創業から80年以上、徳利の立ち姿すら美しい『ふくべ』
縄のれんをくぐり、角の取れたカウンター席に座る。棚には酒瓶や化粧罇が並び“酒欲”を誘う。客の熱気がしみこんだ壁はセピア色だ。「1964年に建て替えた現在の店舗も、年の歩みと共にアメ色に染まっていった」と2代目の北島正雄さん。41銘柄そろう日本酒から、今宵は菊正宗の罇酒770円をぬる燗で。同じく角のとれた枡で正一合を計った酒をあおれば吉野杉の清々しい香りに酔う。東京駅近くに古きよき酒場が健在していることに感謝。
『ふくべ』店舗詳細
日本橋ド真ん中に残る奇跡の角打ち『小野屋』
看板もない雑居ビルの階段を地下へと下りる。と、コの字カウンターの奥から女将の小倉佳子さんが笑顔で迎えてくれた。「40年くらい前、木造の酒屋をビルに建て替えた際、母と私で店を始めたの」。最初は乾きものと缶詰という純角打ちスタイルだったが、お客の要望で手作りの肴も増加。おふくろの味を片手に缶チューハイを傾ける常連さんは、仲良しで楽しそう。「ここに来る人は役員さんも新入りさんも一緒に盛り上がってくれるんです」。
『小野屋』店舗詳細
軟らかな水で仕込む淡麗な味わい『八海山千年こうじや』
直営店はいくつかあれど、カウンターであれこれ飲める日本酒バーは希少な存在だ。本醸造、吟醸などに加え、三段仕込みの最後に、水ではなく酒で仕込む、ほんのり甘い貴醸酒や、発泡にごりなどもずらり。迷ったら、3セットある呑み比べセットで3種を利いて。八海山の仕込み水は、霊峰八海山の伏流水。超軟水ゆえに、すっきりきれいな淡麗旨口になるというが、酒の味の多彩さには驚かされる。また、酒蔵料理もいい。仕込み水と同じ伏流水で育った八海山サーモンや、越後もち豚などが用いられ、酒造りから生まれた麹や酒粕によって旨味を増幅。すかさず杯を傾ければ、酒の底力を思い知る。さらに、壁一面の販売棚には限定酒やあまさけが。見逃せない。
『八海山千年こうじや』店舗詳細
奈良の旬菜を用いた創作和食で一献『あをによし』
小路にある木造家の暖簾をくぐれば、カウンター席が。眼前に居並ぶ酒瓶は奈良の地酒揃い。アンテナショップ『奈良まほろば館』と連携し、食材はもちろん奈良産。県民のソウルフードである親鶏に、柿の葉寿司、古代日本のチーズ・蘇、1000年前の古代調味料・古代醤、吉野葛など。それを、シェフの戸辺太郎さんが、腕を磨いたフレンチの手法で独自の創作和食へと昇華させる。鶏のゼラチンで作る煮こごりは、トレビア~ン。
『あをによし』店舗詳細
旬の味覚彩る美しい肴がワインと会話を加速『富士屋本店 日本橋浜町』
佐伯英佑シェフが豊洲で仕入れる旬の食材を駆使した料理が、華やかで旨そうで、隣客に「それなんですか?」と話しかける人続出。常連を真似て頼んだホタルイカとハナッコリーのマリネ810円はイカのほろ苦さ、シャキシャキ甘い葉と茎が舌に春の到来を告げる。1階立ち飲みのコの字カウンターは調理場近くが特等席で「あの肉デカッ。何グラムだろ?」と、また隣客と盛り上がってしまうのだ。
『富士屋本店 日本橋浜町』店舗詳細
構成=柿崎真英 取材=鈴木健太、佐藤さゆり・髙橋健太(teamまめ) 撮影=木村心保、本野克佳、高野尚人、丸毛透