童話のような抽象絵画世界に引き込まれる

《3本の菩提樹》 1908年 油彩,板 33.0×41.0cm 『石橋財団アーティゾン美術館』蔵
《3本の菩提樹》 1908年 油彩,板 33.0×41.0cm 『石橋財団アーティゾン美術館』蔵

「抽象絵画」の創始者のひとりとして知られるカンディンスキー。ロシアに生まれ、活動期のほとんどをドイツやフランスという異国で過ごしたカンディンスキーは、事物の外面的な姿に頼らず、世界に感応する心の震えをそのまま映し出す絵画を生み出した。色を聴くように、あるいは音を視るように、自らの全てと世界の全てを響き合わせる。そうした彼の取り組みは、ひとつの感受性がさまざまなメディアを複合する、現代の多次元的な表現を先駆するものでもあった。

展覧会担当者は、「『世界は鳴りひびく。世界とは、精神にはたらきかけるものたちが織りなす、ひとつのコスモスである』というカンディンスキーの言葉があります。世界に散りばめられたものたちが引き合い、響き合う。ワシリー・カンディンスキーのいわゆる『抽象絵画』では、こちらのものがあちらとつながり、あちらのものはそちらをめぐって再びこちらへ戻る、といった具合に、時間をかけてさまよう視線の軌跡が心地よい音楽のように体験されます。絵の中から響いては空間に溶け込んでいく、甘やかに澄んだ光の中を歩いてみませんか」と見どころを語る。

作品を通してカンディンスキーが見たものや感じたものと共鳴する、心地よいひとときが待っている。

《活気ある休息》 1923年カンヴァス,油彩 58.5×70.2cm 『笠間日動美術館』蔵
《活気ある休息》 1923年カンヴァス,油彩 58.5×70.2cm 『笠間日動美術館』蔵

日本各地のコレクションのみで体現された濃厚な世界!

《浮遊》 1927年 厚紙,油彩 45.9×54.0cm 『宇都宮美術館』蔵
《浮遊》 1927年 厚紙,油彩 45.9×54.0cm 『宇都宮美術館』蔵

「絵画にできること」を決定的に拡張したカンディンスキー。美術史上の重要性ゆえ、日本の多くの美術館がその作品を収蔵した。いまや国内にある作品だけで、カンディンスキーの画業を通観できるようにまでなったという。本展はそれらが集結する初の試みでもある。

中でも画家自身が「童話のような」「新しいロマンティシズム」と呼んだ、深い華やぎに満ちた甘やかにして晴朗な響きの作品世界を堪能できるのも見どころだ。さらに、水墨画や草書など東洋の美学に通じていたカンディンスキー。その作品や著作に日本の美術作家や美学者たちも1910年という早い時期から敏感に反応していた。そうした受容の様相が最新の研究をふまえて紹介されている点も興味深い。

抽象絵画の一人者と日本美術界との関係性を掘り下げ、日本での反響をも徹底的に検証した本展。カンディンスキー作品の真髄に改めてふれる好機となりそうだ。

《生き生きとした白》 1934年 カンヴァス,油彩 60.0×73.0cm 『愛媛県美術館』蔵
《生き生きとした白》 1934年 カンヴァス,油彩 60.0×73.0cm 『愛媛県美術館』蔵

開催概要

「カンディンスキー 世界は鳴りひびく 日本のコレクションでたどる画業と反響」

開催期間:2026年7月19日(日)~9月3日(木)
開催時間:9:30~17:00
休館日:月
会場:宇都宮美術館(栃木県宇都宮市長岡町1077)
アクセス:JR宇都宮線宇都宮駅からバス25分
入場料:一般1200円、高校・大学生1000円、小・中学生800円
※身体障がい者手帳、療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳をお持ちの人とその介添え者(1名)は無料。宇都宮市在学または在住の高校生以下は無料。

【問い合わせ先】
宇都宮美術館☏028-643-0100
公式HP:https://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html

 

取材・文=前田真紀 画像提供=宇都宮美術館