『フジヤコーヒー』として再出発
三鷹駅南口からまっすぐ伸びるメインストリート、中央通りを歩くこと約8分。コーヒーらしき飲み物が入ったマグカップを抱えた黒いクマのイラストが可愛らしい看板に目が留まる。この店こそが、今回紹介する『フジヤコーヒー』だ。一面ガラス張りの外観からは、店内の賑わいがうかがい知れる。
看板に再び目をやると、店名の下には「supports by 横森珈琲」の文字。Webで検索しても「(旧横森珈琲)」という表記が並んでおり、この街に馴染みのない人にとっては横森珈琲との関係性が気になるところではないだろうか。
実は『フジヤコーヒー』は、この場所で長年親しまれていた「横森珈琲」で店長を務めていた藤谷さんが2022年10月に独立して、店主として再スタートをきった店なのだ。物件はもちろん、これまで使用していた家具や機材などもそのまま引き継いだ。店のInstagramアカウントでも、10月21日の投稿で『フジヤコーヒー』への店名変更を知らせているが、その文章にもあるように横森珈琲時代に提供していたドリンクやフードなどサービス面の大きな変更はなく、あくまで運営と店名が変わっただけという。
そんな藤谷さんを実務や運営面などで幅広くサポートするのが池野さん。彼も横森珈琲時代からスタッフとして働く一人で、藤谷さんの新たな挑戦をしっかりと支える頼もしい存在だ。
『フジヤコーヒー』として再出発してからの変化について二人に尋ねてみると、池野さんは「横森珈琲のいいところは踏襲したいと考えていたので、サービスの多くや店の雰囲気はそのままにしています。例えば、横森珈琲のときからランチタイムにはセットでコーヒーを提供しているんですけど、そのコーヒー1杯をとってもきちんと心を込めて淹れるとか、手を抜かないことは今も大切にしています」と話す。
「ハンドドリップで淹れるようになったのは2~3年前からですかね。せっかくコーヒー店として営業しているのだから、おいしいコーヒーを提供したいと思い、提案したのがきっかけです。その分、手間は掛かってしまいますけど、お客様に喜んでもらえるなら、とことんやりたいと思っています」と藤谷さん。
老舗や大手のコーヒー店でバリスタ経験を持つ二人だからこそ、コーヒーへの想いはひと際強いものがあるが、フードも実に手が込んだ本格派だ。食事メニューはもちろん、ケーキやクッキーなどのスイーツメニューに至るまで、すべて手作りで提供している。食事メニューにいたっては、メインだけでなく副菜となる小鉢まで日替わりで用意するほどの手の込みよう。
「フードを担当してくれているスタッフも含めて、僕たちはそれぞれの得意分野を持った集団だと思っています」と池野さんが言うように、スタッフ全員が自分たちのフィールドでおいしいものを妥協せずに提供するという使命を持っているように感じた。
目に見えないホスピタリティの充実を目指して
さらに二人は、お客さんにとってよいと思うことは、どんどん挑戦していきたいと意欲を見せる。「今までもお客さん目線のサービスを心掛けてきましたが、今後はよりお客さんの声を聞きながら、目に見えないホスピタリティを充実させていきたいと思っています」。
例えばそれは、キャッシュレス決済利用の条件改善だったり、ポイントカードの金額対象以下となってしまうコーヒー1杯だけの利用でも、お客さんに何か還元できないかという想いから生まれたコーヒーチケットの導入だったりと、どれも徹底してお客さんの立場に立って考えられたものばかり。いずれも近日中の実施を目指して準備中だ。
また、お客さんの中にもファンが多いという、看板に描かれていたクマのキャラクター、ヨコモリくんのグッズを増やしていく計画や、この店のシグネチャーブレンドとなる、その名も「フジヤコーヒー」の開発・製造も行われているといい、こちらも着々と準備が進められている。
この取材の中で特に印象に残った言葉が、池野さんが言った「店は“器”だ」という言葉。店のデザインやサービスなど“器”となる外枠をしっかり整えてさえいれば、その中には自ずとお店にとってよい影響を与えてくれるお客さんが訪れてくれて、店の雰囲気がつくられていくのだという。心機一転、再出発した『フジヤコーヒー』の今後が楽しみでならない。
『フジヤコーヒー』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英