鈴本演芸場[上野広小路]

飲み物も食べ物も持ち込み自由

安政4年(1857)創業。
安政4年(1857)創業。

中央通りのネオンに寄席幟(のぼり)が妙になじむ。『鈴本演芸場』の創業は安政4年。授業で習った安政の大獄の1年前だ。「うちは飲み物も食べ物も持ち込み自由。ちなみに、座席に付いている折りたたみ式のテーブルは鉄道マニアの祖父が特注で作らせたものです」(7代目・鈴木敦さん)。鈴本名物といえば、よ列の4番、5番席。ここに座った男性が仲入り(休憩時間)にプロポーズをしたことから「ラブシート」と呼ばれており、落語家がマクラで使うこともあるという。開場時と終演時には切符売り場の横で寄席太鼓が披露され、上野広小路の風物詩になっている。

『鈴本演芸場』店舗詳細

住所:東京都台東区上野2-7-12/営業時間:昼の部は12:30開演、夜の部は17:00開演/アクセス:地下鉄銀座線上野広小路駅から徒歩1分

新宿末廣亭[新宿三丁目]

東京の定席としては唯一木造り

1946年創業。
1946年創業。

東京の定席としては唯一木造で、2011年には新宿区の地域文化財第一号に指定された。「2005年に放送されたテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』を機に、落語家志望の若い方がずいぶん増えました。分母が増えれば芸の質も底上げされるので、今こそ落語を見に来る絶好のチャンスだと思います」(広報部長・林美也子さん)。林さんは数年前にこんな光景も目撃している。終演後に若い女性が泣きながら出てきたのだ。トリは人情噺でもない。「心配になって声をかけたら『会社で嫌なことがあったんですが、初めて生の落語を観てダメな人が楽しそうに生きている世界に救われました』とおっしゃって」。寄席とともに歩んできた林さんが落語のパワーを再認識した瞬間だ。

『新宿末廣亭』店舗詳細

住所:東京都新宿区新宿3-6-12/営業時間: 昼の部は12:00開演、夜の部は16:45開演〜20:30終演/定休日:無/アクセス:地下鉄丸ノ内線・新宿線・副都心線新宿三丁目駅から徒歩1分

浅草演芸ホール[浅草]

看板猫もお待ちしております

1964年創業。
1964年創業。

席数は1階と2階を合わせて340席と都内の寄席の中では最大。前身はビートたけしらを輩出したストリップ劇場「フランス座」だ。浅草には「出世払いでいいから飲んでけ」といった街全体で芸人を応援してきた歴史がある。そんな愛情に包まれながら若手も順調に育っているようだ。「演芸の世界にはテレビで見たことがないような芸人さんもたくさんいらっしゃるので、一度来ていただければハマる人が見つかるはず」(3代目席亭・松倉由幸さん)。そうそう、テケツ(チケット)売り場では看板猫のジロリ君にも会えますよ。

『浅草演芸ホール』店舗詳細

住所:東京都台東区浅草1-43-12/営業時間:昼の部は11:40開演、夜の部は16:40開演/アクセス:私鉄・地下鉄浅草駅から徒歩1分

池袋演芸場[池袋]

マイクを通さない生声が売り

1951年創業。
1951年創業。

歓楽街の入り口にある池袋演芸場。映画を含めた興行の客足が悪いとされる池袋で1951年から奮闘を続けている。他の寄席と大きく異なるのは、出演者数が少ないために芸人の持ち時間が長いということ。さらに、マイクを通さない生声で演じられるのも大きな特徴だ。「全93席というサイズなので、どこに座っても芸人さんの表情や息遣いをはっきりと感じることができます。さらに、うちは昔から若いお客さんが多いんですよ」(支配人・河村 謙さん)。なお、撮影時に壇上で演じていたのは福岡県出身で二ツ目の林家はな平さん。「無精床」という笑い噺を博多弁で演じていて、これが実に面白い。こうしたうれしい発見も大勢の芸人さんを観られる寄席ならではですよね。

『池袋演芸場』店舗詳細

住所:東京都豊島区西池袋1-23-1/営業時間:1~20日は昼の部12:30開演、夜の部17:00開演。21~30日は昼の部14:00開演、夜の部18:00頃(日によって異なる)開演/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅より徒歩1分

高円寺 ノラや寄席[高円寺]

一杯やりながらじっくり聴く

「若手箱」に登場する瀧川鯉八さん。
「若手箱」に登場する瀧川鯉八さん。

地元にある柳家紫文さんの店の落語会に通っていた、居酒屋 『ノラや』 の代表・松本聖子さん。 紫文さんに「お宅でもできるよ!」 とすすめられ、定休日にスタート、20年になる。徐々に演者もお客も回数も増え、今は3軒隣に設(しつら)えたフリースペース『HACO』が会場だ。二ツ目時代から続く柳家小せんさんの定例会や、若手がチャレンジする「若手箱」など力ある演者が続々登場。小箱だがびっくり箱!

高架下の飲み屋街に。
高架下の飲み屋街に。

『高円寺 ノラや寄席』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南3-69-1(koenji HACO)/定休日:平日夜と土・日に開催/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩2分

道楽亭[新宿三丁目]

末廣亭から300mの場所に

若手の二人会「負けてたまるか!?」の、立川こはるさん。
若手の二人会「負けてたまるか!?」の、立川こはるさん。

月の公演が別会場での出張寄席も含めると30回超え! 内容も講談や浪曲、さらにはお笑いイベントと幅広い。「自主企画の本数なら日本一かも」 と、笑うのは席亭の橋本龍兒(りゅうじ)さん。落語好きが高じて編集者から落語屋に転じ、12年になる。夜席なら終演後に懇親会 (参加自由・料金別途) があるのも特徴で、演者と酒を酌み交わす貴重なチャンス。「参加すると落語がぐっと身近になるよ」。

新宿2丁目のど真ん中で。橋本さん。
新宿2丁目のど真ん中で。橋本さん。

『道楽亭』店舗詳細

住所:東京都新宿区新宿2-14-5 坂上ビル1F/営業時間:平日夜と土・日に開催/アクセス:地下鉄新宿三丁目駅から徒歩3分

西新宿ぶら~り寄席[新宿]

落語CDに囲まれ、生で大笑い

笑福亭べ瓶さん(左)と柳家勧之助さんの、4回目の二人会。仲良く並び、延々トークで大爆笑。
笑福亭べ瓶さん(左)と柳家勧之助さんの、4回目の二人会。仲良く並び、延々トークで大爆笑。

落語と演歌のCD・DVD専門 『ミュージック・テイト西新宿店』 には、ドーンと高座が常設されている。CDを出している落語家の中から、店長・菅野健二さんが 「もっと知られてもいいな」 と思う若手や、お客のアンケートを参考に出演依頼。2013年から毎週金曜に続けてきた定例会 『成金』 の会場として知られ、近年は女性客が右肩上がり! 通うとお得なポイントカードに、ニヤリ。

「CDも聴いてね」と菅野さん。
「CDも聴いてね」と菅野さん。

『西新宿ぶら~り寄席』店舗詳細

住所:東京都新宿区西新宿7-16-13 末廣ビル103/営業時間:平日夜と土・日に開催(ミュージック・テイト西新宿店は11:00~19:00)/定休日:ミュージック・テイト西新宿店は日/アクセス:JR・私鉄・地下鉄新宿駅から徒歩10分

落語・小料理 やきもち[秋葉原]

お酒と料理と共に粋な時間を

「真打の会」に三遊亭鬼丸さんが登場。「ここでできるのは喜び」と、師匠。
「真打の会」に三遊亭鬼丸さんが登場。「ここでできるのは喜び」と、師匠。

「人を楽しませるのが心底好きで」 。テレビ番組 『笑点』の制作現場で活躍した中田志保さんが、培った人脈と料理の腕を活かして女将に転身、起業した。無垢の木をふんだんに使った清々しい店内は、カウンターとテーブル合わせて27席。落語の前後にゆっくり飲食できる大人のための空間だ。丁寧に仕込む料理準備があるゆえ、 「真打の会」 は予約必須。 「二ツ目の会」 のドリンク付きは当日直接OK。

前菜、肉・魚料理、ご飯・汁が開演前から終演後に供される。
前菜、肉・魚料理、ご飯・汁が開演前から終演後に供される。

『落語・小料理 やきもち』店舗詳細

住所:東京都台東区台東1-12-11 青木ビル1F B号室/営業時間:主に火曜夜に開催。通常営業は11:45~14:00(水・木・金のみ)・18:00~23:00(火は~23:15、土は~22:00)/定休日:日・月・祝/アクセス:JR・地下鉄・つくばエクスプレス秋葉原駅から徒歩8分

毎週通うは浪曲火曜亭![浅草]

アットホームな空間で浪曲聴く

浪曲の歴史がたっぷり染み込んだこの雰囲気にはまって、毎週のようにやってくる常連さんもいる。
浪曲の歴史がたっぷり染み込んだこの雰囲気にはまって、毎週のようにやってくる常連さんもいる。

浅草の喧騒(けんそう)を離れた住宅街の一角、木造モルタルの年季の入った一軒家が、日本浪曲協会の本部。普段は稽古や会議に使われる場所に、火曜日の夜だけ軒先に提灯が下がる。1階の畳敷きの広間が、浪曲をもっと気軽に身近にと、今は亡き浪曲界の革命児・国本武春さんが2012年に始めた「毎週通うは浪曲火曜亭!」の会場になる。毎回2名の出演者は若手から幹部まで様々。お客さんにとってはアットホームな空間で浪曲を聴く絶好のチャンスだ。歴代の名人の写真や貴重な資料が並ぶ会場での公演は、『木馬亭』とは一味違う。

『毎週通うは浪曲火曜亭!』店舗詳細

住所:東京都台東区雷門1-10-4(日本浪曲協会広間)/営業時間:18:30開場、19:00開演/アクセス:地下鉄銀座線浅草駅から徒歩5分

永谷 お江戸上野広小路亭[上野広小路]

4つの演芸全てを網羅した小さな殿堂

抜群の交通アクセスと、あらゆる演芸に対応するシンプルな造りが人気。女流義太夫の定期公演も行われる。
抜群の交通アクセスと、あらゆる演芸に対応するシンプルな造りが人気。女流義太夫の定期公演も行われる。

『永谷 お江戸上野広小路亭』は、地の利も、上演される演芸のバラエティの豊かさもピカイチの演芸場。今回取り上げた演芸は、全てここを定席とし、定期公演を行う。落語だけでも落語芸術協会、五代目円楽一門会、立川流と3派が出演し、講談、浪曲、女義、時には上方落語やお笑い演芸会も見られるマニアにもビギナーにもうれしい場所だ。桟敷(さじき)に座れば高座は目の前。手を伸ばせば届きそうな距離感がうれしい。上野広小路交差点の角にあるので、終演後に一杯やりながら高座を反芻する場所も豊富だ。永谷の演芸場は日本橋、両国、新宿にもあり、上野同様多彩なラインナップで定期公演や自主公演を開催しているので、ぜひ合わせてチェックしておこう。

『永谷 お江戸上野広小路亭』店舗詳細

住所:東京都台東区上野1-20-10 上野永谷ビル/アクセス:地下鉄銀座線上野広小路駅から徒歩1分

【番外編!】らくごカフェ[神保町]

本の街の貴重な寄席スポット

ファンからも演者からも愛される演芸の発信基地だ。
ファンからも演者からも愛される演芸の発信基地だ。

2008年に神田古書センター 5階にオープンした、日本初の落語ライブハウス。真打ち前の若手から人気者まで、落語・講談・浪曲の会が連日開催されている。生まれも育ちも神保町界隈、演芸・映画・音楽などのジャンルのライターでもある青木さんが「自分の街に寄席を復活したい」と開業。オープン10周年記念に日本武道館で開かれた落語会は、ファンの間では今も語り草となっている。

出演者からの信頼もあついオーナーの青木伸広さん。
出演者からの信頼もあついオーナーの青木伸広さん。
演芸通の青木さんセレクトの関連図書やCD、DVD、てぬぐいなども販売。
演芸通の青木さんセレクトの関連図書やCD、DVD、てぬぐいなども販売。

『らくごカフェ』店舗詳細

住所:東京都千代田区神田神保町2-3 神田古書センター 5F/アクセス:地下鉄神保町駅から徒歩1分

取材・文=石原たきび、松井一恵、高野ひろし 撮影=加藤昌人、オカダタカオ、三浦孝明