朝。まだ夢うつつのこの街で、いち早く開ける店がある。日本茶カフェ『LE LIEN』だ。「朝起きたらまず、日本茶が飲みたいんですよね」と、店主の近藤祐子さん。お茶の支度が整うと、犬の散歩や夜通し起きていた人が、待ってましたと立ち寄っていく。やがて、パン屋、喫茶店が店を開けると、街がようやく起き出すのだ。
もともと喫茶文化が息づく西荻で、昨今お茶文化が広がりを見せている。茶を喫し、語らいながら店をはしごするイベント「西荻茶散歩」は10周年を数え、台湾茶も含めたお茶専門カフェの出店も相次いでいる。日本茶とコーヒーの組み合わせを提案する独創的な店だってある。
そのなか、路地に潜む『茶舗あすか』は、さしずめ小さなお茶の学校だ。所狭しと茶葉、茶器が並び、高級茶葉ですら試飲価格。ゆっくり煎を重ねながらの茶飲み話も奥深い。店主の渡邉恵子さんは「私、お茶の先生よ」と、月1で茶塾を開き、茶葉の飲み比べや、勉強会を続けている。ここで知識を身につけ、日本茶カフェを開いた人は少なくない。
一方で、あんこ派による新提案も勃発中だ。「西荻は昔からお茶の街。年配者も多いからか、お茶屋さん、和菓子屋さんがとにかく多彩です」と、『藤の木』の下田将司さん。贔ひいき屓の店の味を家族団らんのひとときに味わう家が多いのだろう。「うちのも手にとってもらえたら」と、あんぱんだけでも種類多彩だ。他にも、紅茶と甘味を合わせる店、締めに和菓子を出す酒場があり、正統派甘味処も健在だ。とかくユニークな店が多いのは「西荻の人は個性の強い方が多くて、こだわりのある店に集まるんです」と、『Satén Japanese tea』の小山和裕さん。
徘徊すると、渋みと甘みの世界が無限に広がっていく。より深く豊かに味わえば、人生の渋みも増していくに違いない。
和の素材を組み合わせたジェラートが癒やしの味『西荻3時』
ジェラートの種類は常時10~12種類ほど。特に定番の和素材を使ったジェラートは人気がある。中でもとうふミルクは豆乳ではなくとうふを使ったジェラートで、口に入れるとどこかとろりとした感触が楽しい。ジェラートの盛り付けには、コーンではなくモナカを使用。カップ形のモナカは金沢にある老舗のモナカ専門の会社から仕入れている。モナカは繊細ですぐに湿気ってしまうが、『西荻3時』のモナカはジェラートが食べ終わる頃までパリッとした食感が楽しめる。抹茶やとうふなど日本的な素材のジェラートにはポン菓子をトッピング、ミニパフェには京都から取り寄せたわらび餅を入れるなど、伝統的な和というより、懐かしさを感じるセレクトにセンスのよさが現れている。
『西荻3時』店舗情報
午前のおやつタイムにもうってつけ。『LE LIEN』
早朝から開ける近藤祐子さんは、大の日本茶党。煎茶11種に、和紅茶、玄米茶、ほうじ茶を揃え、茶葉が開いたのを確認して淹れてくれる。お供には上生菓子を。「お客さんに紹介してもらい、すごく気に入ってしまって」。やさしい甘みが舌に広がり、お茶に寄り添う。
『LE LIEN』店舗詳細
ぎっちり詰めた薄皮あんぱん!『藤の木』
昭和12年(1937)創業のパン屋にあん系の多いこと。3代目店主の下田将司さんは無類のあんこ好き。つぶあんを4分の3もぎっちり詰めた薄皮あんぱんの他、国産小麦の生食パン、ゲランドの塩パンにもあんをイン! 「さすがにあんカツサンドは失敗でした」と笑いつつ、日々新作を練る。
『藤の木』店舗詳細
お茶の新しい表情にも出合える。『Satén Japanese tea』
しゃれた風情の日本茶カフェでは、狭山、掛川など、単一農園のシングルオリジンを、2週間ごとに替えながら常時2種用意。抹茶は香り豊かな宇治『製茶辻喜』製だ。茶リスタの小山和裕さんが、バリスタの藤岡響さんと組み、日本茶×コーヒーの独創的なお茶も考案。新世界の幕開けだ。
『Satén Japanese tea』店舗詳細
西荻きっての茶の聖地。『茶舗あすか』
路地に潜む『茶舗あすか』は、さしずめ小さなお茶の学校だ。所狭しと茶葉、茶器が並び、高級茶葉ですら試飲価格。ゆっくり煎を重ねながらの茶飲み話も奥深い。「どんなものが飲みたいか、好みを教えてくれれば出しますよ」と、大の日本茶党の渡邉恵子さん。山の奥地で自生する在来種や、手摘みの熟成茶など、扱うのはおよそ100品種! 48年前より販売をはじめ、やがて茶塾、喫茶も催すように。ざっかけない風情だが、天目茶碗で抹茶を出す時も。
『茶舗あすか』店舗詳細
紅茶にもあんこが合うんです。『喫茶去 一芯二葉』
「少し特別感を感じるものを」と保坂拓さんが揃える茶葉は常時30~40種。選んだカップでいただけば、豊かな香りがのぼる。紅茶に加え台湾茶も増加中だ。奥様の寿子さんが炊くこしあんは、甜菜糖でコクと風味が引き出され、おしるこなどで堪能できる。あっさりめのダージリンと。
『喫茶去 一芯二葉』店舗詳細
ツヤツヤ黒光りする珠玉のあん。『甘いっ子』
使うのは北海道産の豊祝。「粒が大きくて味がいいんです」とは、2代目の池直志さん。粒を潰さぬようかきまぜずに鍋を揺らし、ザラメでコクを引き出す。つぶあんはぷっくりツヤピカなのに、なめらかでふくよか。餅粉を加えた白玉の弾力と舌触りにも惚れる。餅も自家製だ。
『甘いっ子』店舗詳細
小豆の魅力の幅広さ。『一軒家カフェ&サロン hana』
築80年という2階建ての古民家で、2015年から1階をカフェ、2階をサロンやレンタルスペースとして営業している。古い窓ガラスなどが残る店内で食べられるのは、おはぎやぜんざい、かき氷など、甘味処のような小豆を使ったメニューの数々だ。特製のあんこは、北海道産大納言小豆と金時豆をブレンドし、黒砂糖を加えて炊いている。砂糖の量は相当控えめ。口に入れると、豆の味と食感が味わえると好評だ。夏の人気メニューはなんといっても特製かき氷。目の前に置かれると、思わずのけぞってしまいそうな迫力あるボリュームだ。かき氷は3種類用意されているが、いちばん人気は「あずきな粉」。オープンした年からの定番だ。
『一軒家カフェ&サロン hana』店舗詳細
※営業時間は変更の場合あり/定休日:月・木/アクセス:JR中央線西荻窪駅から徒歩4分
酒の締めにうれしいとろりとした甘み。『をかしや』
コノハズクのチョビが店先にいたら、開店の合図。薄明かりの中、皆がアテをつまみつつ、燗酒をゆるゆる飲む。締めは和菓子を。長く和菓子の仕事に携わってきた店主の戸辺麻理子さんが、目の前で見事な手さばきを披露し、美しい練り切りを拵える。出来たてはとろりやさしく、やわらかな口どけだ。
『をかしや』店舗詳細
取材・文=佐藤さゆり、野崎さおり 撮影=阿部 了、野崎さおり