埜田神社と野田地区の長年の思い

西口の野田町に、埜田(のだ)神社という小さな古社がある。そちらへ向かうと、御年80歳、氏子の田嶋秀浩さんが迎えてくれた。

「この辺りはかつて田嶋新田といわれ、街の中心部(現在の東口)から、人々が開田のために移住してきた場所といわれます。ただ、高台にあるため取水しづらく、水田ではなく畑作や養蚕を行ってきました」

野田町や東田町のシンボル、埜田神社。
野田町や東田町のシンボル、埜田神社。

野田町一帯の誇りとなっているのが、埜田神社の山車庫に納まる山車。実は平成2年(1990)の完成と歴史は浅く、それまでは他地域の山車を借りていたそう。

1958年、野田地区は山車を借りて祭りに参加。
1958年、野田地区は山車を借りて祭りに参加。

「30年間資金集めに奔走し、やっと自前の山車ができました。初めて繰り出したとき、夢がかなったと震えましたね」

同じく「昔は大地主がたくさんいて、麦や茶の畑が多かった」と振り返るのは、西口の脇田本町で生まれ、『cafe 百福』を営む仲さん。

「当時、蔵町からしたら、西口は田舎者(笑)。20年ほど前も周りは駐車場ばかりで、息子の同級生は近所に一人も住んでなかったぐらいです」

今は、東田町の日清紡績川越工場跡は高級住宅街に。
今は、東田町の日清紡績川越工場跡は高級住宅街に。
新河岸川の八幡橋周辺はのどかな風景。
新河岸川の八幡橋周辺はのどかな風景。

『ウェスタ川越』と『ウニクス川越』で風向きは西へ

のどかな郊外の街に変化が訪れたのは、巨大ホールや子育て支援室などを併設する『ウェスタ川越』と、その隣にショッピングモールの『ウニクス川越』が完成した2015年。
居酒屋『囲坊主(いぼうず)』の木野内さんいわく「この両施設で少し人の流れが変わったかも。『ウェスタ』でコンサートを観た方が、ウチへ来てくれることもあります。『ウニクス』前の広場でイベントがあると週末はにぎわいますね」。

『ウニクス川越』(右)と『ウェスタ川越』(左)。
『ウニクス川越』(右)と『ウェスタ川越』(左)。

この頃から、西口で勝負する個人店も少しずつ増加。2018年に開業した『パティスリーシエル』の松本さんは「当時、西口にはケーキ屋さんが1軒しかありませんでした。自分の地元の西口で、地域の人に愛される洋菓子店をやりたかったんです」と振り返る。

2020年には、駅前に巨大商業施設の『U_PLACE』が完成。すでに西口のランドマークの風格を漂わせる。

「西口からペデストリアンデッキで直結しているから、雨の日も濡れずにここまで来れるんですよ」とは、東口から『U_PLACE』の7〜11階に移転してきた川越東武ホテルの総支配人・蓑輪さん。

人の流れを変えたペデストリアンデッキ。
人の流れを変えたペデストリアンデッキ。
市制施行100周年記念モニュメントと『U_PLACE』。
市制施行100周年記念モニュメントと『U_PLACE』。

1階に入る『COEDO BREWERY THE RESTAURANT』の総料理長・長瀬さんによると「ホテルが西口にできたので、この店へ飲みに来る外国人客も確実に増えた」のだとか。

『U_PLACE』のすぐ東側の路地には、2023年で5周年を迎えた『花香楽(かから)』がある。代表の小林さんは東口で旅行業を営んでいたが、西口に移転。こちらの方が時間の流れがゆるやかで、より長く深くお客さんと向き合えるのだそう。

「積み重ねを大事にする川越人として、5年はまだまだ。西口も、街としての“色”が出るのはこれからだと思います」

2023年、脇田町に造られたCOEDO KAWAGOE F.Cのモニュメント。
2023年、脇田町に造られたCOEDO KAWAGOE F.Cのモニュメント。

2023年秋には西口に川越最高層のタワーマンションも竣工。入居者が回遊するお店が増えれば、さらに面白い街になる。あと数年積み重ねたら、川越駅改札を出て右折する人より、左折する人の方が増えたりして!

【走り出せ西口! 彩り重ねるスポット紹介】

『cafe 百福(ももふく)』長居したくなる和のくつろぎ空間

イスの座面の高さが絶妙な一卓を含め、計3卓。相席はしないので、心からくつろげる。
イスの座面の高さが絶妙な一卓を含め、計3卓。相席はしないので、心からくつろげる。

一級建築士の仲裕志さんが自ら建築した木組みの二世帯住宅の、1階部分を改装したカフェ。土壁や囲炉裏の自在鉤などが懐かしい。雑木の庭を眺めながら、手作りのケーキ300円~や、シングルオリジンにこだわるコーヒー、香り高く後味すっきりの狭山紅茶各700円を堪能できる。「益子焼や笠間焼など、なるべく手仕事の器で提供します」と仲さん。

●11:30~17:00LO、日~水休。
☎なし

『COEDO BREWERY THE RESTAURANT(コエド ブルワリー ザ レストラン)』醸造タンクを眺めて格別の一杯を

併設の醸造所で造られた新鮮なCOEDOの樽生を、計8種味わえる。中華料理をベースにしたフードメニューは「ビールに合う“香り”“醤(ジャン)”、おいしい地場の野菜などを意識しています」と総料理長の長瀬さん。
XO醤を使うガーリックシュリンプ1480円ならハウスエールM780円、小松菜焼売480円なら毬花(まりはな)M750円が好相性!

●11:00~14:30LO・16:30~21:00LO、無休。
☎049-265-7857

限定エールも醸造。併設のキオスクでは、グラウラーによる量り売りも。
限定エールも醸造。併設のキオスクでは、グラウラーによる量り売りも。

『川越東武ホテル』ぜいたくに泊まりで川越観光はいかが?

もとは東口にあったが、2020年に西口に移転開業。川越の石畳を意匠に盛り込むなど、和モダンを感じさせるホテルに生まれ変わった。
総支配人の蓑輪さんいわく「ビジネス客だけでなく観光の宿泊客にも対応できるよう、全168室のうち87室をツインとしました」。ベッドは英国王室御用達のスランバーランド社製を、全室に導入!
ダブルのシングルユース1泊9000円~。

●無休。
☎049-241-0111

ベッドサイドには、照明や空調などを一括操作できるタブレットが。
ベッドサイドには、照明や空調などを一括操作できるタブレットが。

『@FARM Style(アット ファーム スタイル)』駅前で感じる川越の大地の味覚

自家栽培の野菜や果物も直売する。入り口左手に小さなイートインスペースも。
自家栽培の野菜や果物も直売する。入り口左手に小さなイートインスペースも。

露地約3万㎡・ハウス約7800㎡と広大な畑で、減農薬にこだわり野菜・果実を自家栽培。ジュースやスムージー、ジェラート、ボリューム満点のサンドイッチで、新鮮な大地の恵みを堪能できる。秋はトマトやサツマイモが旬を迎え、サツマイモの季節限定メニューも!
トマト好きなら、濃厚な味わいのプレミアムトマトジュースS380円は絶対に飲むべし。

●10:00~18:00、無休。
☎049-265-8681

キーマカレーサンド580円。
キーマカレーサンド580円。
いちごミルクスムージー480円。
いちごミルクスムージー480円。

『パティスリーシエル』地産地消に本気な街の洋菓子店

焼きドーナツや時の鐘クッキーなど土産に◎の焼き菓子も充実。
焼きドーナツや時の鐘クッキーなど土産に◎の焼き菓子も充実。

「西口は観光地ではないので地元密着を大切にしたい」とオーナーパティシエの松本さん。はちみつは「野々山養蜂園」、卵は「井上養鶏場」、紅茶は「小野文製茶」など、川越を中心に埼玉県の食材にこだわる。
収穫期は川越産イチゴを使うショートケーキや、和栗のモンブラン540円、5種類揃うロールケーキが、地元っ子のいちおしだ。
店内には小さなカフェスペースも用意。

●10:00~19:00、木休。
☎049-265-4786

苺のショートケーキ540円。
苺のショートケーキ540円。
ミルクティーケーキ460円。
ミルクティーケーキ460円。

『手作りパン屋 Paru Paru』住宅街に潜む小さなパン屋さん

食パンは基本1~1.5斤限定(400円~)。買いたい人は要予約。
食パンは基本1~1.5斤限定(400円~)。買いたい人は要予約。

西口で暮らす店主が、自宅1階を改装して2017年に開店。駐車場から裏に回り、小窓横のインターホンを押すと店主が出てきて、並んでいるパンを買える。
風味の良い北海道産小麦キタノカオと天然酵母を用いて焼き上げる総菜・パンは、各200円前後とリーズナブル!
「作る個数は多くないので、確実に入手したい方は事前にご連絡ください!」

●10:00~16:00、土・日・月・祝休。
☎070-2662-6284

『花香楽(かから)』花屋の奥にカフェと旅行代理店?

生花店では希望に沿ったブーケを、比較的リーズナブルに作ってくれる。
生花店では希望に沿ったブーケを、比較的リーズナブルに作ってくれる。

手前にドライフラワーも扱う生花店、奥には瀟洒(しょうしゃ)なカフェと旅行代理店のデスクを併設。
「お客さまに寄り添い会話しながら、どんな旅行プランにするか、どんなブーケにするか決めていきたくて、この形態にしました」と代表の小林さん。
カフェのブラックカレー1100円やモクテル(ノンアルコールカクテル)各660円などには、エディブルフラワーが!

●11:00~19:00、月と第1・第3日休。
☎049-236-9219

『囲坊主(いぼうず)』西口のんべえに支持され10余年

埼玉の地酒・花浴陽純吟1320円ほか、希少な日本酒・焼酎も。
埼玉の地酒・花浴陽純吟1320円ほか、希少な日本酒・焼酎も。

入間の貫井園の原木シイタケや美唄のアスパラ、大宮市場仕入れの鮮魚など、全国から食材を選りすぐり。川越産枝豆100%のコロッケ660円から愛知の新仔うなぎのパリパリ焼き1320円まで、素材の味で勝負する肴が主役だ。
地元の奥様が買いに来るどて焼き330円は西口っ子のソウルフード!

●11:30~14:00・16:00~23:30(土は16:00~23:30、日は16:00~22:00)、不定休。
☎049-270-6708

取材・文=鈴木健太 撮影=井原淳一
『散歩の達人』2023年10月号より