鈴本演芸場[上野広小路]
飲み物も食べ物も持ち込み自由
中央通りのネオンに寄席幟(のぼり)が妙になじむ。『鈴本演芸場』の創業は安政4年。授業で習った安政の大獄の1年前だ。「うちは飲み物も食べ物も持ち込み自由。ちなみに、座席に付いている折りたたみ式のテーブルは鉄道マニアの祖父が特注で作らせたものです」(7代目・鈴木敦さん)。鈴本名物といえば、よ列の4番、5番席。ここに座った男性が仲入り(休憩時間)にプロポーズをしたことから「ラブシート」と呼ばれており、落語家がマクラで使うこともあるという。開場時と終演時には切符売り場の横で寄席太鼓が披露され、上野広小路の風物詩になっている。
『鈴本演芸場』店舗詳細
新宿末廣亭[新宿三丁目]
東京の定席としては唯一木造り
東京の定席としては唯一木造で、2011年には新宿区の地域文化財第一号に指定された。「2005年に放送されたテレビドラマ『タイガー&ドラゴン』を機に、落語家志望の若い方がずいぶん増えました。分母が増えれば芸の質も底上げされるので、今こそ落語を見に来る絶好のチャンスだと思います」(広報部長・林美也子さん)。林さんは数年前にこんな光景も目撃している。終演後に若い女性が泣きながら出てきたのだ。トリは人情噺でもない。「心配になって声をかけたら『会社で嫌なことがあったんですが、初めて生の落語を観てダメな人が楽しそうに生きている世界に救われました』とおっしゃって」。寄席とともに歩んできた林さんが落語のパワーを再認識した瞬間だ。
『新宿末廣亭』店舗詳細
浅草演芸ホール[浅草]
看板猫もお待ちしております
席数は1階と2階を合わせて340席と都内の寄席の中では最大。前身はビートたけしらを輩出したストリップ劇場「フランス座」だ。浅草には「出世払いでいいから飲んでけ」といった街全体で芸人を応援してきた歴史がある。そんな愛情に包まれながら若手も順調に育っているようだ。「演芸の世界にはテレビで見たことがないような芸人さんもたくさんいらっしゃるので、一度来ていただければハマる人が見つかるはず」(3代目席亭・松倉由幸さん)。そうそう、テケツ(チケット)売り場では看板猫のジロリ君にも会えますよ。
『浅草演芸ホール』店舗詳細
池袋演芸場[池袋]
マイクを通さない生声が売り
歓楽街の入り口にある池袋演芸場。映画を含めた興行の客足が悪いとされる池袋で1951年から奮闘を続けている。他の寄席と大きく異なるのは、出演者数が少ないために芸人の持ち時間が長いということ。さらに、マイクを通さない生声で演じられるのも大きな特徴だ。「全93席というサイズなので、どこに座っても芸人さんの表情や息遣いをはっきりと感じることができます。さらに、うちは昔から若いお客さんが多いんですよ」(支配人・河村 謙さん)。なお、撮影時に壇上で演じていたのは福岡県出身で二ツ目の林家はな平さん。「無精床」という笑い噺を博多弁で演じていて、これが実に面白い。こうしたうれしい発見も大勢の芸人さんを観られる寄席ならではですよね。
『池袋演芸場』店舗詳細
高円寺 ノラや寄席[高円寺]
一杯やりながらじっくり聴く
地元にある柳家紫文さんの店の落語会に通っていた、居酒屋 『ノラや』 の代表・松本聖子さん。 紫文さんに「お宅でもできるよ!」 とすすめられ、定休日にスタート、20年になる。徐々に演者もお客も回数も増え、今は3軒隣に設(しつら)えたフリースペース『HACO』が会場だ。二ツ目時代から続く柳家小せんさんの定例会や、若手がチャレンジする「若手箱」など力ある演者が続々登場。小箱だがびっくり箱!
『高円寺 ノラや寄席』店舗詳細
道楽亭[新宿三丁目]
末廣亭から300mの場所に
月の公演が別会場での出張寄席も含めると30回超え! 内容も講談や浪曲、さらにはお笑いイベントと幅広い。「自主企画の本数なら日本一かも」 と、笑うのは席亭の橋本龍兒(りゅうじ)さん。落語好きが高じて編集者から落語屋に転じ、12年になる。夜席なら終演後に懇親会 (参加自由・料金別途) があるのも特徴で、演者と酒を酌み交わす貴重なチャンス。「参加すると落語がぐっと身近になるよ」。
『道楽亭』店舗詳細
西新宿ぶら~り寄席[新宿]
落語CDに囲まれ、生で大笑い
落語と演歌のCD・DVD専門 『ミュージック・テイト西新宿店』 には、ドーンと高座が常設されている。CDを出している落語家の中から、店長・菅野健二さんが 「もっと知られてもいいな」 と思う若手や、お客のアンケートを参考に出演依頼。2013年から毎週金曜に続けてきた定例会 『成金』 の会場として知られ、近年は女性客が右肩上がり! 通うとお得なポイントカードに、ニヤリ。
『西新宿ぶら~り寄席』店舗詳細
落語・小料理 やきもち[秋葉原]
お酒と料理と共に粋な時間を
「人を楽しませるのが心底好きで」 。テレビ番組 『笑点』の制作現場で活躍した中田志保さんが、培った人脈と料理の腕を活かして女将に転身、起業した。無垢の木をふんだんに使った清々しい店内は、カウンターとテーブル合わせて27席。落語の前後にゆっくり飲食できる大人のための空間だ。丁寧に仕込む料理準備があるゆえ、 「真打の会」 は予約必須。 「二ツ目の会」 のドリンク付きは当日直接OK。
『落語・小料理 やきもち』店舗詳細
毎週通うは浪曲火曜亭![浅草]
アットホームな空間で浪曲聴く
浅草の喧騒(けんそう)を離れた住宅街の一角、木造モルタルの年季の入った一軒家が、日本浪曲協会の本部。普段は稽古や会議に使われる場所に、火曜日の夜だけ軒先に提灯が下がる。1階の畳敷きの広間が、浪曲をもっと気軽に身近にと、今は亡き浪曲界の革命児・国本武春さんが2012年に始めた「毎週通うは浪曲火曜亭!」の会場になる。毎回2名の出演者は若手から幹部まで様々。お客さんにとってはアットホームな空間で浪曲を聴く絶好のチャンスだ。歴代の名人の写真や貴重な資料が並ぶ会場での公演は、『木馬亭』とは一味違う。
『毎週通うは浪曲火曜亭!』店舗詳細
永谷 お江戸上野広小路亭[上野広小路]
4つの演芸全てを網羅した小さな殿堂
『永谷 お江戸上野広小路亭』は、地の利も、上演される演芸のバラエティの豊かさもピカイチの演芸場。今回取り上げた演芸は、全てここを定席とし、定期公演を行う。落語だけでも落語芸術協会、五代目円楽一門会、立川流と3派が出演し、講談、浪曲、女義、時には上方落語やお笑い演芸会も見られるマニアにもビギナーにもうれしい場所だ。桟敷(さじき)に座れば高座は目の前。手を伸ばせば届きそうな距離感がうれしい。上野広小路交差点の角にあるので、終演後に一杯やりながら高座を反芻する場所も豊富だ。永谷の演芸場は日本橋、両国、新宿にもあり、上野同様多彩なラインナップで定期公演や自主公演を開催しているので、ぜひ合わせてチェックしておこう。
『永谷 お江戸上野広小路亭』店舗詳細
【番外編!】らくごカフェ[神保町]
本の街の貴重な寄席スポット
2008年に神田古書センター 5階にオープンした、日本初の落語ライブハウス。真打ち前の若手から人気者まで、落語・講談・浪曲の会が連日開催されている。生まれも育ちも神保町界隈、演芸・映画・音楽などのジャンルのライターでもある青木さんが「自分の街に寄席を復活したい」と開業。オープン10周年記念に日本武道館で開かれた落語会は、ファンの間では今も語り草となっている。
『らくごカフェ』店舗詳細
取材・文=石原たきび、松井一恵、高野ひろし 撮影=加藤昌人、オカダタカオ、三浦孝明