ダンディ坂野
だんでぃ さかの/1967年、石川県加賀市出身。1996年に大川興業の舞台でデビュー。粋なアメリカン・ジョークと「ゲッツ!」のフレーズで2003年に大ブレイクし、同年の新語・流行語大賞にノミネートされる。バラエティ番組をはじめ、ドラマや映画、CMなどでも活躍。2020年からYouTubeの音楽チャンネルで自作の歌やカバー曲を披露している。
中央線の車窓は、ずーっと金沢
——金沢駅まで北陸新幹線が開業した際(2015年)の試乗では、芸能人一番乗りを果たしたそうですね。
ダンディ 非常に特別感がありましたね~。グリーン車の座席は、前田家の別邸からインスピレーションを受けたという群青色で、すごくおしゃれ。新幹線の開通は石川生まれの僕にとって、大きな出来事でした。
——初めて上京した時は?
ダンディ 加賀発の夜行バスです。加賀から乗る人が少なくて、すぐ廃止になっちゃいましたけど。26歳の時、片道7000円だったかな。当時はスマホもICカードもないし、東京に着いてからきっぷを買って。お笑いの養成スクールがある駅まで中央線に乗りました。
そうしたら、列車の窓から見える景色がビルビルビル……ずーっと金沢だ!と驚きましたよ。
「つるつるいっぱい」って意味、わかるかな?
——中央線イコール金沢!
ダンディ 金沢は北陸の大都会ですからね。城下町で殿様気質だけど品がよくて、言葉も「~したんや」とか「食べまっし~」とか丸くて高貴なんですよ。僕の地元・加賀は「するがや」とか「せんのか?」とか、ちょっときつい。
加賀独特の表現もあって、「つるつるいっぱい」って意味わかります? コップにめいっぱい水が入っていることなんですけど、東京で「どういうこと?」と言われ、初めて加賀弁と知りました。
——加賀ではどんな少年時代でした?
ダンディ テレビっ子でしたね。中学生の頃から『ザ・ベストテン』で輝いていたトシちゃん(田原俊彦)に憧れ、(松田)聖子ちゃんや(松本)伊代ちゃんも大好きでした。
ラジオは東京のあのニッポン放送が、たまにうっすらと聞こえるんですよ。「いま、伊代ちゃんがしゃべってる!?」と思って、チューニングダイヤルに触れると、一瞬でザザザーッてなっちゃう。そんな時代です。
自分もアイドルになって芸能界に入りたい。でもお芝居もできないし、加賀には芸能事務所も、レッスンが受けられるところもありません。伝統芸能はあるけれど、芸能界は遠かったですね。
——高校に入ると、モテ期が到来したそうですね。
ダンディ え、そんなこと言ったかな(笑)。楽器も弾けないのにブラスバンド部に入ったんですよ。担当はパーカッション。
なんとなくドラムの前に座って、なんとなくズンダカズッズ、ズンダカズッズって叩いて。大会ではリズムのところだけ必死に覚えて、シンバルをバーン!とやって、ピタッと脇で止める係です。
ちょうど「なめ猫」がはやっていて、僕もボンタンズボンをはいていたんです。そうしたら、楽譜も読めないのにドラム叩いて喜んでいる変わった先輩がいるって、後輩がおもしろがってくれて。仲よくしてくれる子が、いることはいました。それがモテ期?(笑)
——高校卒業後は何を?
ダンディ 芸能界への憧れを抱きながらも、会社に就職したんです。でも三交代の仕事で堪え性がなく、やめてしまって。
そのあと、山代温泉のレンタルビデオ店でバイトを始めました。映画やドラマ作品を扱う場所にいたら、芸能界に近づける気がしたんでしょうね。時給もいいし、バイト仲間もみんな仲がよくて。
隙間時間は邦画から洋画、アメリカンコメディまで、いろいろなビデオを見ました。なかでもエディ・マーフィが衝撃的で。「これ大丈夫なの!?」と、ドキドキするブラックジョークを言ったりしてね。それがゆくゆく、役立つ時がくるんです。
アイドルになれないならお笑いだと、夢を方向転換
ダンディ 時を同じくして『オールナイトフジ』という伝説の番組で、とんねるずの存在を知るんです。やんちゃだけどオラオラしてない。おしゃれを通り越した新しいスターとの出会いでしたね。
とんねるずといえば、アイドルと絡むコント。洋楽のパロディをやったり、キョンキョン(小泉今日子)に黒い全身タイツを着せて、モジ子をやらせたり。
アイドルにはなれなくても、とんねるずになればアイドルと一緒にモジモジできる。よし、お笑いでいこう!と。よこしまですね。
——柔軟な発想の転換で、一気に芸能界が近づいてきました。
ダンディ バイトで少しお金が貯まったので1~2年、東京に行ってみようと、人力舎のスクールに入ったんです。周りはみんな10代。僕は26歳。しかもお笑いの層が厚い!
あと1年だけピンで頑張ってみようと決めたそのとき、役に立ったのがエディ・マーフィ。
「オレ、この前バスに乗ったらあいつに会ったんだよ。オレ、言ったんだ。お前の奥さんってピ~だよなって。そしたらあいつ、お前こそピ~だろって。ワハハ」というノリで、ギャグを言って、自分で笑う人を作り出したんです。
それがダンディ。根本はアイドルなので、スーツに蝶ネクタイで、下品なことや悪口は言わないと決めていました。
——見事ブレイクし、流行語大賞にもノミネートされ、時の人に。
ダンディ でも憧れだけでやってきたから、そこから上がないんです。新しい人が出てきてゲッツ!現象は終わったなって思ったら、また別の新しい人が出てくる。ギターを持って「残念!」って言う人とか、腰を振って「フォー」って言う人とか。白塗りで「チクショー!!」って言う人とか。
あ、これは永遠に続くんだと気づきました。ゲッツ!は、現象が終わったあとも、CMで重宝がられる。だったら、キャラクターとしてゲッツ!を一生懸命やろうと決めたんです。
ライブで「伝統芸能みたいでしょ?」って言うと、たまにウケますね。
——石川にはご家族で帰省も?
ダンディ 娘が5歳の時に里帰りしました。母と姉が迎えてくれたんですが、僕が生まれ育った家に自分の娘がいる。僕が幼かった日も、こんな風景だったのかなあって思って、ちょっと胸が温かくなりましたね。
加賀に金沢に能登。全部をゲッツ!する旅程案
——思い出の実家で収集したトシちゃんのレコードは50枚とか。上京後、憧れのトシちゃんには会いましたか?
ダンディ 会いました。番組でご一緒できることになり、ドキドキしながら楽屋の前で「ダンディです。ご挨拶にうかがいました」「入っていいよ~」。
扉を開けたら、トシちゃんいるじゃん! 会いたかったトシちゃーん!って心で絶叫。「ダンディ、頑張ってんな。頑張ろうな、俺も頑張る」って言って、指をパチンと鳴らしてくれたんです。うれしかったなあ。
——もし、トシちゃんを石川に案内するなら?
ダンディ そうだな~。一番食べてほしいのは、加賀の橋立漁港で水揚げされるズワイガニ(加能ガニ)。
昨年(2025年)、獲れたてを食べさせていただいたんですが、本当においしくて、これが地元が誇るカニかと感動しました。トシちゃんもハッとするんじゃないですかね!
——わははは。そんな最高のカニを堪能しつつ、ダンディツアーを組むとしたら?
ダンディ 石川は加賀も能登も金沢も、みんな趣が違うので。全部行きましょう。
金沢に宿を取ったら、加賀まで車で50分。実性院や医王寺など、歴史ある寺院をめぐり、昼食は伝統的な鴨料理がいいかな。
金沢に戻ったら、近江町市場や香林坊あたりを散策、夕食は腕利きの職人さんが握るお寿司か、ステーキハウスもいいですね。
翌日は能登へ。海が見える宿に泊まり温泉に入ったら、ぜひ夕焼けの海岸を歩いてほしい。荒々しい断崖がすごく素敵なんですよ。
夏なら、キリコが盛大な輪島大祭。昨年、僕が参加したときは復興が進んでいないところも多いなか、能登の頑張るぞ!というパワーとエネルギーを感じました。
——いまや石川を代表する芸能人、ダンディさん。一発屋といわれながらも、ずっと活躍中です。
ダンディ 0.3発ぐらいが続いているからかな。小さいドーン……をコンスタントに重ねていくと、こんな感じです(笑)。
——上京前の自分に言葉をかけるなら?
ダンディ 「やると思ってたよ」。潮時かもと思った時期もあったけど、続けた自分が偉い。30年前の自分に「でしょ?」と言いたいな。
生ゲッツ!を体験したい ダンディさんの音楽ライブ
ダンディさんと仲間たちが、誰もが耳にしたことのあるカバー曲や、オリジナルソングを歌うライブを定期的に開催している。生で「ゲッツ!」を体験し、ダンディさんの歌に元気をもらおう。日程や詳細は、公式Xをチェック。
公式X:@dandsaka
YouTube「ダンディ坂野 だんさかch ダンミュージック音楽出版」:
https://www.youtube.com/channel/UCWe4dXo34iV80-yCFyYkv7g
聞き手=くればやしよしえ 撮影=千倉志野
『旅の手帖』2026年6月号より






