市境を意識しないおおらかな街
志木駅の南口を出ると新座市だ。
住宅地に潜む『Simply』は、アメリカ好きの丸山幸一さんが営むカフェ。ソファに体を預け、音を消したテレビに映し出されたアメリカ映画を眺めていると、なんだか日本じゃないみたい。朝霞に米軍基地があったためか、この雰囲気を「懐かしい」と言って通う年配のお客さんもいるのだとか。
近年はベッドタウンとして人気の志木エリア。移住者が増え、小さな子供を連れた家族が目立つ。また、慶應義塾志木高等学校や立教大学新座キャンパスがある文教地区でもあり、青春を謳歌する若者の姿も。
北口の志木市側には、昔からある店に混じって新しい店ができている。
『イズミヤコーヒースタンド』の高須和泉さんに聞くと、「志木と新座、朝霞は一つの文化圏。多分みんな、市境を意識せずに生活しています」。そんな大らかさに起因してか、街の空気は朗らか。なお、「荒川を越えてさいたま市まで行くと違う文化圏」なのだとか。
コーヒーブレイクを終えて本町通りに出ると、そこはかつての宿場町。江戸後期から大正にかけて、新河岸川の舟運で随分栄えた。当時は立派な店蔵が並び、市指定文化財の『旧村山快哉堂』もその中にあった。目をつむれば、そのにぎわいを想像できる。
川沿いの緑道を柳瀬川の方に折れ、志木ニュータウンへ。
親子2代で営む『エーデルワイス』は、ぺあもーるの開業時からある最古参のパン屋だ。どのパンにしようか迷っていると、「自家製りんご酵母で作ったドイツパンがおすすめ」と常連のマダムが教えてくれた。夫婦揃って「大のお気に入り」らしい。明日の朝ごはんにしようかな。
『とんかつ ひのはら』では、通い慣れた様子の男性客がロースかつで晩酌を楽しんでいた。帰り際、「また明日」と言っていたが、日課なのかな。「そうなんです。ランチに来て、またあとで(夕飯で)なんて言う人もいますよ」と店主の日原卓一さん。
よし、志木さんぽの締めにわたしも一杯もらおうか。
『Simply』アメリカが香る癒やしのカフェ
80年代にアメリカを旅したオーナーの丸山幸一さん。自分の店を作る際、思い描いたのは「その時訪れた大衆的なコーヒーショップ」。オリジナルブレンドのコーヒー440円。マラサダドーナツ308円。メニューを運ぶスタッフの笑顔にホッ。
●11:00~19:00、日・月・祝休。
☎048-474-8120
『旭屋書店 志木店』独自のフェアで本との出合いを提供
文芸書から実用書、漫画、雑誌、文具も扱う市民御用達店。志木店独自のフェアでは、あえてカテゴリを曖昧にして俳句まで含めた「ショートショート」や、隠れた名作を集める「絶対にかぶらない絵本」など、ひとひねりしたテーマが面白い。
●10:00~22:00、不定休。
☎048-487-6165
『flower & plants Kafuu』咲き誇る草花が街の差し色に
2021年にオープンした複合施設『FOOD HALL SHIKISM』。入り口に停車中のキッチンカーは、デイリーな草花を揃えるフラワーショップだ。淡い色が多く、求めやすいミニブーケは子供や男性にも好評。四季折々の花が往来する人々に季節を知らせる。
●11:00~19:00、火休。
Instagram:kafuu.01
『イズミヤコーヒースタンド』味のある建物が今と昔をつなぐ
天井の高さや壁のレンガは、昔の名残。元々は約130年前に造られた醤油醸造の麹室だった。2016年、店主の高須和泉さんがセルフリノベーションし、コーヒースタンドに。ハンドドリップコーヒーM360円。
●10:00~15:00、月・土・日休(不定休あり)。
Instagram:izumiyacoffee
『旧村山快哉堂』かつては宿場町で漢方薬を調剤
明治10年(1877)、本町通りに建てられた木造二階建て・土蔵造りの店舗。家伝薬の製造をはじめ、1993年まで薬屋を営んだ。現在は建物がいろは親水公園に移築復元され、見学自由。
●10:00~16:00、火休(祝の場合は翌休)。
☎048-456-5070(いろは親水公園パークセンター)
『エーデルワイス』豊富な品揃えで迷うのも楽しい
ぺあもーるで愛され、40年以上。リクエストに応えるうち、食事パン、総菜パン、菓子パン、菓子と増え、今や60種超え。昼過ぎに出るドイツパンはドライフルーツたっぷり。ドイツパン864円、「およげ!! しらす」しらすフランス280円、シベリア216円ほか。
●8:00~19:00(日は20:00まで)、木休。
☎048-474-6136
『とんかつ ひのはら』口の中に舞う豚肉のピュアな甘み
ひと切れ頬張ると豚肉の甘みがふわりっ。新鮮なサラダオイルでカラッと仕上げ、低温でじっくり揚げることにより歯切れをよくする。ヒレ梅しそ巻定食1450円もファンが多く、晩酌にもぴったり。
●11:30~14:30・17:00~20:30、木休。
☎048-473-2881
取材・文=信藤舞子 撮影=井上洋平
『散歩の達人』2023年10月号