友達の本棚を見せてもらうようなわくわくと親近感

「昔ここで、母方の祖父が印刷所を営んでいました」と『COYAMA』の店主・奥真理子さん。「『小山印刷所』といいました。今でもときどき、床板の隙き間から活字の型が出てくるんですよ」。

「小山印刷所」を建てる際に描かれた古い設計図。
「小山印刷所」を建てる際に描かれた古い設計図。

最も目を引くのは壁一面の本棚。このコーナーにあるのは、奥さんが読み終えた古本や、気になって購入したがまだ読んでいない積読本も混ざっている。「個人の感覚」で緩く並べているため、デザイン資料の近くに新書があったり、その隣に文芸書があったり、脈絡がないようで、なんとなくある感じ。遊びに行った友達の家で本棚を見せてもらうようなわくわくする気持ちと、親近感が湧く。

新刊コーナー。建築やアートに関する本が多い。
新刊コーナー。建築やアートに関する本が多い。

そこはかとなく漂う生活感も、気の合う友達の家のよう。いつのまにかくつろいだ気分になってしまう。併設のギャラリーは、押し入れを利用した展示棚が印象的。

「ギャラリーは、元々住居スペースでした。祖父母、母たち3姉妹の5人家族が暮らしていました」

建物はしばらく空き家になっていたが、奥さんが「住んでみたい」と思い立ち、1年かけてセルフリノベーション。やがて「ここを人が集まるブックカフェにしたい」と考え始め、現在は本業である空間デザインの業務を行う傍(かたわ)ら、週3日『COYAMA』として開店している。

アメリカンプレスで淹れるコーヒー640円。
アメリカンプレスで淹れるコーヒー640円。

土曜はカフェ担当のスタッフも入り、平日より少しにぎやか。本を読みながら、コーヒーやスイーツを楽しむことができる(新刊は購入済みのみ。古本は閲覧自由)。かつて5人家族が使っていた5脚の椅子を、座面を張り替えてカフェで使っている。ゆったりできる「おうち」と、さまざまな人が集まるパブリックスペースの境界線が曖昧になったような、不思議な居心地のよさに和まされるのだ。

住所:神奈川県川崎市中原区上丸子山王町2-1314/営業時間:11~17時/定休日:日~水(カフェ営業は土のみ。ただし展示期間中は金~日に開店し、全日カフェも営業)/アクセス:JR南武線向河原駅から徒歩7分・JR・私鉄武蔵小杉駅から徒歩10分

取材・文=信藤舞子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2025年4月号より

東京と横浜の中間にあるから少しはのんびりしていてもよいものの、川崎の発展は日々めざましい。宿場町で工場と労働者の街という歩みの上に育まれる都市の今を歩く。
J1リーグを初制覇した2017年以降、国内で最もタイトル獲得数が多い川崎フロンターレ。さらに、地域密着度合の面でもリーグ屈指という、輝かしい成績を収めている。そんなクラブの強さと人気の根源を、ホームタウンで探った。
ニョキニョキとタワーマンションがそびえ、新たな建設計画も進行中。一見、無機質な再開発が続く武蔵小杉にも、新丸子方面の変化を皮切りに「この街らしさ」が見えてきた!