柳久保小麦の会
柳久保小麦の生産を目的に2003年に発足。当時、農業委員会会長だった高橋重雄さんを中心に市内の農家7名ほどでスタートし、2023年現在、会員は18名。収穫や選別作業は全会員で協力して行う。Instagram(@kurume_y_komugi)で活動を公開。
柳久保小麦の草丈は130~150㎝!
市内でも育てられている他品種の農林61号と比べると、草丈の長さは1.5倍ほど。
一穂の麦から育った東京の在来種
東久留米市西端の地名「柳窪」が由来といわれる「柳久保」。嘉永4年(1851)、この地に住む奥住又右衛門が旅先で手にした一穂の麦から育った良質な小麦が始まりだ。明治時代には東京の在来種として品種登録され、栽培範囲は神奈川や埼玉にも広がったという。小麦粉としてはもちろん、特徴的な長い茎が藁(わら)ぶき屋根にも重宝されたが、倒れやすく収量が少ないため、昭和17年(1942)、国の方針で生産中止に。その後長らく忘れられたが、又右衛門の子孫・奥住和夫氏の尽力で1985年ごろ、農林水産省生物資源研究所(当時)に保存されていた種を譲り受けて復活した。2002年に市の町おこしと結びつき、特産品にすべく生産強化を計画。翌年、農家の有志で結成されたのが「柳久保小麦の会」だった。
思った以上に高い草丈、育てるのは一苦労
「市内にわずかに残る小麦農家の方に道具を借りて一から教わりながら始めました。思った以上に背が高く、若いうちに折れると台無しだし、倒れて起こせば実が落ちるし、最初は苦労しましたね」
とは、会長の高橋重雄さん。初年度の収穫量は1200㎏。製粉した柳久保小麦は、市内で小麦粉として販売されるほか、うどんやラーメン、パン、菓子など、さまざまなかたちで親しまれるように。
かりんとうを作る『中谷製菓』の社長・中谷光基さんは、
「この粉はかりんとうにした時の香ばしさが違うんですよね。卸すのは市内だけ。東久留米のものを外へ出しても価値はないと思うし、ここで長年お世話になっているので地元へ恩返ししたいんです」
と熱い。
2018年ごろからは柳久保小麦の会によるSNSでの情報発信の甲斐もあり、柳久保小麦はさらに認知度が上昇。市外でも多く求められ、今や加工する店や企業の8割が市外。2022年の収穫量は約2500㎏になったが、新規の取り引きは受けられないほどの注目ぶりなのだ。
「でも、スタートして20年、会員はみな年を取りました。今はどのように後継者へつなぐか、継続のための体制作りが会として一番の課題です。地域で生まれたものだから、できれば地域で残したい」
と高橋さん。救いは、くだんのSNSも手がける30代の若手会員の存在だ。その一人、横山治子さんも言う。
「一度は生産が途絶えた、なくなったかもしれない貴重な小麦。生産量を増やすことはなかなか難しいけれど、せっかく認知もされてきたので受け継いで行きたいです」。
東京で登録された唯一の小麦品種、柳久保。病気に強く、ほぼ農薬不使用で育てられる点も頼もしい。メイド・イン・東久留米の誇るべき小麦を、私たちも大切に味わいながら見守りたい。
【柳久保小麦を東久留米で食べるなら】
『中谷製菓』柳久保かりんとう
さっくり軽やか、おやつの定番!
大正8年(1919)に創業し、1966年より市内に工場を構えるかりんとうメーカー『中谷製菓』が2007年に発売。生地は50%強の柳久保小麦に40数%の強力系の小麦粉を配合し発酵。糖蜜は品よくかかり、軽やかな食感だ。
工場直売所のほか市内の個人店やスーパーで販売している。
『Cafe てん』柳久保小麦うどん
市内で唯一、1日5食の貴重な手打ち!
市役所で開店するなら市の特産品を食材にしたい、と2018年のオープン時よりメニューに。
柳久保小麦を使った手打ちうどんは、すいとんも思わせるようなむちむちっとした噛み応えがくせになる。水・木・金のランチ1日5食限定なので、逃がしたくない人はお早めに。
「JA 東京みらい東久留米 新鮮館」や『野崎書林』でも、柳久保小麦商品と多く出合えます!
取材・文=下里康子 撮影=加藤熊三、高野尚人 収穫時写真提供=柳久保小麦の会
『散歩の達人』2023年3月号より