唯一無二の大判焼き!主役は京都宇治産の高級抹茶
「最初、大判焼き屋をやりたいと言ったのは母でした」と店主の濱川則治さん。二人で店を始めるつもりだったが、母が他界してしまい、一人でその夢を引き継いだという。
元々はフレンチのシェフで、現在は三軒茶屋で鶏焼き肉店も営んでいる濱川さんは、「せっかくならこだわったものを作りたい」と、これまでに得たさまざまな料理ジャンルの知識と技術を結集。独自に研究を重ね、究極の大判焼きにたどり着いたのだ。
店内の大判焼き器をのぞくと、穴に流し込まれた緑色を帯びた生地がずらり。こちらのお抹茶おおばんは、小麦粉に京都宇治産の高級抹茶を加えるオリジナルレシピだ。使われているのは、老舗問屋『桑原善助商店』の茶臼挽きお抹茶。
「基本的には、長年付き合いのある顧客しか受け付けていないそうで、一度断られたんです。それでも諦めきれずにお願いし続けたら、話を聞いてくれることになりました」
濱川さんが言うには、お抹茶のうまみ成分を十分に引き出すためには、まず常温の水で戻すことが肝心なのだとか。それから熱湯を足し、今度はキリッとした渋み、鮮やかな色味を出す。
「お抹茶をおいしく点てる方法は、桑原さんから教わりました。常にそれを忠実に守っています」
生地やクリーム、その他の商品にも、お抹茶を使う場合にはいつもこの方法を応用している。
この生地を、銅製の大判焼き器を使ってこんがりした皮に焼き上げる。銅製は扱いが難しいが、金属の性質上鋳物より温度が早く上がるため、ムラのないきれいな焼き目ができるそうだ。
表面に焼き印を押せば、抹茶おおばんのできがあり。ああ、早くかぶりつきたくて待ち切れない。
押し寄せるお抹茶のうまみ。時間が経つと変化する皮の食感も楽しい
焼きたてを受け取ると、紙袋越しでも熱々なのが伝わってきた。我慢できずにテラス席ですぐさまかぶりつくと、表面がサクッとして香ばしく、クリームがふわり。口の中いっぱいにお抹茶のうまみが押し寄せ、思わず天を仰ぐ。熱さにもだえながらも、舞い上がる香りに大きく包まれ、ついうっとりしてしまった。
手に持った時、見た目以上にずっしりしているのもいい。大判焼き器の穴のサイズは特に大きいわけではなく、「むしろ若干小さめ」のようだが、中に入れる具材が多く、その分高さと重さが出るというわけだ。クオリティを考えると、正直、これがワンコイン以下で手に入れられるなんて驚く。
素朴さと、ちょっとした特別感を兼ね備えたお抹茶おおばんは、手土産としても喜ばれている。
断面を見るとわかるが、他店に比べて皮は薄い。焼きたてのサクサクした歯触りは、この薄さが鍵となっている。一方、大判焼きは時間が経って冷めると、皮が具材の水分を吸ってしっとりしてしまいがちだが、『京おおばん』ではこの薄さのおかげで程よくグルテンが生じ、もちもち食感に変化する。
「冷めてもおいしいというのも、手土産におすすめできるポイントです」
また、クリームのもっちりした食感も心地よい。頬張ると舌の上でゆっくり広がり、カスタードクリームの朗らかな甘みで満たされる。それでいて存在感を見せてくるのは、やはりお抹茶。洋と和の絶妙なバランスを叶えるのは、濱川さんの「洋食出身の技術」だ。
季節限定のひんやりお抹茶スイーツも見逃せない
『京おおばん』の夏の楽しみ、かき氷。なかでもお抹茶づくしかき氷は、氷に染み込ませるシロップも、たっぷりかけるエスプーマも、トッピングのくずねりも、どれも惜しげもなくお抹茶を使った自家製だ。その名に偽りのない、まさにお抹茶づくし。どこから食べてもひとくち目からちゃんと味わえるのがうれしい。
食べ進めていくうち、氷の中から顔を出すのは練馬区の木下製餡所から仕入れたつぶあん。
「うちのかき氷に合うように開発してもらったオリジナルのあんこです」
甘さ控えめで、なおかつ小豆がほどよく主張。それでいてしっかりお抹茶を引き立て、名脇役に徹している。
ちなみに、急いで完食しようとしなくても大丈夫。お抹茶が濃厚なので溶けてもおいしい。というよりも、あえて溶けるのを待ってゴクゴク飲みたいぐらい。最後には、爽やかな香りとキレのいい甘みが残る。
トッピングのくずねりは、葛粉特有の弾力も特徴。口に入れるとゆっくり溶け、香り高いお抹茶の余韻がたまらない。くずねりは単品でも購入でき、手土産にもいいが、独り占めするのもいい。付属の抹茶シロップもあり、「それで“追い抹茶”をするのもおすすめです」。
テラス席でくつろぐひととき。途切れることなく訪れる人々を見ていると、お抹茶おおばんを大量に購入していく常連とおぼしき客も少なくない。どうやら番組制作やコンサートの差し入れにもなっているそうで、芸能人の中にもファンが多いそう。
ふらりと足を踏み入れたのは、住宅地に潜む知る人ぞ知る名店だった。
取材・文・撮影=信藤舞子






