物語をつなぐべく守り抜いた門前町の館『古民家カフェ 蓮月』【池上】
「困っている人がいると助けずにはいられないんですよ」と店主の輪島基史さん。長年親しまれてきたそば店「蓮月庵」が2014年に閉店、取り壊しの危機に瀕した建物を残そうと始動したプロジェクトから依頼を受けた。飲食店経営のノウハウもない輪島さんは当初断ったものの、結局地域の人々の要望に耳を傾けながら暗中模索で2015年にカフェをオープン。建物は老朽化が激しく修繕が追いつかないほどだったが、知り合いの大工が友達価格で直してくれるなど応援の力もあって乗り越えた。「この建物は人の情熱によって保たれていますね。思いがないとつないでいけません」。
思えば、輪島さんの前職は古着屋。古いものにストーリーを添え、付加価値をつくる仕事だ。「先日はここを建てた宮大工の娘さんが来てくれて、話をすることができました。この店は、人が代々つくってきてくれた土台の上に立っている。物語をつないで、どうやって次に残せるか考えていきたいです」。
思い出が宿る銭湯の形をそのままに再生『レボン快哉湯(かいさいゆ)』【入谷】
明治後期創業の銭湯「快哉湯」。閉業後も建物を残したいというオーナーの思いが届き、木造が得意な建築会社・ヤマムラが改修と運営を担う。「ペンキ絵を塗り替える時は脱衣所でお茶を飲みながら見ていたとか、鏡は踊りの練習に使ったとか、歴史を知れば知るほど銭湯の形をできるだけ残すべきだと思いました」と、自身も常連客だった代表の中村出(いずる)さん。改修のメインは耐震補強で、天井の高い大空間を内側から支えるために書棚が梁(はり)の役割を果たしている。浴室は当初シェアオフィスにする予定だったが、改修するうちに惜しくなって自社のサテライトオフィスに。「緊張したし費用もかかったけど、思い入れはひとしおです」。
脱衣所には、近所のホテル運営を手掛けるベステイトが2020年にカフェをオープン。銭湯時代の空気感をそのまま体験として提供できる場となり、マネージャーの多田(おおた)真理さんは「なじみのある空間が残ってよかった、と近所の方に言っていただきます」とほほえむ。
取材・文=中村こより 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2026年4月号より







