午後3時、住宅地の一角に酒好きの人々が集う

柏駅東口から、駅を背にしてまっすぐ歩いていく。駅前に連なる飲食店が少なくなり、住宅が目立ち始めた辺りに『大衆酒場・立ち呑み 七福神』がある。

住宅地と繁華街の境目にあるので近所の常連が主だが、電車を乗り継いでくる常連客もいる。
住宅地と繁華街の境目にあるので近所の常連が主だが、電車を乗り継いでくる常連客もいる。

ガラリと引き戸を開けて中に入ると、店主の佐藤功造さんが迎えてくれた。

店内はカウンターのみ。およそ11人で満席になる。

酒は口頭で、料理は店内に置かれた紙に書いて注文する。この簡潔な方法も、佐藤さんがひとりで店を回していくための工夫だ。

つまみは一人でも何品か楽しめる量を基本にしながら、「安かろう、少なかろう」にならない盛りを心がけているという佐藤さん。

営業日は午後3時から店を開ける。早い時間には近所に住む年配の常連客がやって来るからだ。立ち飲みと聞けば、さっと飲んで帰る店を思い浮かべるが、ここでは3時間ほど過ごす人もいる。

「自分が生きている間に椅子を置いてほしい」と頼む常連客もいるそうで、思わず笑ってしまった。テレビを眺めながら誰かが口にしたひと言から、客同士の会話が始まるのもいつもの光景だ。

壁いっぱいに貼られたメニュー表と、少しずつ増えてきた全国各地の御朱印。
壁いっぱいに貼られたメニュー表と、少しずつ増えてきた全国各地の御朱印。

店主の佐藤さんは、洋食店を営む家に生まれた。店を継ぐつもりで料理の道に進み、フランス料理などの店で腕を磨いたが、決まった型にとらわれず、自分の作りたいものを出せる居酒屋の方が性に合っていると感じるようになったという。

大衆酒場をこよなく愛する店主の佐藤功造さん。
大衆酒場をこよなく愛する店主の佐藤功造さん。

その後、2021年4月に行きつけの居酒屋オーナーからこの店を任されることになり、『大衆酒場・立ち呑み 七福神』はオープンした。「安くておいしくて、常連さんでにぎわう店にしたい」と佐藤さん。かしこまった「いらっしゃいませ」より、「こんにちは」が似合うご近所酒場だ。

全国の酒場を食べ歩き、出合った味を『七福神』流に

取材の序盤は、佐藤さんは少し緊張した様子だった。「いつか『散歩の達人』に載りたいと思っていたんです。酒場特集もよく読んでいます」と、どこかぎこちなく言葉を選ぶ。ところが、酒場や料理の話を向けると、次第に言葉が滑らかになっていった。

瓶ビールを自分で開栓するのも、立ち飲みならではの楽しみだ。
瓶ビールを自分で開栓するのも、立ち飲みならではの楽しみだ。

佐藤さんは、飛行機や電車を乗り継いで全国各地の評判店を訪ねるほどの食べ歩き好き。店が休みの日に足を延ばし、その土地ならではの酒場と味を探してきた。スマホを取り出し、旅先で撮った料理を次々に見せながら「これはおいしかった」と話が弾む。その表情からも、酒場への「好き」と熱が伝わってきた。

宝焼酎の水割りでいただく豚足煮込み350円。豚足の味付けは西成での経験を生かした。
宝焼酎の水割りでいただく豚足煮込み350円。豚足の味付けは西成での経験を生かした。

なかでも大きな刺激を受けたのが、大阪・西成の酒場だという。初めて訪れた際には地元出身者の案内で20軒以上を巡った。1軒で注文するのは2品ほどに絞り、次の店へ。安くてうまい料理はもちろん、店ごとの空気まで体感した。そこで出合った味をもとに、自分なりの工夫を加えたのが豚足煮込み350円。旅先で出合った味やアイデアを持ち帰り、『七福神』の料理になじませている。

もつ煮込みからコンフィまで。洋食仕込みの技を味わう

まずはサッポロラガービール、通称・赤星の大瓶650円で乾杯。最初に出てきたガツ刺し300円は、ニンニクをしっかり利かせた力強い味だ。醤油漬けにしたニンニクのタレがからみ、添えられた生のタマネギが口の中をさっぱりと整える。ニンニクだけでも酒が飲めそうで、ビールがぐいぐい進んでしまう。

ガツ刺し300円。コリコリ食感にニンニク醤油が利く。
ガツ刺し300円。コリコリ食感にニンニク醤油が利く。

店の看板メニュー、名物 煮込み350円は、湯気とともに立ちのぼる香りからしてやさしい。丁寧に下処理されたもつは臭みがなく、口に運ぶとほろりとほどける。味噌のコクはありながら、あっさりと上品な味わいだ。隠し味には赤玉ワインと八丁味噌。洋食の経験を持つ佐藤さんらしいひと工夫が、昔ながらの酒場料理に奥行きを添えている。

名物 煮込みはホッピーセット600円とともに! 
名物 煮込みはホッピーセット600円とともに! 

続いて登場した佐藤式トンテキ450円は、もともと佐藤さんの賄い料理だったもの。豚ロース肉の表面に粉をまとわせて焼き、バター醤油のソースで仕上げている。香ばしく焼けた豚肉にソースがよくからみ、酒のつまみでありながら、白いご飯も欲しくなる味だ。「ご飯も用意していますので、よかったら!」と佐藤さん。

賄いから生まれた1品にも、洋食料理人としての技が光る。

佐藤式トンテキは、ナイフと箸で切り分けながら食べるのも賄い発祥らしいスタイル。濃い味が酔った舌を刺激する。
佐藤式トンテキは、ナイフと箸で切り分けながら食べるのも賄い発祥らしいスタイル。濃い味が酔った舌を刺激する。

なかでも驚いたのが、ニシンとトマトのコンフィ450円。ニシンといえば骨が多く、少々食べにくい印象もあるが、箸を入れると驚くほどやわらかい。

ニシンとトマトを一緒に煮込むことで、魚のうまみにトマトの風味が溶け合い、口当たりは実に上品だ。底に敷いたエノキにはたっぷり煮汁が染み込み、これだけでもう1杯飲めそうだ。

好みでレモンを絞れば、後味がさらに軽やかになる。立ち飲み酒場で出合うとは思わなかった繊細な一皿には、ビールはもちろん、日本酒も合わせたくなる。

骨が手強いニシン。低温で2時間火を入れ、中骨まで食べられるやわらかさに。レモンをかければさらに風味アップ。
骨が手強いニシン。低温で2時間火を入れ、中骨まで食べられるやわらかさに。レモンをかければさらに風味アップ。

黒ホッピーは焼酎と割り材が別々に出され、自分好みの濃さで作るスタイル。東京の下町酒場で親しまれてきた梅割りもある。すいすい飲めても焼酎はしっかり濃いため、こちらは一人3杯までだ。

そしてもう一品、コブクロ刺し大葉ジェノベーゼ風300円も見逃せない。プリプリと弾む食感に大葉の爽やかな香りが重なり、濃厚な料理が続いた口を軽やかに整えてくれる。

プリプリ食感のコブクロ刺し大葉ジェノベーゼ風と、立石名物 梅割り250円。
プリプリ食感のコブクロ刺し大葉ジェノベーゼ風と、立石名物 梅割り250円。

大衆酒場らしい煮込みに、洋食仕込みの料理、そして自分で仕上げる酒。食べ終える頃には、こんな店が近所にあったらいいのにと思わずにはいられなかった。

住所:千葉県柏市東1-2-7/営業時間:15:00〜22:00LO(日・祝は13:00~20:00LO)/定休日:月(祝の場合は火)/アクセス:JR常磐線・東武鉄道東武アーバンパークライン柏駅から徒歩10分

取材・文・撮影=パンチ広沢