歴史・自然スポットにグルメまで。趣深い宇佐
大分空港から車で1時間弱、大分県の北部、国東(くにさき)半島の付け根に位置する宇佐市。海辺の町から山深いエリアまで有し、絶景・歴史を楽しんだり、ご当地グルメを堪能できたりする場所だ。
宇佐出身の著名人といえば、大横綱・双葉山があげられる。宇佐市下庄にある記念館『双葉の里』では、愛用の化粧まわしなど約80点の貴重な資料を展示し、偉大な業績を残した双葉山の人柄や生涯を紹介している。
全国八幡社の総本宮・宇佐神宮
全国に4万社ある八幡様の総本宮である宇佐神宮は、大分県内屈指のパワースポットだ。約15万坪あまり(東京ドーム10個分相当)の広大な敷地には、国宝に指定されている本殿をはじめ、由緒ある見どころが点在している。また、神仏習合発祥の地ともいわれている。
特に正月には、全国から訪れる初詣客で大変にぎわう。
宇佐神宮に向かう途中、近づくにつれ朱塗りの橋がいくつも見受けられることに気づいた。
宇佐神宮にはまるで社殿のように桧皮葺(ひわだぶき)・唐破風(からはふ)の屋根に覆われた豪華な橋、呉橋が架かっている(県指定有形文化財)。
宇佐の橋で思い出されるのは“石橋の貴婦人”と称される鳥居橋。すらりと伸びた橋脚と5連アーチが美しい橋で、宇佐市院内町にある。
同町は江戸末期から昭和の初めに作られた75基の石橋が現存し、その数は日本一ともいわれる。
少し話がそれた。宇佐神宮に到着し、まずは表参道の仲見世商店街を歩いていく。取材で通りかかった際は、時間帯の関係でまだ開いていないお店が多かったが、みやげ品店、食事処、茶屋などが軒を連ね、昭和レトロな雰囲気が漂っていた。
幸せを招く夫婦石
敷地内に足を踏み入れ、まず驚くのはその広さだ。先ほど約15万坪あまりとその広さについて触れたが、参道の幅も広く、木々が左右に居並び、奥はどこまでも通じていきそうだった。日頃味わえないような、清澄な空気に心が安らぐ。
宇佐神宮の権禰宜、山本宗龍さんに境内を案内していただいた。
本殿のある上宮へ向かう。昔から「下宮参らにゃ片参り」といわれているそうで、宇佐神宮では上宮をお参りした後に下宮へお参りする習慣がある。
上宮へ続く石段の途中で、山本さんが「夫婦石」の存在を教えてくれた。よく見ると、三角形の石が寄り添うように並んでいる! 夫婦やカップルなら手をつないで一緒に、1人なら両足で踏むと幸せになれるという。筆者は両足でしっかり踏んできたので、これからいいことがあるかもしれない。
上宮にお参り
上宮に到着した。南中楼門に囲まれた内側に本殿(国宝)が鎮座している。本殿に向かって左から一之御殿、二之御殿、三之御殿と並び、数字の順で参拝していく。参拝には「二礼、四拍手、一礼」という特別な参拝法が古来から受け継がれているので、それに倣おう。
脇には推定樹齢800年といわれる御神木の大楠が伸びやかにたたずんでいる。山本さん曰く、EXILE のUSAさんや大分出身の指原莉乃さんがヒット祈願し飛躍につながったことから、パワースポットとして注目を集めているそうだ。パワーを授かろうと、手で触れる人が少なくないらしい。
最後に立ち寄ったのは、参道から少し離れた人目につかない場所にたたずむ大小2体のお地蔵様。「願掛け地蔵」と言い、誰にも見られずに参拝することで、一生に一度だけの願いが叶うそうだ。
「呉橋」と「弥勒寺跡」付近にあるので、ぜひ探して、お願い事をしてみよう。
「三和酒類」の新しい拠点『辛島 虚空乃蔵(からしま こくうのくら)』
1958年、自然の恵み豊かな大分宇佐の地で、日本酒の共同瓶詰会社として生まれた「三和酒類」。麦焼酎「いいちこ」が特にメジャーではないだろうか。
その本社跡地が、原点である日本酒と、初挑戦となる発泡酒を看板に『辛島 虚空乃蔵』として生まれ変わった。
『辛島 虚空乃蔵』には「米の蔵」と「麦の蔵」という2つの蔵がある。
日本酒づくりの営み、日本酒文化の奥深さを伝えるのが「米の蔵」だ。こちらでは日本酒づくり体験や、「発酵」を中心に多彩なテーマで展開するワークショップを楽しめる。また、「一角 Bar」では、この蔵でつくられる「生酒」のほか、「三和酒類」の日本酒がきき酒できる。
一方、宇佐で育てられた大麦「ニシノホシ」を使い、発泡酒づくりに初めて挑んでいるのが「麦の蔵」だ。ガラス張りの醸造場を眺めながら蔵出し発泡酒の美味しさを味わえ、地域店とコラボしたコーヒーやスイーツ、地元料理も堪能できる場所だ。
「米の蔵」では日本酒づくりの精米・洗米からボトリングまで行っている。お米は地元で獲れた「ヒノヒカリ」を用い、水は宇佐の地下水を使用している。宇佐の地下水は適度にミネラルが含まれ、酒づくりに適したやや硬水とのことだ。
小さな酒蔵ゆえに大量生産はできないが、品質にこだわってつくっていると、『辛島 虚空乃蔵』の藤田善也さんが話してくれた。また、大量生産ではないからこそ、かえって新しいことにチャレンジ(ワインのような酸味の強い日本酒をつくる、など)しやすいという側面もあるそうだ。
試飲した「和香牡丹(わかぼたん) 輪奏(りんそう) 純米スパークリング」は飲み口爽やかで、日本酒ビギナーの方でも飲みやすい口当たりだと感じた。
「麦の蔵」にも立ち寄り、飲食スペースでお酒を味わった。
ソムリエでもある『辛島 虚空乃蔵』の内野隆之さんにおすすめを伺い、注文した。
クラフトビールは飲み口爽やかでほどよい苦さ、サワーはかぼすが口の中で広がり、飲み進んだ。味わい深さに酔いしれた。
『からあげ食堂 天』で宇佐のご当地グルメに舌鼓
大分といえばとり天が有名だが、実は宇佐ではからあげが名物だ。
『辛島 虚空乃蔵』のほど近く、『からあげ食堂 天』でご当地の味を食すことができる。
チキン南蛮、手羽先、手羽元などのメニューに目移りするが、骨なしのからあげ定食をオーダーした。
宇佐のからあげは「中津からあげ」よりも歴史が古く、宇佐は発祥の地といわれている。醤油やニンニク、ショウガなどがベースとなったタレに鶏肉を漬け込み、下味をしっかりとつけて揚げている。宇佐市内には、からあげのみを販売する「からあげ専門店」が30店舗以上ある。
注文した骨なしからあげ定食が運ばれてきた。早速、お目当てのからあげを一口。カリカリの衣に、お肉はジューシーでご飯が進む! 宇佐に足を運んだ際は、からあげをぜひお試しあれ。
『からあげ食堂 天』
・大分県宇佐市辛島34-2
・営業時間:11:00~21:00
・定休日:水
・0978-34-0410
ここも立ち寄りたい!宇佐のマチュピチュ
南米ペルーの世界遺産「マチュピチュ」に似た景観が見られるスポットとして紹介したいのが、「西椎屋の景(にししいやのけい)」だ。展望所から眼下に広がる円錐形の小山と棚田が、確かにマチュピチュを彷彿とさせて、絶景だ。
売店ではインカコーラ400円が販売されている。一度飲んだらまた飲みたくなる、不思議な味だ。
神秘的な絶景スポット、宇佐のマチュピチュにもぜひ足を伸ばしてみよう。
「西椎屋の景」
・大分県宇佐市院内町西椎屋
・宇佐駅から車で約40分
・定休日:無
・0978-42-5111
・無料
九州の小京都。レトロな街並みが残る杵築(きつき)
杵築市は大分県の北東部、国東半島の南端部に位置する市だ。別府・湯布院・大分空港から車で約30分。海に面しているエリア、山や温泉もあり、自然を満喫できるスポットから、杵築の風土で育まれた特産品やグルメなど、さまざまな魅力がある。
次に紹介するのは、杵築城とその城下町。杵築城からは海を見渡せ、四国・愛媛を望むこともできる。
城下町には古くから続く商家、武家屋敷が面影を残し、また、南北の台地に築かれた坂が特徴的で、映画やドラマのロケ地としてもよく使われる景観だ。杵築でレトロな街の散策をぜひ楽しんでほしい。
天守から海を望める杵築城
杵築城は応永元年(1394)に、木付頼直が木付城として築城。木付氏が17代にわたり治めた後、前田氏、杉原氏、細川氏、小笠原氏と続き、正保2年(1645)に松平英親が城主となり、明治まで松平氏が治めた。ちなみに、松平英親は徳川家康の玄孫にあたる。
正徳2年(1712)には、6代将軍徳川家宣からの朱印状に「木付」と書くところを「杵築」と書かれたことから、幕府に伺いを立て、木付藩から杵築藩となった歴史があるという。
現在の城は1970年に築かれた。
2020年、杵築城跡は国の史跡に指定された。
杵築城は日本で1番小さい城ともいわれているそうだが、ビュースポットしては申し分ない。城内には、杵築藩主松平候使用の具足・陣羽織や、石田正澄(石田三成の兄)着用の兜などが展示されている。
1970年の杵築城復元の際には、市民や企業などから集まった寄付金約5500万円が活用された。戦後復興の象徴として天守閣復興が全国的ブームとなる中、市には観光の起爆剤にしたいという思いがあった。
杵築城のほど近くには青筵(せいえん)神社という、七島藺(しちとうい)の普及に功績のあった人々を祀る神社もある。お城と合わせて寄ってみてもいいだろう。
地形を生かして造られた杵築の城下町
昔ながらの商家が通りにいくつも建ち、南北の台地には武家屋敷の面影が今も残っている。
高低差を生かした街の造りに目を奪われた。石段に石垣、土塀……江戸時代の風情が漂うような景観で、タイムスリップ散歩を満喫できる。
このあたりほど、着物が似合うところもないだろう。着物をレンタルしているお店もあるので、着物散歩もおすすめだ。
最たる撮影スポットは、南北それぞれに伸びる「塩屋(志保屋)の坂」と「酢屋の坂」。『蜩ノ記』、『居眠り磐音』、『男はつらいよ』など、映画やドラマのロケ地にしばしば選ばれるほど、美しく目に映える。また、この坂の近辺だけ電柱が地下に埋められているため、よりレトロ感のある写真を撮れるようになっている。
江戸時代も今日と変わらない景色を、人々は見ていたのではないだろうか。
勘定場の坂、という坂は53段あり、24段目には富士山の形をした石を見つけることができる。24(ふじ)と富士、不死をかけた長寿のパワースポットで、触れると御利益があるという。
創業は享保年間。『お茶のとまや』
その風情たっぷりの外観に惹かれ立ち寄ったのは、お茶とお菓子の販売、喫茶、体験教室などを手がけている『とまや』。なんと、創業は江戸時代の享保年間で、10代約280年の歴史を持っている。
伝統的な町家の建築様式で、2018年に杵築市で初めて国の登録有形文化財となった。
喫茶スペースでは、玉露や抹茶を落雁などのお菓子とともにいただける。
『お茶のとまや』
・大分県杵築市新町385
・TEL:0978-62-2139
・営業時間:9:00~19:00
・定休日:1月1日
大分杵築で80年。伝統の味を届ける『松山堂』
大正時代から杵築で菓子作りを営んでいる『松山堂』。原材料にこだわった和菓子、こだわり卵を使用した洋菓子を堪能できる。
春秋など過ごしやすい時期には、風情のある屋外の席でいただけば、杵築の城下町を眺めつつ、『松山堂』の甘味を楽しめるだろう。
「綾部味噌」の一年合わせ味噌の味わいがとてもいいアクセントになっている「みそまんじゅう」(左)。右は、餡にしその葉を練り込んだ「しそ好みまんじゅう」。しその風味が食べ終わった後もほのかに残った。
『松山堂』
・大分県杵築市大字杵築173-1
・0978-62-2223
・営業時間:8:30~18:30
・定休日:不定
・杵築駅から車で約15分
取材・文・撮影=阿部修作(さんたつ編集部)