤマユリ、ヤマシャクヤク、斑入り植物などを育種・生産・販売。地道に改良を重ねて作出した世界初のオリジナル品種は50種を超えるというから驚く。価格や育て方など不明点も丁寧に教えてもらえる。

レザークラフト体験教室を開催『Soul Leather 革魂』

代表の大竹正博さんと主に体験教室を担当する妻・紀美子さんの指導を受け、自分だけの作品づくりに打ち込む。
代表の大竹正博さんと主に体験教室を担当する妻・紀美子さんの指導を受け、自分だけの作品づくりに打ち込む。
できあがった手作りのコインケース(左前)とキーケース。
できあがった手作りのコインケース(左前)とキーケース。

Japan Leather Craft協会副会長の大竹正博さんが、「自ら作る喜びを多くの人にも知ってほしい」と体験教室を開催(要予約、所要約3時間、1~6名)。打刻・染色・かがりの工程を経て、コインケース4500円やキーケース5500円を制作するもので旅の記念になる。

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町がかつて歩んだ歴史

朝早く、霞ヶ浦に面した湖畔の道へ足を運んでみた。この日は風が強く、湖岸に打ち寄せる波を見ていると、まるで海を前にしているような錯覚に陥る。

阿見町の歴史をひもとく際、避けて通れないのが、大正期に阿見原と呼ばれる台地上(現在の町の中心部付近)に置かれた霞ヶ浦海軍航空隊と、昭和15年(1940)に霞ヶ浦沿いの地に独立した土浦海軍航空隊の存在だ。目の前に広がる霞ヶ浦は、かつて水上飛行機の練習場として利用され、今、その湖畔には戦争の悲劇を伝え、命の尊さを訴える『予科練平和記念館』が立っている。

一方、町がかつて歩んだ歴史の記憶は、戦後80年という歳月の経過も重なり、移住者増が続く地元住民にとっても徐々に希薄になりつつあるのが現実だ。そんななか、旧海軍の足跡をたどる阿見観光ガイドの活動や、予科練のシンボルである七つボタンをかたどった『桜坂テラス』の人形焼などに触れると、町の歩みを伝えようとする懸命な姿勢が伝わってくる。

空都から住都へと様変わりした町

ところで、ほぼ平坦な町内をひとしきり巡ってみたものの、新旧住宅地のほか工業団地、農地、大学、医療機関、大型商業施設などが点在しており、町の特徴をひとことで端的に表現するのは難しい。ある意味、新旧入り混じり、渾然(こんぜん)一体となった今の状況が阿見町らしさなのかもしれない。

利便性と豊かな自然が共存する魅力に惹かれ、増え続ける町の人口は5万人を突破したとのこと。「この町は終戦までは東洋一とも評された飛行場を抱える“空都”でしたが、今では住みよい“住都”といった趣ですね」と話していた阿見観光ガイド安部次男会長の言葉が脳裏によみがえってくる。2027年11月に市制施行を目指す「阿見町改め阿見市」が今後どのような姿になっていくのか、ますます興味は尽きない。

さて、新旧が渾然一体となっているのは、今回足を運んだ先も同様で、どちらかといえば「阿見らしさ」を求めるより、携わる皆さんの姿勢や人柄が強く反映されている印象が強い。

とりわけ印象深かったのが『ワイルドプランツ 路地裏のギボウシ』の後ノ上憲一さんと、『Soul Leather 革魂』の大竹正博さんだ。必ずしも町内で広く知られた方々ではないものの、ご本人から専門性の高い話を聞けば聞くほど、それぞれの分野において、ともに名の知られた存在だと分かった。

「いやはや、世界に誇る豊富な知識や経験、突出した技量を持つ方が、町内にひっそりいるあたりも、阿見町の魅力の一つで、懐の深さなのかもしれないな」と感心し、旅の途中で口にした幾多の味を思い浮かべながら、町で過ごした時間を振り返った。

【耳よりTOPIC】産学官連携で地酒を開発

町産南高梅使用の「華梅」、「桜翔」、常陸秋そば使用の「桜蕎」(写真提供=あみ観光協会)。
町産南高梅使用の「華梅」、「桜翔」、常陸秋そば使用の「桜蕎」(写真提供=あみ観光協会)。

「桜翔(おうしょう)」(720ml 2200円)は、食用米である阿見町産・ミルキークイーンと東京農業大学がバラの品種プリンセス・ミチコから分離に成功した花酵母を用い、つくば市の浦里酒造が醸した甘い口当たりの純米大吟醸酒。町産原料にこだわった梅酒「華梅(はなうめ)」、そば焼酎「桜蕎(おうきょう)」もある。『ギフトセンターツカモト』ほかで販売。

取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2025年5月号より