和酒バルKIRAZ
酒と食材が互いの潜在能力を拡大
「この数年で日本酒の種類が増えました」とオーナーの馬宮加奈さん。流通が発達し、無濾過の原酒が出回るようになった。若い杜氏が増え、蔵の個性を追求しようという気運が高まったことも大きい。何を隠そう、馬宮さんは『三芳菊酒造』の娘。実兄は杜氏だ。
酒の選択肢が広がれば、料理との組み合わせパターンも増す。そこで馬宮さんが提案するのは、「素材を重んじる」スペイン料理。1年間熟成し、しっかりしたボディの「五十嵐 純米 直汲み 別誂」は、パテを合わせると華やかな後味に変貌するのが不思議だ。スペインオムレツには、フルーティな「三芳菊 しぼりたて特別純米生原酒」。まずは、日本酒3種に前菜5種が付くランチの利き酒セットを試してみよう。
合わせるならこの3本
五十嵐 純米 直汲み 別誂/五十嵐酒造[埼玉県]
三芳菊 純米大吟醸 阿波五百万石 無濾過生原酒 直汲み/三芳菊酒造[徳島県]
小左衛門 初のしぼり 純米吟醸生 五百万石/中島醸造[岐阜県]
『和酒バルKIRAZ』店舗詳細
namida
予想のつかない展開に恍惚(こうこつ)とする
あむっ、と苺とマスカルポーネムースの生ハム茶巾を頬張ると、イチゴの酸味と甘み、チーズのコク、生ハムの旨味が溶け合い、うっとり。酸味や甘み、コク、旨味は日本酒にそもそもある要素だ。だから、ちゃんと選べば合わないはずはない。店主の田嶋善文さん曰く「食材を頭の中でひとつひとつの要素に分解し、再構築してレシピを考えます」。そう、確証があるのだ。
「食事に驚きがあるといい。思わぬ展開にドキドキしてほしいです」。ならば、せっかくだし日本酒のセレクトもお任せしよう。前述の一品には「石鎚 純米吟醸糟 搾り」を燗で。穏やかで、かつ引き締まった香りが、湯気と共に顔を覆う。食べ進めるうちにすべての要素が混ざり、ふくらむ。忘我の境地。
合わせるならこの3本
石鎚 純米吟醸 緑ラベル 槽搾り/石鎚酒造[愛媛県]
日置桜 生酛強力 純米酒/山根酒造場[鳥取県]
松の司 純米吟醸 中取り/松瀬酒造[滋賀県]
『namida』店舗詳細
coQere
味覚の反復運動にヤミツキ
興味はあれど、取っ付きにくい。そんな個性の強い日本酒は「振り子の法則を応用すればトライしやくなります」。そう教えてくれたのは、店主の柘植和志さんだ。つまり、甘くてくせのあるどぶろくには、山椒(さんしょう)の効いたピリ辛の中華料理を対峙(たいじ)させ、異なる味覚を交互に作用させるといいという。
四川生山椒と、老酒で発酵した乾燥唐辛子、パクチーの和え物は、よく混ぜて食べる。舌がカーッとなったところに大分県『中野酒造』の「ちえびじん」を流し込むと、ヨーグルトのような酸味が辛味を一掃。次の瞬間、舌のビリビリは甦(よみがえ)るが、食材が秘めた苦み、酒の甘み、コクも盛り上がってきて複雑なグラデーションを醸す。辛さのせいもありつつ、この新感覚に感動の涙。
合わせるならこの3本
美冨久 山廃純米酒 純米酵房/美冨久酒造[滋賀県]
紀土 純米酒 あがらの生原酒/平和酒造[和歌山県]
三芳菊 岡山雄町 純米吟醸 無濾過生原酒/三芳菊酒造[徳島県]
『coQere』店舗詳細
※事前予約で17:00~可/定休日:月/アクセス:東急目黒線西小山駅から徒歩4分
SAKE&WINE tono;4122
酒選びはマダムにお任せあれ!
2004年、外岡(とのおか)さん夫妻がオープン。当初から日本酒に力を入れていた。名物料理はランチ限定のふわとろオムパスタ。ソースは日替わりで、おすすめの酒もそれぞれだ。「赤ワイン仕立てのミートソースには、脂分と相性のいい熟成されたコクのあるもの」と酒匠でもある妻の潤子さん。貫禄たっぷりの香りが口の中に一瞬滞留し、ふわっと鼻に抜ける。トマトソースにはフルーティなタイプ。2種類の酸味が交差し、明るく弾(はじ)ける。
合わせるならこの3本
育酛 真秀 純米吟醸 中取り 生原酒/若戎酒造[三重県]
冬の月 純米吟醸 無濾過生酒/嘉美心酒造[岡山県]
五橋 fiveグリーン しぼりたて 木桶仕込み 純米生原酒/酒井酒造[山口県]
『SAKE&WINE tono;4122』店舗詳細
六花界
ここでしか飲めない日本酒も
オーナーの森田隼人さんが足を運んだ酒蔵は300軒以上。「勉強させてもらってます」と謙虚だが、特A米を自社で購入し、山形県『楯の川酒造』で焼き肉に合う純米大吟醸を造ってもらうなど積極的だ。オリジナルの「清流楯野川六花界」は、焼き肉に負けない強気な味わいかと思いきや、驚くほど優しい。肉はその日の朝に仕入れた鮮度抜群のもの。あふれんばかりの旨味を日本酒がふんわりと包み込み、余韻を楽しませてくれる。
合わせるならこの3本
髙千代 純米酒 活性にごり酒/高千代酒造[新潟県]
伊予賀儀屋 日本酒の日記念酒 純米吟醸原酒/成龍酒造[愛媛県]
清流 楯野川 六花界 純米大吟醸/楯の川酒造[山形県]
『六花界』店舗詳細
ラコタ
甘みと辛味の相乗効果?
「タイ料理と日本酒は合うって、ずっと思ってたんです」。料理長の池田香奈子さんはうれしそうに語る。「民宿とおの どぶろく 水もと仕込」は、天然の乳酸菌と住み着き酵母で醸造。シュワッと拡散するほのかな酸味や甘みと、インパクトの強いタイ料理の辛味が寄せては返す、その応酬がくせになる。ぜひとも、ナンプラーやナッツ、干しエビなどの材料をひとつの鉢に入れ、潰しながら和えたりんごのソムタムと一緒にどうぞ。
合わせるならこの3本
香取 生酛 純米自然酒/寺田本家[千葉県]
生酛のどぶ 純米にごり/久保本家酒造[奈良県]
民宿とおの どぶろく 水もと仕込 とおの屋/民宿とおの[岩手県]
『ラコタ』店舗詳細
構成=フラップネクスト 取材・文=信藤舞子 撮影=山出高士