チョウにトンボ、エキゾチックな模様など、ショーケースには、伝統的漆芸技法の螺鈿と蒔絵を施したジュエリーたちが。蒔絵は漆地に金属粉を撒いて絵や文様を描く日本古来の加飾技法で、唐伝来の螺鈿は、夜光貝やアワビ貝の裏面にある真珠層を板状に切り出して漆地に埋め込む技。2つの技を併わせた蒔絵螺鈿での表現法は平安時代に確立したという。「マリー・アントワネットは母のマリア・テレジアともども、熱心なコレクターでした」と、教えてくれたのは永坂景子さんだ。本来は蒔絵螺鈿と称すが、「私は螺鈿が主なので、あえて螺鈿蒔絵と反対にして呼んでいます」。
永坂さんがこの技法に目覚めたのは1994年。ポーラのジュエリーデザイナーとして活躍する一方、オリジナリティーを模索していた頃だった。近所の蒔絵師古山光葉氏の工房で基礎を学び、後に人間国宝になる室瀬和美氏に師事。そして、伝統技×ジュエリーという稀有な世界を誕生させた。
製作工程は実に緻密だ。デザインに始まり、土台に漆を塗り重ね、蒔絵と螺鈿を施した後、もう一度漆を塗り、研ぎ出して色艶や模様を浮かび上がらせる。
300種以上もある金属粉から30種を使い分ける蒔絵の金粉は見かけによらず重量があって沈みやすく、極薄の貝で螺鈿にしないと金が見えない。しかも「貝の色を気にせず貼ると白く見えてしまう」と、板状から四角、楕円など、吹けば飛ぶようなカケラに切り出し、青、緑、紅系に選り分ける。繊細な作業の連続は途方もない根気と集中力が必要。舌を巻くばかりだ。それでも「この難しい作業にハマりました」とほほ笑む姿が印象的だ。
思わず息をのむ“品川蒔絵”の世界
永坂さんが品川宿に工房を構えたのは2008年。「漆の職人が暮らす町で、お屋敷の漆器修繕などを請け負っていたそうです」と、伝統文化の息遣いを町から感じている。御殿山のサクラ、寛政のクジラなど、品川らしさを取り入れた作品も作るが、「お土産ではなく、現代の人が欲しいと思えるジュエリーに昇華させたい」と力を込める。工房では彼女の技を実感しながら珠玉の作品を選べるうえ、体験(8800円)も可能。五感フル活用で螺鈿蒔絵のきらめきを堪能したい。
取材・文=林 さゆり 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2026年5月号より






