特別感のある食べ物、アイスも和の素材多用で罪悪感を少なく

外観も懐かしい雰囲気。表に掛けられた時計は3時で固定している。
外観も懐かしい雰囲気。表に掛けられた時計は3時で固定している。

『西荻3時』があるのは、西荻窪の路地。入居している古い一軒家は、築年数がはっきりしないほど古い。大家さんによると昭和20年代にはあったというから、築70年は確実。古さを生かした小さな店がオープンしたのは2021年5月のことだ。

オーナーの林田佳子さんは、本業はデザイナー。フード系の広告デザインを手がけていくうちに、飲食店経営に憧れを持った。そんなとき、知り合いが雑貨店として借りていたこの物件が空くと聞いたのが、店を始めたきっかけだ。店では林田さんがセレクトしたジェラートが主役の、和素材と組み合わせたスイーツを出している。

店内ではアンティークなどの雑貨も扱っている。
店内ではアンティークなどの雑貨も扱っている。

ジェラートをメインに選んだのは、「アイスクリームには、夢がある」との思いから。幼い日にデパートに行くと買ってもらえたソフトクリームや、旅先で食べるご当地アイスなど、アイスクリームの類にはちょっとした特別感がある。日本のご当地素材でジェラートを作るジェラートメーカーとの出会いも後押しになった。

モナカに入った3時の和みジェラートはすべて440円。豆乳ではなくとうふを使ったとうふミルクは人気。
モナカに入った3時の和みジェラートはすべて440円。豆乳ではなくとうふを使ったとうふミルクは人気。

盛り付けには、コーンではなくモナカを使用。ソフトクリームのように絞り出したジェラートとカップ型のモナカの組み合わせがSNSで話題となって、オープン間もない頃からお客さんがひっきりなしに訪れた。予想を超える反響に、慌ててスタッフを増員したほどだという。

カップ形のモナカは金沢にある老舗のモナカ専門の会社から仕入れている。モナカは繊細ですぐに湿気ってしまうが、『西荻3時』のモナカはジェラートが食べ終わる頃までパリッとした食感が楽しめる。同じように湿気に弱いカメラ機材を保存する容器で保管しているというから、本業がデザイナーの林田さんらしい発想かもしれない。

抹茶やとうふなど日本的な素材のジェラートにはポン菓子をトッピング、ミニパフェには京都から取り寄せたわらび餅を入れるなど、伝統的な和というより、懐かしさを感じるセレクトにセンスのよさが現れている。

懐かしい波ガラスの窓の向こうにキッチンがある。
懐かしい波ガラスの窓の向こうにキッチンがある。

「体のことを考えて、モナカやポン菓子のほか、できるだけ米由来の原料をセレクトすることで、グルテンフリーを目指しました」とのこと。

ミニパフェに入ったわらび餅は予想以上にたっぷり

季節のフルーツを使った限定品も合わせて、ジェラートの種類は常時10~12種類ほど。特に定番の和素材を使ったジェラートは人気がある。中でもとうふミルクは豆乳ではなくとうふを使ったジェラートで、口に入れるとどこかとろりとした感触が楽しい。飾り付けられたポン菓子の食感も、冷たくなった舌をなだめるようだ。

4種類ある本わらび餅のミニパフェは各680円。ジェラートの下にもたっぷりわらび餅入り。写真はお抹茶。
4種類ある本わらび餅のミニパフェは各680円。ジェラートの下にもたっぷりわらび餅入り。写真はお抹茶。

本わらび餅のミニパフェは、わらび餅が期待以上にたっぷり入っている。「お茶を濁すように何個か入っているより、たっぷり入っている方が好きだから」と林田さん。トッピングに使っている味噌風味のお米クラッカーも、冷たいジェラートと相性がいい。小腹が減っているときにちょうどいいボリュームだ。

ジェラートパフェは780円。甘みを抑えた焦がしキャラメルとエスプレッソのパフェはピーカンナッツが食感のアクセントだ。
ジェラートパフェは780円。甘みを抑えた焦がしキャラメルとエスプレッソのパフェはピーカンナッツが食感のアクセントだ。

パフェもシンプルにジェラートとクリームを堪能するのが『西荻3時』の和みスタイル。フルーツを前面に出したゴージャスなパフェが流行する中、焦がしキャラメルとエスプレッソのパフェにはグリオットチェリーこそ入っているが、もち麦をブレンドしたグラノーラ同様、あくまでひとつの層という扱いだ。780円からという値段も手が出しやすい。

男心にもかわいいと思える懐かしさ

『西荻3時』はジェラートだけならワンコインでお釣りがくるから、立ち寄りやすい。ジェラートが溶けやすく、かえって短時間の休憩にぴったりなのも地元の人のニーズに応える形になった。

オーナーの長女、甘奈さんはアルバイトスタッフとして活躍中。
オーナーの長女、甘奈さんはアルバイトスタッフとして活躍中。

「男性のお客さんも多くて、よく『ジェラートがかわいい』とおっしゃっていただきます」とアルバイトとして看板娘を務めている林田さんの長女、甘奈さん。若い女性や親子連れのほか、仕事の合間らしき男性が1人で立ち寄ってさっとジェラートを食べていくという光景もよく見られる。近所でお店をやっている人などがお盆を持って訪れて、スタッフ分をまとめてテイクアウトして行くこともたびたびあるとも話してくれた。

店内の一部は写真ギャラリーとしても利用され、作品の販売も行われる。
店内の一部は写真ギャラリーとしても利用され、作品の販売も行われる。

「店名の『3時』に込めたのは、3時ぐらいに何気なく立ち寄ってもらいたいという気持ちです」と林田さんはいう。さらに誰もがほっとできる空間を目指して、今後は米粉のワッフルやコーヒーを取り揃えていく予定だ。

取材・撮影・文=野崎さおり