物事の見え方がゆるやかに変わる映画館『ポレポレ東中野』
開館以来20余年、ドキュメンタリーを中心に上映するミニシアター。硬派なイメージがある一方で、訪れると笑顔で迎えてくれ、どんな人でも受け入れてくれそうな懐の深さを感じる。ドキュメンタリーは報道性の高いもの、密着取材した作品など多種多様だが、「人間が見えてくるような作品はいいな、と思います」と支配人の大槻貴宏さん。一般2000円。
魚屋で買い物するついでに角打ちも『港丸 ― MINATOMARU』
近所には系列店も!
住宅地に近い中通りの魚屋で気仙沼の漁港から直送される魚介が評判。日本酒やビールも用意され、ピチピチの刺し身を主役に角打ちを楽しめる。真ガキや岩ガキは市場で目利きしたものも合わせて5〜6種類あり、「夏は岩ガキが旬」と店長の伊藤彩音さん。おすすめの三陸ジオイスターを頬張(ほおば)ればプリッと身が詰まっていて、甘みがある。
多角的に詩の世界を掘り下げる楽しみ『詩をはじめる本屋 蒼枯(そうこ)』
自身が詩を始めたきっかけは「ハンセン病患者の詩を読んだこと」と、雑居ビルの一室で詩に特化した書店を営む青海賢(あおみすぐる)さん。詩集だけでなく、作品の背景にある風土や歴史、社会問題など、詩の理解を助ける関連書も充実。青海さんを含む3名で運営。展示やブックフェアを開くといつも幅広い客層でにぎわう。
引き出されたジャズレコードの音を体験『JUDGMENT! RECORDS』
「BLUE NOTE」のオリジナルをはじめ、ジャズのレコードがずらり。60年代の希少盤も多く、「これらを鳴らすのに最適な同時代に製造されたオーディオ機器」で試聴も可能だ。豊かな音色に身を委ねるひととき。店主の塙耕記(はなわこうき)さんは、世界の名盤や日本の伝説的レーベル「three blind mice」の復刻コレクションの監修も務める。
草花に埋もれ、季節を感じられるカフェ『On Flowers』
草花があふれる花屋の店内でカフェタイム。魅惑的な断面のサンドイッチは2種類から選べ、3週ごとにラインアップが変わる。もちろん、花を買うだけでもよく、部屋に飾るとアクセントになりそうな色や形が個性的なものが目を引く。近所に住む常連や親子連れは「珍しい花が多くて面白い」と喜んでくれるという。
店先でかぶりつくひんやりジェラート『洋菓子・ジェラート ドーカン』
1990年の開業当初、都内にもまだ手作りジェラートの店は少なかった。ショーケースには、店の前の通りに植えられた桜にちなんだ名物の桜塩ミルク、期間限定のフレーバーなど全10種が準備万端だ。素材を生かした味わいは、キレのいい甘みで口当たりスッキリ。常連の間では、蓋(ふた)付きのカップをまとめ買いし、冷凍庫に常備しておくのがおなじみ。
変わらぬ東中野と、変わる東中野
朝一番からにぎわう『ポレポレ東中野』で、全寮制高校の一年間を記録したドキュメンタリー『聴く隣人のいるところ』を鑑賞。スクリーンに映る学生のひたむきさがまぶしい。1階の『Space& Cafe ポレポレ坐』はトークショーなどイベントも開かれる場所だが、地域に密着し、普段は街のオアシス。映画に関係なくくつろぐ地元客に紛れ、気持ちが落ち着くまでいられるのがありがたい。
長年変わらぬ東中野があれば、様変わりした東中野もある。「誕生日ケーキの注文があると定休日も店を開けます」と微笑(ほほえ)む『洋菓子・ジェラート ドーカン』の植田賢一さんは御年72歳だ。
「36年前に店を始めた当初は、この街にあんな高層マンションが建つと思いませんでした」
以前近所にあった社宅はマンションになり、お屋敷は賃貸アパートになり、「一人暮らしの若者がうんと増えたねえ」。
新たに誕生しているコミュニティーに注目
『SUNDAY JAM’s CLUB』『港丸』『ウェーブスストア』は系列店。代表の逵(つじ)誠也さんに聞くと「SUNDAY JAM’s CLUB』の常連さんが空き物件を持っていて、声をかけてくれたのがその後の2軒を作ろうと思った発端です」。『港丸』はそのまま食卓に並べられる刺し身が豊富できっとみんな助かっているはず。
『ウェーブスストア』の内装工事は誰でも参加でき、「手伝ってくれる人募集」の貼り紙を見て参加した近隣住民がかなり多かったそうだ。
「東中野で新たなコミュニティーが形成されやすくなっているのは、『SUNDAYJAM’s CLUB』が地ならしをしてくれたから」とは、『詩をはじめる本屋蒼枯』の青海賢さん。毎週金曜の19〜22時にはバータイムを実施している。線路の音が聞こえる駅近の雑居ビルで今年オープンしたばかりだが、「静かすぎない環境がかえって会話を誘発」するらしい。詩が好きな人だけでなく、最近では地元客もちらほら集まるようになってきた。
『On Flowers』では、仲のいい店舗を巻き込んでスタンプラリーを開催することも。山に入り、自分たちで切った竹で流し素麺(そうめん)をするなど、季節のイベントも趣向を凝らす。
『JUDGMENT! RECORDS』の整ったオーディオ設備で名盤を試聴できるのは、20〜30代のサブスク世代にとっても貴重な体験。暮らしやすさと文化が交わる東中野。今、同時多発的に発生しているローカルコミュニティーがアツい。
取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2026年8月号より








