昼は食堂、夜は酒場
『結わえる本店』は、隅田川のすぐ近くに店を構える。下町の雰囲気にしっくり馴染むような、どこか昔懐かしい雰囲気の外観が目印。
引き戸を開けて中に入ると、正面には酒や調味料などを扱うショップが広がる。その左隣のスペースが食堂だ。広々とした空間の中には、20席ほどのテーブル席とカウンター席。随所に和の民芸品などが飾られており、昔懐かしい雰囲気をより引き立てている。
この店は、昼は玄米定食を、夜は季節料理を提供する酒場となる。定食は、主菜がない箱膳定食、主菜がついたハレ箱膳定食、主菜・刺身・デザートがついたちょっぴり贅沢な結わえる御膳の3種類から選べる。モチモチの食感が特徴の寝かせ玄米を中心に、数種類のおかずと汁ものから自由に組み合わせできるスタイルだ。
おかずや汁ものなど、寝かせ玄米以外はすべて日替わり。料理長の武石弘樹(たけいし ひろき)さんは、その日新鮮な野菜や魚などを仕入れて、それぞれの食材に合った調理法で日々提供していると話す。「肉でも魚でも、なるべく味付けや調理法が似ないように気を付けています。それと、寝かせ玄米がお米の甘みをしっかりと感じられる味わいになっているので、相性を考えつつ、同時にそれに負けない味を意識していますね。でも、何より大切にしているのは、お客さんに美味しいと感じてもらえるような料理を作ることです」。
肉または魚から選べる主菜の味付けなどにも使用される味噌や塩麴・醤油麹は、この店の自家製。さらに、主菜がつかない定食でも満足感を感じられるように、数種類の野菜を使用し、食感や味付けにこだわって調理するなど、細部にまで気を配ったワザが光る。
夜の営業になると、メニュー構成も一気に変わり、また違った顔を見せる。「昼は健康に気を遣った料理を提供する分、夜は少し自分を甘やかすというか、お酒と一緒に食べたいものを食べて欲しいという想いで提供しています」と武石さん。
刺し身や焼きものなど新鮮な魚を使った料理から、自家製の味噌や麹に漬け込んだ肉料理、ハーブを効かせた野菜料理や定番のおつまみメニューまで、魅力的な品々が並ぶ。酒は、全国各地のクラフトビールから日本酒、どぶろくまで用意する。ほかにも、国内外のナチュールワインなど厳選されたラインナップが揃う。酒場としては珍しく、サワーやソフトドリンクに至るまで、ほぼすべての飲みものが無添加というのも、この店ならでは。
昼と夜とで異なる顔を見せながらも、体によいものを提供したいという根本的な想いは変わらないようだ。
“美味しく健康”を実現
『結わえる』の代名詞的存在である寝かせ玄米。白米に比べてボソボソとした食感になりがちな玄米を、もち米との区別がつかないくらいモチモチとした食感で味わえるのが魅力だ。素人には魔法とも思えるようなテクニック。その開発の裏側について、スタッフの田口明香さんは、こう教えてくれた。「健康のために玄米を食べようとしても、美味しくないんじゃ続かないし、無理して食べてもかえって体によくない。そこで、美味しく健康を維持できるようにと開発したのが、この寝かせ玄米なんです」。
寝かせ玄米は、圧力鍋で炊いた玄米を3〜4日の間、保温しながら寝かせて作られる。圧力をかけて炊飯することで、もっちりとした食感が生まれるのだそう。この寝かせ玄米は、自宅でも手軽に食べられるようレトルト販売もされている。『結わえる本店』はもちろん、オンラインや都内の百貨店などで購入が可能だ。定食で提供されている小豆をブレンドしたもののほか、もち麦や黒米をブレンドしたものといった数種類のラインナップから選べる。
『結わえる本店』に併設されているショップ『よろずや』では、寝かせ玄米のレトルトパックのほか、酒場営業の際に提供している日本酒やワイン、さらに全国各地の生産者が手掛けるこだわりの調味料や食材などを扱っている。こちらの商品も、すべて無添加が売り。
豊富な食材であふれている日本だが、無添加の食品を見つけることはなかなか簡単なことではない。さらに、玄米食の普及もアメリカに比べてまだまだだという。一汁三菜や発酵食品など、日本には古くから伝わる健康によい食文化が残っている。その土台にプラスするかたちで、無添加・玄米食という原点回帰ともいえる意識が、より多くの人たちに根付くよう『結わえる本店』は今日も店頭からさまざまなかたちで提案を行っている。
『結わえる本店』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英