古刹が生み出した人が集い、楽しむ場『本照寺 寺子屋みろく』

宿坊のイメージで一軒家を活用した『ゲストハウス蓮華荘』も運営。
宿坊のイメージで一軒家を活用した『ゲストハウス蓮華荘』も運営。
本照寺の境内。本堂の右手には墓地がある。
本照寺の境内。本堂の右手には墓地がある。

室町時代開山の寺院が、築100年以上の庫裡(寺院の居住空間)を大改修し2022年に開いたレンタルスペース。2階の床を外し吹き抜けになった開放的な空間は、「ナチュラルヴィーガンつながるマルシェ」をはじめ、ワークショップやカフェ、地域の会合など、多様に利用される。「いい気が流れている和の空間で居心地よいです」とマルシェ主催者・へるし~どいさん。利用者にも好評だ。

開門8:00~17:00、無休。
☎03-3471-3318

おせんべい屋さんは、漁師の子孫『大黒屋 立会川店』

明治30年代の街の絵図。指した場所が野口家(現在地)。
明治30年代の街の絵図。指した場所が野口家(現在地)。

築60年以上の趣ある商店建築で1977年から営む煎餅店。コシヒカリ100%の生地にこだわり、醤油、ざらめ、海苔など全5種類ある「たけのこせんべい」5枚548円~が名物だ。「親戚が目黒で本店を営んでいたんです。目黒や品川のある城南地区は江戸時代~戦前、タケノコの産地だったんですよ」と野口清彦さん。先祖は江戸後期からこの地で暮らす漁師だったとか。

10:00~17:00、日・祝休。
☎03-3764-6967

旅に出たくなる本に囲まれて『KAIDO books & coffee』

Kaidoドッグの平日ランチセット1450円、自家製レモネード750円。
Kaidoドッグの平日ランチセット1450円、自家製レモネード750円。

品川っ子の佐藤亮太さんが、旧金物屋の建物で2015年に開いた古本カフェ。1~2階を埋め尽くす約1万冊の本は、東海道らしく旅がテーマ。本棚の木材やテーブルなども縁ある土地からやって来た。ソーセージもパンも自家製でボリューム満点のホットドッグ、生クリームをたっぷり使った生スコーンもぜひ。

定員5席の間借りバーでコーラに覚醒!『クラフトコーラBAR ジルバ』

シロップを選べる、利きコーラセット3種1500円。
シロップを選べる、利きコーラセット3種1500円。

クラフトコーラにはまった中澤健太郎さんが2023年に狭小バーの間借りで開店。「何種類も飲み比べられる専門店って意外となくて……おそらく世界唯一のバーです」と、国産クラフトコーラのシロップを最大50種類揃え、注文を受けてから最適な配合で炭酸と割って提供してくれる。コーラの作り手を招く手作りコーラのワークショップも時々開催。

19:00~翌0:30、月・火休(不定休あり)。
☎なし

選りすぐりの酒と魚が待つ雑居ビルの秘密基地『旬のうまいもん 東京おそどん』

お造り全力盛り2人前4500円、こだわりの出汁巻玉子760円、海鮮なめろう980円、日本酒は「原田」純米吟醸あらばしり「ハル」820円、「而今」純米吟醸酒未来1220円(共に120ml)。
お造り全力盛り2人前4500円、こだわりの出汁巻玉子760円、海鮮なめろう980円、日本酒は「原田」純米吟醸あらばしり「ハル」820円、「而今」純米吟醸酒未来1220円(共に120ml)。

雑居ビルの5階、勇んで扉を開ければ小上がりもある和みの居酒屋。和食料理人の小曽戸直人さんが下神明での間借り営業を経て、2022年に移転した。食材は豊洲市場で買い付け、仕入れ次第で料理を決める。定番のなめろうも使う魚は日替わりだ。魚料理は必須だが、ジビエに土鍋ごはん、ラーメン、甘味となんでもござれ。レア品も含め、常時37種類ほど揃う日本酒も自慢。

17:00~23:30LO、月休。
☎080-6557-2313

多彩な鼻緒と台から選ぶ、自分だけの一足『丸屋履物店』

6代目の榎本英臣さん。
6代目の榎本英臣さん。
下駄の台は3000円~、鼻緒は3300円~。
下駄の台は3000円~、鼻緒は3300円~。

創業は慶応元年(1865)。関東大震災や空襲にも耐えた明治末期築の店に並ぶのは下駄や草履、雪駄(せった)の台と色柄多彩な鼻緒。自由に選び、目の前で鼻緒をすげて足に合わせて調整、という昔ながらのスタイルで販売する。が、近年、6代目の榎本英臣さんは「できることは自分たちで」と、全国の生地を取り寄せ鼻緒を仕立て、雪駄も製作。若手従業員とともに店と技術を守る。

住所:東京都品川区北品川2-3-7/営業時間:9:00〜19:00/定休日:日/アクセス:京浜急行電鉄本線新馬場駅から徒歩3分、JR品川駅から徒歩15分
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歩けば30以上の寺が次々と

品川は言わずと知れた旧東海道の宿場町。だが、寺社町の顔も持つ。北品川から旧街道を歩くごとに寺院や神社が次々と現れるのだ。その数は周囲に寺だけで30以上。平安時代前期にできた区内最古の品川寺(ほんせんじ)をはじめ、創建年代は13~14世紀に集中するという。

その1つ、「本照寺」は500年以上前に開山。古刹ながら、1975年ごろから「宗派の垣根を超えて仏教の教えを伝えたい」との意思で単立寺院に。最近は、所有する古民家をゲストハウスに、老朽化した庫裡(くり)をレンタルスペースにと再生。寺ならではの宿坊と寺子屋を新しいかたちで表現した。

「お寺はコンビニの数より多いと言われますし、いろんなお寺があっていいと思うんです。当山は格式にとらわれず、どなたでも入れる間口の広いお寺でありたい。おかげさまで、人の“気”が常にある場になっています」と、30世住職の塚田團樹さん。

文治3年(1187)創建の品川神社。2020年に社殿が修復された。
文治3年(1187)創建の品川神社。2020年に社殿が修復された。

また、海の街である歴史も外せない。1000年前の平安時代、南品川のほうに生まれた湊を起点に街は発展。漁業のみならず、武蔵国の南の玄関として関西方面と海路でつながり、鎌倉~室町時代は関東の物流拠点となる。

「目の前は遠浅の海だったんだよ。うちは文化年間から250年暮らす家系で、もともと漁師。昔の絵図には、うちのそばに海苔干し場も描かれていますよ。沖には海苔ヒビ(海苔を付着させるために海中に立てた木)があって。『晴れてっと鋸山が見えたぞ』なんて明治生まれの人は言ったもんです」とは、『大黒屋 立会川店』の野口清彦さん。品川の漁業は昭和37年の漁業権放棄で消滅するが、界隈の煎餅屋では細長い海苔あられを「品川巻」と名付け、海苔養殖の歴史を今に残す。

カラフルなちょうちんが楽し気な「立会川龍馬通り繁栄会」。
カラフルなちょうちんが楽し気な「立会川龍馬通り繁栄会」。

宿場町としては、慶長6年(1601)、徳川家康により宿駅伝馬制が敷かれ、東海道の第一宿に定められて大繁栄。が、ただの宿場町でないのが品川宿。東は海で、潮干狩りに舟遊び、魚釣りに漁師が捕る江戸前の魚グルメが楽しめ、西は山で桜や紅葉の名所。寺社の縁日・祭りも盛んで、吉原と並ぶ遊郭まであった。

「海が近くて船が着くので物資は豊か。食べ物もおいしくて、きれいどころと遊べる街。人通りは大変なものだったようです。“じょうろや(江戸言葉で女郎屋)”には目利きの下足番がいて、いい履物だといい座敷に通してくれたから、男の人の遊び場に下駄屋は重要だったって話もよく聞きました」

そう教えてくれたのは2026年で創業161年の『丸屋履物店』6代目・榎本英臣さん。では、地元っ子にとって今の街はどう映る?「子供時代から比べたら古くからの商店は減りましたし、マンションがこんなに立つとは思いませんでした。でも、激変というほどのスピード感はないですよね」。

立会川の奥に赤い京急線。旧東海道と並走する相棒だ。
立会川の奥に赤い京急線。旧東海道と並走する相棒だ。

同じく地元出身の『KAIDO books&coffee』店主・佐藤亮太さんは、「歴史の深さ、人のつながりの濃さがほかの街とは違う」と語る。

「町会活動が盛んでお祭りも多い。うちの店でも地元のお客さん同士のつながりを実感します。そのつながりが希薄になりそうな今だからこそ、人が集まり交流できる場所として店は残したい。旅人が立ち寄り方々へ旅立った往時のこの街のように、いろんな人、モノを受け入れていくつもりです」

北品川の旧東海道沿いは横丁が多い。
北品川の旧東海道沿いは横丁が多い。

宿場町の面影はそのまま新しい文化も集結

現代、街道はすっかり生活道路の体ではあるが、鈴ヶ森までほぼ道のかたちを変えずに生き続けるのはもはやミラクル。その歴史的価値を見出され景観の保全、整備が行われ、国を越えて異人さんも往来する観光地にもなっている。新しい店はそう増えているわけではないけれど、一度訪れたらすっかりファンになる隠れた名店がちらほら。なぜこの地を選んだのだろう。『旬のうまいもん 東京おそどん』の小曽戸直人さんに聞けば、「たまたま紹介されたからなんです。が、後で、坂本龍馬が立会川にいたらしいと知り、運命だ!って思いました。僕、龍馬が好きなんです」と笑う。

街道の安全を見守る品川寺の地蔵菩薩。
街道の安全を見守る品川寺の地蔵菩薩。

今や北海道から沖縄まで300種類以上あるといわれるクラフトコーラに特化した『クラフトコーラBAR ジルバ』の中澤健太郎さんも“運命”派。「実は上京して初めて住んだ街が立会川で。縁あってこの物件を見つけた時、自分の原点に返るみたいだなと運命を感じたんです。旧東海道ですしね、出発点的でいいかなって」。

「しながわ花街道」と呼ばれる勝島運河の土手。
「しながわ花街道」と呼ばれる勝島運河の土手。

諸国のうまい酒や魚介、クラフトコーラだって集結する旧街道。今もこれからも、道を行き交う私たちを引き留めて、憩わせ、楽しませてくれるに違いない。

京浜運河を走る東京モノレールと首都高。
京浜運河を走る東京モノレールと首都高。

取材・文=下里康子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2026年5月号より