地域に根付き、スペシャルティコーヒーの魅力を発信
『コフィノワ(COFFEE NOVA)』という店名には、コーヒーの生産者と消費者を繋ぐ「コーヒーの輪」になりたい、「新たなコーヒーの素晴らしさを提供したい」という願いが込められている。オーナーの高橋さんはコーヒー店で13年ほど勤め、主に焙煎を担当していた。「焙煎から抽出まで自分で手がけ、お客様が味わうシーンを見届けたい」と独立を決意し、2016年にオープン。焙煎したての豆で淹れるライブ感あふれるコーヒーを味わうことができる。
客層は近隣の常連客を中心に、世代を超えて幅広い。周辺にはホステルも多いため、海外からの旅行客も訪れる。
高橋さん自身が蔵前に住んで20年弱。下町らしいゆっくりした時間の流れ方や人の温かさに惹かれて、結婚を機に引っ越してきた。蔵前では、コーヒー店同士の交流も盛んで、持ち寄った廃棄予定の豆をビールに再生する、SDGsに向けた活動も行われている。
バラエティーに富む豆と抽出方法、本格的な自家製スイーツも!
月替わりで13、14種類ほどのコーヒー豆を販売しており、仕入ルートは様々である。イベントで生産者から直接話を聞いたり、ダイレクトトレード(生産者と販売業者が直接取引を行う仕組み)に参加するほか、個人輸入業者から珍しい豆を購入したり、Zoomで生産者と気軽にやり取りすることもある。
抽出方法は、透過式のドリップ、エスプレッソ、コールドブリュー(ダッチコーヒー)、浸漬式のエアロプレスの4種類から選べる。輪郭のあるスッキリした味が好きな方は、ドリップがおすすめ。エアロプレスでは、浅煎りのコーヒーを抽出することをおすすめしているので、豆の香りとボディー感が強調され、フルーティーさが際立つ。客の好みに合わせて豆の種類や抽出方法を提案、高橋さんから技術を学んだスタッフが丁寧に抽出してくれる。
スイーツは、かつてフランス料理の調理師だった高橋さんの経験を生かして、手作りのメニューを提供している。中でも、自家製カスタードプリン500円、自家製バスクチーズケーキ680円が目を引く。卵、生クリーム、牛乳、砂糖、バニラビーンズから作られたプリンは、滑らかな口当たりで、ほのかに効いたラム酒の風味と濃厚なカラメルが癖になる味。コーヒーとも絶妙にマッチする。
近隣の老舗『ペリカン』の食パンを使ったトーストメニューもある。バタートースト、ハニートースト、シナモンハニートースト(ホイップクリーム添え/アイスクリーム添え)、オニオンチーズトーストから選べ、ふわふわでしっとりしたパンと好みの具で、舌もお腹も満たされる。
実力は折り紙付き!プロに委ねる安心感
米国CQI 認定の国際コーヒー鑑定士資格Qグレーダーと、JCQA(全日本コーヒー商工組合連合会)認定のコーヒーインストラクター1級を持つ高橋さん。前者は研ぎ澄まされた味覚や的確なジャッジ力が試され、3年ごとに更新が必要となるハードルの高い資格。後者は、コーヒーに関する幅広い知識を証明する。
『コフィノワ』では、高橋さんがおいしさや均一性、甘味、後味などを厳密に採点し、スペシャルティコーヒーと判断した商品のみを扱っているため安定した旨さを楽しめる。
焙煎は毎朝、開店前に行う。浅煎りか深煎りかだけではなく、豆のおいしさや甘さ、香りが最も引き立つ焙煎を目指して、都度コーヒーの状態を見ながら、熱量を調整する。
「同じことを続けていても、それ以上のものはできないので、失敗ありきで常にいろいろなことを試しています」。技術を絶えず進化させていきたいという職人らしい想いがのぞく。
一方で、コーヒーはお客さんの好みで自由に飲んでほしいとも考えている。気持ちをリセットしたり、スタートダッシュに備えて飲んだり、様々なシチュエーションで、コーヒーを飲む時間そのものを味わってほしい。
そんな高橋さんの願いが、何度でも訪れたくなる居心地の良さを生み出しているのだろう。
取材・文・撮影=菊地翔子