読書以外にできることはない『本の読める店 fuzkue』[西荻窪]
「今日は本を読むぞ!」という勢いを受けとめ、長居をしてよいのか、何かオーダーしたほうがよいのかという心配もなく、ただ読書に集中できる場。そのための席料とオーダーの仕組みが確立されている。半地下の空間は外界の音が適度に遮断され、椅子とテーブルの高さも絶妙、隣席との間隔も十分。読みたい本を持ち込むもよし、店内の棚の本を手に取るもよし。甘美な時間が約束されている。
気になる一冊
『読書の日記』/阿久津隆 著
『fuzkue』を立ち上げた阿久津さんの約半年分の日記。文庫サイズ672ページの重量感。
『本の読める店 fuzkue』店舗詳細
本が生き生きと輝いている『Benchtime books』[西荻窪]
絵本や児童書から文学、人文まで、扱うジャンルは幅広く、ビニールのカバーをかけるなど一冊一冊の本を大事にしているのが伝わってくる。本の見せ方もさまざまで、額を改造した棚や古道具に無理なく本が納まり、選びやすい。店主の高田泰輔さんは、自分で本を作って売りたいという思いで店を始めた。
「ふらっと立ち寄って、めぐりあった本を買う。そのきっかけをつくれたらと思います」。
気になる一冊
『お話を運んだ馬』/I.B.シンガー 著、工藤幸雄 訳
「物語を伝え歩くという、自分がやりたいことを描いた本です」
『Benchtime books』店舗詳細
次の世代に本を残していくために。『古書かいた』[荻窪]
2022年7月にオープン。文芸から専門書まで幅広く揃えるが、画集や写真集など大判のアート本が特に充実している。全体的に価格は抑えめで、「今ある本の、次の読者を探したい」と店主の和田健さんは話す。近隣のお客さんは、さまざまなジャンルの本を持ち込み、それらが買い取られたお金で、新たに次の本を買っていくという。本が必要とされる人のところへ渡っていくのだ。
気になる一冊
『山口晃作品集』
中世と現代が錯綜した絵巻物のような作品。隅々まで精緻に描かれ、付属のルーペでじっくり見たい。
『古書かいた』店舗詳細
本をきっかけに生活を楽しむ場『BREWBOOKS』[西荻窪]
1階は書店とクラフトビールが飲める空間、2階は畳敷きの書斎でイベントスペースと、本から始まるさまざまな交流を楽しむお店だ。書店では、店主の尾崎大輔さんが選んだ小説、エッセイ、人文書などが並び、レジ周辺には「貸し棚」。棚を個人に貸し出し、おのおの自分が広めたい本を並べている。今の店の流行は短歌。気軽な歌会の「短歌部」を月イチで開催し、歌集の品揃えにも力を入れている。
気になる一冊
『西荻さんぽ』/目黒雅也 著
「知ってる街のことだから、寝っ転がってずっと読んでいたい本です。この街で売らなくては!」
『BREWBOOKS』店舗詳細
日常から離れて、ここから旅に出る『本で旅する Via』[荻窪]
店内に足を踏み入れると街のざわめきが遠のく。ひとりの来店を推奨、読書中心の時間を設定など、本を読むことを第一に考えた空間だ。壁の本棚には、世界各地の小説、歴史文化、写真集が並ぶ。店主の伊藤雅崇さんは旅行会社で添乗員の経験があり、「より深く旅行できるような本を揃えています」とのこと。
カフェメニューは月替わりで海外の料理を提供していて、味覚の旅も楽しむことができる。
気になる一冊
『コロンブスの図書館』/E.ウィルソン 著 五十嵐加奈子 訳
16世紀、コロンブスの息子がつくった図書館の物語。
『本で旅する Via』店舗詳細
本を携えて西荻・荻窪を歩くコツ
本のことだけを考えるおすすめルート
本屋さんが多い街は珍しくないが、本屋さんを巡った上で腰を据えて読む場所がある街は、なかなかない。西荻〜荻窪エリアは、本と散歩と読書の街だ。
まずは西荻窪駅の北口、新刊書店の『今野書店』から始めよう。街の本屋さんは、その地域を映す鏡だ。雑誌、新刊の平台、地元のガイド本、店内奥に進むとコミック、文庫、児童書と、店内を一周する
うちに脳と身体が西荻になじんでくる。同じ北口には、『古書音羽館』『忘日舎』『トムズボックス』、南口には『にわとり文庫』『盛林堂書房』といった古書店もある。ひと息つくには『BREWBOOKS』の冷えたビールがおすすめだ。
多かれ少なかれ、各店で収穫があったはずだ。そろそろ座りたい頃合いでもある。西荻には喫茶店の名店も多くあるが、より読書を極めた場を今回は薦めたい。駅から北へ伸びる道を10分強、『本の読める店fuzkue』だ。本しか読めないガチ読書のための店。本を買ったときのテンションそのままに、雑念を取り払って読み始めることができる。しかも、参加書店で1500円以上の買いものをしたレシート(1カ月間有効)を提示すると会計が15%オフになる「本の読める日」という企画がある。西荻〜荻窪エリアの参加書店は、『URESICA』『古書音羽館』『今野書店』『盛林堂書房』『旅の本屋のまど』『BREWBOOKS』『Benchtime books』『本屋Title』。
読書に没入したのち、青梅街道に出て荻窪方面に15分ほど歩くと『本屋Title』。西荻と荻窪をつなぐような位置にあり、『今野書店』とはまた違った空気が流れていて新たな気持ちで本と向き合える。2階のギャラリーの展示を観るのも気分が変わるだろう。荻窪駅近くの『本で旅するVia』では、再び読書に集中したり、棚に並ぶ本から異国へ思いをはせるのもいい。
駅周辺には、『古書かいた』をはじめ、掘り出し物がありそうな古書店もあるし、駅ビルには新刊書
店もある。荷物は重く、財布は軽くなって、心地良く帰途につく。
取材・文=屋敷直子 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2023年8月号より