自家焙煎&ネルの老舗でスペシャルティの味わいを『十一房珈琲店』【銀座】

カウンター越しに望む抽出風景も老舗の魅力。
カウンター越しに望む抽出風景も老舗の魅力。

長い一枚板のカウンター、年季の入った革張りの椅子、4人以上での来店不可で静かに過ごす大人の店。有楽橋交差点にほど近い『十一房珈琲店』は1978年に創業した老舗だ。当初は柳通りの地下にあったそうだが、ここに移ってからも約30年になる。

壁際には焙煎豆の瓶がずらり。昔ながらのブレンドやストレートだけでなく、昨今は時季に応じた個性的なシングルオリジンも扱っている。
壁際には焙煎豆の瓶がずらり。昔ながらのブレンドやストレートだけでなく、昨今は時季に応じた個性的なシングルオリジンも扱っている。

「スペシャルティを深めに焼いてネルで落とすって、あまりないでしょう?」と、店主の長谷川能一(よしかず)さん。もとは常連客でその後は珈琲店の仕事に就き、時を経て、伝統ある『十一房』をなくしたくない一心で引き継いだ。

コーヒーはネルドリップで1杯ずつ丁寧に抽出する。コーヒーはブレンド920円~。
コーヒーはネルドリップで1杯ずつ丁寧に抽出する。コーヒーはブレンド920円~。

豆は昔ながらのブレンド各種やストレートを揃える一方で、今の時代に即したスペシャルティコーヒーも折々の期間限定で扱っているから面白い。

焙煎は「ブタ釜」の通称で愛される古風な焙煎機を使用。深くても甘みが出やすいそうで、これでスペシャルティを老舗ならではの味わいに仕上げている。実は筆者も四半世紀前、この界隈に勤めていた。長谷川さんの「珈琲店が変わらずにあるって大切ですよね」というひと言に、深く同意の念を抱いた。

外堀通りに面した雑居ビルの1階。
外堀通りに面した雑居ビルの1階。
スタッフの方が空いた時間にネルを手縫いしていた。
スタッフの方が空いた時間にネルを手縫いしていた。
入り口脇にガラス張りの焙煎室がある。店主の長谷川さんが通称「ブタ釜」で深めに焙煎。
入り口脇にガラス張りの焙煎室がある。店主の長谷川さんが通称「ブタ釜」で深めに焙煎。

『十一房珈琲店』店舗詳細

シングルオリジンの奥深さと日本の喫茶文化を世界に発信『GLITCH COFFEE & ROASTERS』【神保町】

COLOMBIA HUILA LA LOMA1200円。数回に分けて飲めるので温度による味の変化も楽しめる。
COLOMBIA HUILA LA LOMA1200円。数回に分けて飲めるので温度による味の変化も楽しめる。

神保町の交差点の一角に立つビルの1階。バリスタ世界チャンピオンの店『Paul Bassett』で経験を積んだオーナーの鈴木清和さんが、外国人に日本の喫茶文化を伝えたいと2015年に開いた。今や客の8割が外国人だ。

バリスタがコーヒーを淹れる様子が見られるカウンターは特等席。
バリスタがコーヒーを淹れる様子が見られるカウンターは特等席。

豆はすべてシングルオリジンで、味わいが引き立つ浅煎り。カウンターに並ぶのは15種類。一般的な精選の「トラディショナル」、新たな精選方法を用いた個性的な「イノベーション」、珍しい品種の「ハード トゥー ファインド」、品評会やオークションロットの豆「コンペティション」の4つにカテゴライズされ、料金は1杯800~9000円程度と幅広い。

海外からこの店を目当てにやってくる人も多い。
海外からこの店を目当てにやってくる人も多い。

「どうしたら本物のコーヒーを知ってもらえるかを考えた結果です。産地や品種、精選方法など、さまざまな違いを知ってもらえたら」と鈴木さん。コーヒーに添えられるテイストカードも、味わいを確認して自分の好みを見つけてほしいとの思いから。奥深いコーヒーの世界を体験し、未知の味との出合いも期待できる一軒だ。

「コーヒーは自分の人生を体現するもの」と話すオーナーの鈴木清和さん。大きな焙煎機は存在感たっぷり。
「コーヒーは自分の人生を体現するもの」と話すオーナーの鈴木清和さん。大きな焙煎機は存在感たっぷり。
店には15種類ものコーヒー豆が並ぶ。
店には15種類ものコーヒー豆が並ぶ。
ハンドドリップではパラゴンを使う。
ハンドドリップではパラゴンを使う。

『GLITCH COFFEE & ROASTERS』店舗詳細

ラテアート大会も主催する地域密着型『Alternative Coffee Works(オルタナティブ コーヒー ワークス)』【大久保】

ハンドドリップ600円~。数量限定ロータスチーズケーキは550円。
ハンドドリップ600円~。数量限定ロータスチーズケーキは550円。

店主の泉谷謙人さんは大手コーヒーチェーンでキャリアを積み、バリスタの育成や新店舗の立ち上げなどに従事。独立にあたり一から焙煎技術を学び、2019年、新宿淀橋市場の隣に店を開いた。

特徴的な外観が目印。
特徴的な外観が目印。

「地元のお客さんも多く、スペシャルティコーヒーだからと敷居を高くしたくはない」と泉谷さん。ハンドドリップで提供する4種のシングルオリジンは、飲み慣れない人でも挑戦しやすいよう、ブラジルやインドネシアなど酸が控えめの豆も意識的にラインアップに加えているという。

開催間近の主催大会で贈られるトロフィー。
開催間近の主催大会で贈られるトロフィー。

一方でラテアート大会への参加経験も豊富な泉谷さん。現在では「Alternative Rookies」「Ultimate Battle」と年2回のラテアート大会を主催し、その界隈でも名が知られるようになった。

「大会を通じてコミュニティがさらに広がり、自身にとっても得るものが大きい」と泉谷さん。シグネチャーのラテは中煎りまたは深煎りのブレンドからお好みで。妻の友貴さん手製のベイクドスイーツとともに堪能しよう。

オーナーバリスタの泉谷さん。焙煎も担当。
オーナーバリスタの泉谷さん。焙煎も担当。
カフェラテ700円。豆はエスプレッソ専用のグラインダーで挽き分ける。
カフェラテ700円。豆はエスプレッソ専用のグラインダーで挽き分ける。
築60年超の古民家をリノベ。
築60年超の古民家をリノベ。

『Alternative Coffee Works』店舗詳細

クリーンカップを追求するシングルオリジン専門店『THE ROASTERY BY NOZY COFFEE(ザ ロースタリー バイ ノージー コーヒー)』【明治神宮前】

入り口正面のアイランドカウンター。
入り口正面のアイランドカウンター。

トレンドの移り変わりが激しいキャットストリートに店を構えて早くも10年以上が経つ。開店前から店先に客が列をなす光景は、この通りの風物詩となっている。「スペシャルティコーヒーをブームで終わらせるのではなく、カルチャーとして日本に定着させたいという思いでやってきました」とファウンダーの能城政隆さん。

マシンはTEMPESTAが2台稼働。
マシンはTEMPESTAが2台稼働。

ブレンドを扱わず、あえてシングルオリジン専門を貫くのは、「コーヒーのおいしさそのものを知ってもらいたい」と考える能城さんの誠実さの表れといえる。8種の豆から選べるシングルオリジンは主にフレンチプレスで提供。エスプレッソドリンクは2種類の豆から選べるが、うちひとつはCOEという国際品評会で入賞した高品質な豆も頻繁に扱う。フルートグラスに注がれるのは芳(かぐわ)しきエスプレッソ。そのたたずまいに自然と居住まいを正してしまう。

エスプレッソドリンク用の豆を店頭の黒板で紹介。
エスプレッソドリンク用の豆を店頭の黒板で紹介。

訪れる客は国際色豊か。海外からのリピーターも多いという事実は、文化の隔たりを超越したコーヒーのおいしさがここにあることの何よりの証しだろう。

ファウンダーの能城さん。2010年、三宿に小さな店舗を開いたところからその歴史は始まった。
ファウンダーの能城さん。2010年、三宿に小さな店舗を開いたところからその歴史は始まった。
フルートグラスで提供されるエスプレッソ。炭酸水を添えて。
フルートグラスで提供されるエスプレッソ。炭酸水を添えて。
ハンドドリップの注文や豆の購入ができるビーンズカウンター。
ハンドドリップの注文や豆の購入ができるビーンズカウンター。

『THE ROASTERY BY NOZY COFFEE』店舗詳細

フードとのペアリングも魅力の路地裏をにぎわす人気店『WOODBERRY COFFEE ROASTERS(ウッドベリー コーヒー ロースターズ) 渋谷店』【渋谷】

ハンドドリップコーヒーは自身でカップに注ぎ、温度変化を楽しもう。
ハンドドリップコーヒーは自身でカップに注ぎ、温度変化を楽しもう。

創業の原点である用賀本店から変わらず、地域に溶け込む店づくりを得意とする同ブランド。氷川神社の参道に面する渋谷店もまた、都会の喧騒(けんそう)を離れるには絶好のロケーションにある。

有機野菜、自家製カンパーニュ使用のエッグベネディクト1890円。
有機野菜、自家製カンパーニュ使用のエッグベネディクト1890円。

「ドリンクとフードのペアリングを楽しめるのが渋谷店の特徴です」と渋谷店マネージャーの兼坂貴人さん。ブレッドは系列の『WOODBERRY BAKERY』のものを使用。見た目も味も満足度が高く、当然のように各素材に気を使っているのも好印象だ。もちろん主役のコーヒーに対してもその真摯(しんし)な姿勢は揺るぎない。

カウンター席はバリスタとも話しやすい。
カウンター席はバリスタとも話しやすい。

荻窪店ですべて自社焙煎し、取り扱うシングルオリジンは常時10種ほど。高品質な生豆を買い付けるだけでなく、ダイレクトトレードで生産者へ利益を還元する取り組みも行っている。「店では豆の情報カードやフリーマガジンもお渡ししているので、ぜひ興味を持ってもらえたら」と兼坂さん。

経営理念は「よりよい世界を作るために」。フレンドリーな空気感とは裏腹に、熱い思いに満ちた名店だ。

全店舗の中でも渋谷店の人気は高く、平日も客足が絶えない。
全店舗の中でも渋谷店の人気は高く、平日も客足が絶えない。
海外旅行者や女性客などでにぎわう。食事利用の客も多い。
海外旅行者や女性客などでにぎわう。食事利用の客も多い。
詳細な情報とともに販売用の豆が並ぶ。自社制作のフリーペーパーも頒布している。
詳細な情報とともに販売用の豆が並ぶ。自社制作のフリーペーパーも頒布している。

『WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店』店舗詳細

池袋の先駆けとなったスペシャルティコーヒー専門店『COFFEE VALLEY』【池袋】

3種のコーヒーをデミタスカップで味わえる「3PEAKS」700円。
3種のコーヒーをデミタスカップで味わえる「3PEAKS」700円。

開業は2014年。「うちが池袋初のスペシャルティコーヒー店みたいです」とはオーナーバリスタの小池司さん。当時の池袋界隈では浅煎りのコーヒーはなじみのない存在だったという。

オーナーの小池さん。
オーナーの小池さん。

この新しい文化を地域にどう根付かせるか。

小池さんの工夫のひとつが現在も続く看板メニューの「3PEAKS」だ。エスプレッソ、マキアート、ドリップ3種の飲み比べでコーヒーの多様性を知るきっかけを作り出した。一方でメニュー構成は大きく変えず、常連客に寄り添う店作りを心掛ける。エスプレッソドリンクの豆はシングルオリジンとブレンドから1種類ずつを日替わりで用意。ハンドドリップの場合は個性や焙煎度合いに幅をもたせた15種類のシングルオリジンと2種のブレンドから選ぶことができる。

ハンドドリップ以外は本日のコーヒーから注文。
ハンドドリップ以外は本日のコーヒーから注文。

客席は3フロアあり、その日の気分で使い分けるといった楽しみ方も。洗練された印象の1・2階に対し、焙煎機が設置された3階はガレージのようなたたずまい。タイミングが合えば焙煎したての空間でコーヒーを堪能できる。

焙煎機の横でコーヒーを楽しむことも。
焙煎機の横でコーヒーを楽しむことも。
注文後に各々お好きな席へ。1階にはカウンター席もある。
注文後に各々お好きな席へ。1階にはカウンター席もある。
小さな3階建てのビルに入居。駅近ながら落ち着いた路地に面する。
小さな3階建てのビルに入居。駅近ながら落ち着いた路地に面する。

『COFFEE VALLEY』店舗詳細

文=高橋敦史、木村理恵子、永島岳志 撮影=高橋敦史、富貴塚悠太、永島岳志

MOOK『散歩の達人 東京スペシャルティ珈琲時間』より