黄色い歓声にワクワク

エレベーターを降りた時点で、キャーキャーとはしゃぐ声が聞こえた。始まってまだ間もないはずだが、すでに盛り上がっている。テンションについて行けるか不安だったが、かなり酒を飲んだことを思い出して気を奮い立たせた。

玄関のドアを開けガチャッと音が響くと、奥の部屋から「ほら吉田さん来たで!」という芸人さんの声が聞こえた。女子たちは一際大きくキャー!と叫ぶ。興奮のあまり「ギャー!」と叫んでいるようにも聞こえた。あまり黄色い歓声を浴びたことのない私は自然とうれしくなった。

ワクワクしながら部屋の扉を開けると、「ちょっと待って!」と言いながら女子たちはあわてて手で顔を隠して下を向き、その光景を見た芸人さんたちが腹を抱えて笑っていた。一体どういう状況だ。その時、手の隙間から窺うかがうようにこちらを見てきた女子と目が合った。見覚えのある顔だった。

背筋がゾワっとした。いや、しかしまさか、そんなことはあり得ない。気持ちを落ち着けて女子たちを見わたし服装を確認した結果、あり得ない事態が現実に起こっているのを認めざるを得なかった。

そこにいた女子たちは4人とも先ほど別れたばかりの人たち、つまり数時間前まで合コンをしていた相手だったのだ。彼女たちは終電があるからと帰ったように見せかけて、別の芸人のコンパへと移動していた。しかもより芸歴が長く、売れている芸人の方へと。後で問い詰めれば、先ほどの合コンの途中から「女の子4人いるんですけど今から飲みませんか?」と自分たちから連絡をいれていたらしい。終電は帰る口実と予想していたが、さすがに別のコンパに行っているとまでは思わなかった。

私はなぜ呼ばれたのか?

私がマンションのドアを開ける直前、室内では「ちなみに、もう一人来る人ってどんな方ですか?」「前にイベントで一緒になったバンドの人やで」「え、それってもしかして吉田って人じゃないですよね?」「いや、吉田さんやけど」「いや、ちょっと待ってちょっと待って‼ 無理無理‼」「え、何で? あ、吉田さんもうマンション着いたらしい」「キャー‼」というやり取りがドアの外まで聞こえていたというわけだ。ワクワクしながら部屋に入ってきた自分が情けなさ過ぎる。こんなに望まれない登場があるだろうか。その後気を取り直して低俗なゲームなどに興じたが、一旦見切られた認識のある私はあまり身を入れて楽しめなかった。

芸人の合コンをハシゴする女たちの話は、芸人さんにとっても稀なエピソードだったらしい。後日その場に居合わせた一人がラジオでその日のことを面白おかしく話していたのを聞いたが、私を誘う前のくだりとしての「夜遅かったから芸人いくら声かけても捕まらんくて、じゃあもうあの人声かけてみよか、ってなって」という説明で、想像していたよりも消去法で呼ばれていたことを知り、そこも若干ショックだった。

文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2020年11月号より