自家焙煎&ネルの老舗でスペシャルティの味わいを『十一房珈琲店』【銀座】
長い一枚板のカウンター、年季の入った革張りの椅子、4人以上での来店不可で静かに過ごす大人の店。有楽橋交差点にほど近い『十一房珈琲店』は1978年に創業した老舗だ。当初は柳通りの地下にあったそうだが、ここに移ってからも約30年になる。
「スペシャルティを深めに焼いてネルで落とすって、あまりないでしょう?」と、店主の長谷川能一(よしかず)さん。もとは常連客でその後は珈琲店の仕事に就き、時を経て、伝統ある『十一房』をなくしたくない一心で引き継いだ。
豆は昔ながらのブレンド各種やストレートを揃える一方で、今の時代に即したスペシャルティコーヒーも折々の期間限定で扱っているから面白い。
焙煎は「ブタ釜」の通称で愛される古風な焙煎機を使用。深くても甘みが出やすいそうで、これでスペシャルティを老舗ならではの味わいに仕上げている。実は筆者も四半世紀前、この界隈に勤めていた。長谷川さんの「珈琲店が変わらずにあるって大切ですよね」というひと言に、深く同意の念を抱いた。
『十一房珈琲店』店舗詳細
シングルオリジンの奥深さと日本の喫茶文化を世界に発信『GLITCH COFFEE & ROASTERS』【神保町】
神保町の交差点の一角に立つビルの1階。バリスタ世界チャンピオンの店『Paul Bassett』で経験を積んだオーナーの鈴木清和さんが、外国人に日本の喫茶文化を伝えたいと2015年に開いた。今や客の8割が外国人だ。
豆はすべてシングルオリジンで、味わいが引き立つ浅煎り。カウンターに並ぶのは15種類。一般的な精選の「トラディショナル」、新たな精選方法を用いた個性的な「イノベーション」、珍しい品種の「ハード トゥー ファインド」、品評会やオークションロットの豆「コンペティション」の4つにカテゴライズされ、料金は1杯800~9000円程度と幅広い。
「どうしたら本物のコーヒーを知ってもらえるかを考えた結果です。産地や品種、精選方法など、さまざまな違いを知ってもらえたら」と鈴木さん。コーヒーに添えられるテイストカードも、味わいを確認して自分の好みを見つけてほしいとの思いから。奥深いコーヒーの世界を体験し、未知の味との出合いも期待できる一軒だ。
『GLITCH COFFEE & ROASTERS』店舗詳細
ラテアート大会も主催する地域密着型『Alternative Coffee Works(オルタナティブ コーヒー ワークス)』【大久保】
店主の泉谷謙人さんは大手コーヒーチェーンでキャリアを積み、バリスタの育成や新店舗の立ち上げなどに従事。独立にあたり一から焙煎技術を学び、2019年、新宿淀橋市場の隣に店を開いた。
「地元のお客さんも多く、スペシャルティコーヒーだからと敷居を高くしたくはない」と泉谷さん。ハンドドリップで提供する4種のシングルオリジンは、飲み慣れない人でも挑戦しやすいよう、ブラジルやインドネシアなど酸が控えめの豆も意識的にラインアップに加えているという。
一方でラテアート大会への参加経験も豊富な泉谷さん。現在では「Alternative Rookies」「Ultimate Battle」と年2回のラテアート大会を主催し、その界隈でも名が知られるようになった。
「大会を通じてコミュニティがさらに広がり、自身にとっても得るものが大きい」と泉谷さん。シグネチャーのラテは中煎りまたは深煎りのブレンドからお好みで。妻の友貴さん手製のベイクドスイーツとともに堪能しよう。
『Alternative Coffee Works』店舗詳細
クリーンカップを追求するシングルオリジン専門店『THE ROASTERY BY NOZY COFFEE(ザ ロースタリー バイ ノージー コーヒー)』【明治神宮前】
トレンドの移り変わりが激しいキャットストリートに店を構えて早くも10年以上が経つ。開店前から店先に客が列をなす光景は、この通りの風物詩となっている。「スペシャルティコーヒーをブームで終わらせるのではなく、カルチャーとして日本に定着させたいという思いでやってきました」とファウンダーの能城政隆さん。
ブレンドを扱わず、あえてシングルオリジン専門を貫くのは、「コーヒーのおいしさそのものを知ってもらいたい」と考える能城さんの誠実さの表れといえる。8種の豆から選べるシングルオリジンは主にフレンチプレスで提供。エスプレッソドリンクは2種類の豆から選べるが、うちひとつはCOEという国際品評会で入賞した高品質な豆も頻繁に扱う。フルートグラスに注がれるのは芳(かぐわ)しきエスプレッソ。そのたたずまいに自然と居住まいを正してしまう。
訪れる客は国際色豊か。海外からのリピーターも多いという事実は、文化の隔たりを超越したコーヒーのおいしさがここにあることの何よりの証しだろう。
『THE ROASTERY BY NOZY COFFEE』店舗詳細
フードとのペアリングも魅力の路地裏をにぎわす人気店『WOODBERRY COFFEE ROASTERS(ウッドベリー コーヒー ロースターズ) 渋谷店』【渋谷】
創業の原点である用賀本店から変わらず、地域に溶け込む店づくりを得意とする同ブランド。氷川神社の参道に面する渋谷店もまた、都会の喧騒(けんそう)を離れるには絶好のロケーションにある。
「ドリンクとフードのペアリングを楽しめるのが渋谷店の特徴です」と渋谷店マネージャーの兼坂貴人さん。ブレッドは系列の『WOODBERRY BAKERY』のものを使用。見た目も味も満足度が高く、当然のように各素材に気を使っているのも好印象だ。もちろん主役のコーヒーに対してもその真摯(しんし)な姿勢は揺るぎない。
荻窪店ですべて自社焙煎し、取り扱うシングルオリジンは常時10種ほど。高品質な生豆を買い付けるだけでなく、ダイレクトトレードで生産者へ利益を還元する取り組みも行っている。「店では豆の情報カードやフリーマガジンもお渡ししているので、ぜひ興味を持ってもらえたら」と兼坂さん。
経営理念は「よりよい世界を作るために」。フレンドリーな空気感とは裏腹に、熱い思いに満ちた名店だ。
『WOODBERRY COFFEE ROASTERS 渋谷店』店舗詳細
池袋の先駆けとなったスペシャルティコーヒー専門店『COFFEE VALLEY』【池袋】
開業は2014年。「うちが池袋初のスペシャルティコーヒー店みたいです」とはオーナーバリスタの小池司さん。当時の池袋界隈では浅煎りのコーヒーはなじみのない存在だったという。
この新しい文化を地域にどう根付かせるか。
小池さんの工夫のひとつが現在も続く看板メニューの「3PEAKS」だ。エスプレッソ、マキアート、ドリップ3種の飲み比べでコーヒーの多様性を知るきっかけを作り出した。一方でメニュー構成は大きく変えず、常連客に寄り添う店作りを心掛ける。エスプレッソドリンクの豆はシングルオリジンとブレンドから1種類ずつを日替わりで用意。ハンドドリップの場合は個性や焙煎度合いに幅をもたせた15種類のシングルオリジンと2種のブレンドから選ぶことができる。
客席は3フロアあり、その日の気分で使い分けるといった楽しみ方も。洗練された印象の1・2階に対し、焙煎機が設置された3階はガレージのようなたたずまい。タイミングが合えば焙煎したての空間でコーヒーを堪能できる。
『COFFEE VALLEY』店舗詳細
文=高橋敦史、木村理恵子、永島岳志 撮影=高橋敦史、富貴塚悠太、永島岳志
MOOK『散歩の達人 東京スペシャルティ珈琲時間』より