散歩途中にリラックス。店内に充満するほうじ茶の香り

国分寺にある遊歩道、お鷹の道の付近は、ビルや商店が並ぶ駅周辺とはまるで別世界。道が入り組んでいて、ところどころにある崖が森のようになっている様子や、前庭の広い農家らしい住宅も見かける。

真姿の池(ますがたのいけ)湧水群に続くお鷹の道。蛍が見られることもあるとか。
真姿の池(ますがたのいけ)湧水群に続くお鷹の道。蛍が見られることもあるとか。

「西国分寺方面からの散策途中で、休憩にとお茶を飲みにいらっしゃる方もいます。『調布の深大寺でそばを食べてから1時間ほど野川沿いを歩いてきた』という元気な年配の方もいますね」

店主の関口さんが、この場所にお店を開いたのは2018年9月のこと。お鷹の道の散策途中に休憩ができる店がほしいと希望していた物件のオーナーと、いつかお茶の店を出したいと思っていた関口さんが出会った。のんびりした空気が流れていて、歴史も感じる場所に、休憩ができる和のカフェ。これ以上ないほどぴったりだった。

『日本茶カフェ茶々日和』は、オープン当初から煎茶、玉露、抹茶、ほうじ茶、さらに和紅茶と、産地を限定することなく日本で作られるお茶を満遍なく取り扱っている。しかも、どのお茶も種類が複数あって、「香りに特徴があるものや、旨味が強いもの、旨味は控えめでさっぱりしているものなどを揃えています」と関口さんは話す。

ドアを開けて、お店に入るとお茶のいい香り!
ドアを開けて、お店に入るとお茶のいい香り!

そんな店主の意図が伝わったのか、一緒に訪れた人同士で違うお茶を頼んで、飲み比べる光景が見られるようになり、「それなら1人でも飲み比べできるように」とオープン当初はメニューになかった飲み比べセットが誕生した。

現在飲み比べできるセットは3種類。焙煎度が違う3つのほうじ茶、福岡・八女産の煎茶3品種、同一品種を製法の違いで2種類を比べられるものとどれも興味をそそられる。

関口さんが「意外と奥深いんですよ」と力を入れているのがほうじ茶だ。お茶農家からお茶の葉や茎を仕入れて、店内で焙烙(ほうろく)という焼き物で作られた道具で毎日焙煎している。

「抹茶用に摘んだ残りを庶民がほうじ茶にして飲んでいたので煎茶よりほうじ茶の方が歴史があるんですよ」と関口さん。
「抹茶用に摘んだ残りを庶民がほうじ茶にして飲んでいたので煎茶よりほうじ茶の方が歴史があるんですよ」と関口さん。

焙煎するほうじ茶の香りは、他に例えようのない香ばしさだ。焙煎後もその香りはしばらく店内にとどまっているから、香りにつられてほうじ茶を注文する人が続出する。

浅炒り、中炒り、深炒りのほうじ茶の飲み比べは800円。この日のお茶請けはほうじ茶羊羹。
浅炒り、中炒り、深炒りのほうじ茶の飲み比べは800円。この日のお茶請けはほうじ茶羊羹。

ほうじ茶の飲み比べでは、パッと見てもわかるほど色味の違う3つのほうじ茶が提供される。「香ばしさや香りは、口や鼻の中に残るので焙煎の浅い淡いものから先に飲んでみてください」と勧められた。

おすすめに従って色の薄いものから飲んでみると、明らかに味わいが違う。薄い方が緑茶と共通したお茶らしさを感じ、色の濃いお茶は、香りがよく香ばしいほうじ茶らしさも濃くなる。

「同じ葉っぱや茎を焙煎しているんですけど、お茶の葉っぱに含まれる旨味は、炒っているうちに苦味の元であるカフェインと一緒にどんどん飛んでしまうんです」

お茶の味わいは繊細なだけに、意識を集中して飲みたくなる。リラックスしたいときにはもってこいだ。

手作りの生地はパンケーキ風。お茶入りあんこを挟んだどら焼き

煎茶バターあんのどら焼きは250円。白あんに茶葉とバターを練り込んでいる。
煎茶バターあんのどら焼きは250円。白あんに茶葉とバターを練り込んでいる。

食べ物のメニューも、徐々に増えた。最初は、お茶と一緒にいただくひと口菓子として羊羹など小さな甘いものを付け、単体のメニューとしてはぜんざいとあんみつを用意している程度だった。

しかしお客さんから「疲れが取れるような甘いものを食べたい」という声があり、思いついたのがどら焼きだった。ただのどら焼きでは面白くないと、お茶のカフェらしくあんこにお茶を混ぜ込むんだものを2種類考えた。ひとつは煎茶バターあん。白あんに煎茶と溶かしバターを混ぜたものを挟んでいる。もうひとつのほうじ茶あんは、粒あんにほうじ茶を混ぜて、一緒にぎゅうひを挟んでいる。どちらもリピート率が高い。

生地は自家製。どら焼きの生地とパンケーキの中間を目指して、甘いものともしょっぱいものとも合う味付けになっているため、ソーセージや卵を挟むやサラダサンドのような軽食メニューも登場している。季節ごとにブルーベリーやレモンなどを使った目新しいどら焼きも登場して、関口さんは「開発を楽しんでいます」とのこと。

日本茶にもいろいろあると知ってもらうために

静岡、宇治、狭山、九州のほかにもお茶は日本各地で作られている。
静岡、宇治、狭山、九州のほかにもお茶は日本各地で作られている。

府中市出身の関口さんはおじいちゃん子で、子供の頃から祖父母宅に滞在してはお茶に親しんでいた。大学生になるとお茶に関する本を読んでは知識を身につけ、社会人になるとオフィスの給湯室にマイ急須と茶葉を持ち込むほどのお茶好きに。30代に差し掛かったころ、「僕が急須を使ってお茶を淹れているのを見た後輩から、『それ、なんですか?』と聞かれたことがありました」。

日本茶の生産量や消費量が減っていることは知っていたが、少し下の世代がお茶を淹れるのに欠かせない、急須の存在を知らないことに衝撃を感じた。幼いころから身近にあったお茶の文化が続いていくことに微力でも貢献したい、いつかお茶を楽しんでもらえるお店ができないかとぼんやり思い始めたのはそのころだ。そして府中市内にある実家からも遠くなく、湧水の流れる場所のそばにある現在の店舗に出合ったことで、思い切ってオープンへと舵を切った。

店内にも山野草が置かれていて清々しい雰囲気だ。
店内にも山野草が置かれていて清々しい雰囲気だ。

「お茶を買うというと、ペットボトルのお茶を買うという意味が一般的になっているし、家に茶葉があってもそれは頂き物であることがほとんど。だから茶葉に種類やグレードがあることさえ知られていません。お茶に興味を持ってもらって、ちょっといいお茶を飲んでみようと思うきっかけづくりができたらと思っています」

『日本茶カフェ茶々日和』ではほうじ茶を焙烙で焙煎する体験イベントも定期的に行っている。散歩と日本茶、どちらも目的にして訪れたいカフェだ。

住所:東京都国分寺市東元町3-18-5/営業時間:11:00 ~ 18:00(12月~2月 ~17:00)/定休日:水、第2・第4日/アクセス:JR・私鉄国分寺駅から徒歩11分

取材・撮影・文=野崎さおり