折々に立ち寄りたい地域の溜まり場『せんむすび縁側SPACE』
ローカルスーパー『ヤオシチ』3代目嶋田久栄さんが「個人的に」始めたコミュニティースペース。休憩だけでもOKだが、2026年6月からおにぎりランチを開始。サイズ、具を選ぶと手で握ってくれる。茨城産コシヒカリの握り具合、海苔のパリパリ感、ベジブロスの豚汁に恍惚(こうこつ)。さらに総菜、お茶とコーヒーが取り放題。
元廃墟で羽ばたく発想力を目撃『BUoY(ブイ)』
2階のカフェ&ギャラリーは元ボウリング場。だだっ広い空間に不揃いの椅子が並び、不思議と落ち着く居心地のよさ。また地下に下りれば銭湯の遺構を残した劇場が摩訶(まか)不思議な風情だ。アーティスト・イン・レジデンスを催すなど、新たなアートを発信し、若手を応援する場になっている。
疾走感炸裂のメロコアを発掘『LONG PARTY RECORDS』
階下の『PECKHAM』を抜けて2階に上がれば、メロディックパンク、ハードコア、日本語ロックがギュギュッ。佐久間雄平店長セレクトのデモ音源CDショップで、週間ランキングは要チェック。また、コールスローのメンバーによる中古の『コーナー・レコード』、CDのみならず、オリジナルグッズも必見。アーティストたちのサインが壁を埋める。
ゆらゆら音にのって揺れるひととき『PECKHAM(ペッカム)』
バンドマンたちの手でセルフDIY。窓辺のDJブース&サウンドシステムは、音響屋でもある店長ケンタさんの渾身作だ。ビール片手にタコスをつまみ、今の気分で流されたレコードの音を耳に心地いい時間が流れる。レコードリクエストも大歓迎で「ここで聴きたい」と持参する人もいるとか。ジャズやヒッブホップの中古レコード販売もあり。
料理ごとにスパイスの表情が変幻『SPICE UP CURRY ことこと、』
「スパイスは300種もあって奥が深い」とは、グリーンカレーでスパイスにハマった店主の鈴木孝太朗さん。夜のスパイス酒場では、韓国唐辛子がベースのラー油、スパイス10種入りフライドオニオンが決め手のマサラポテトサラダなど、独創的。注文ごとにフライパンで作るビリヤニも香り豊か。
住宅地の秘密基地で革小物と酒に耽溺『DVELP(ディベルプ)』
元町工場をセルフDIYしたアトリエ兼ショップは、さまざまな革を用いたカラフルポップな革小物に加え、古着、帽子、オリジナルアパレルなどが揃い、クール。アパレル経験もある店主の鬼木祐輔さんは「地元千住でモノづくりがしたい」と革工房『天神ワークス』を経て独立。週2のバーに加え、2026年8月から喫茶も開始。
鮮魚料理と洋菓子の華麗なる合わせ技『路地裏 久九(くく)』
路地裏民家の門を潜(もぐ)れば、店主の久松直人さんが足立市場で目利きした旬魚の色ツヤの美しいこと。舌に吸い付くマグロ、香味が広がるカツオなど刺し身の盛り合わせは外せない。また、入り口脇のショーケースに洋菓子がずらり。妻の舞さんはパティシエで、2022年の開店当初から二枚看板で営む。
天晴(あっぱ)れなる下町コミュニティー
千住は商店街が元気だ。なかでも駅から離れた大門商店街には精肉店、和菓子店、酒屋など、住民たちが頼りにする商店が健在だ。「忙しい親に代わって、地域の人たちが縁側でお菓子を出してくれたんです」とは、ローカルスーパー『ヤオシチ』3代目。そして、世話になった地元と商店街のためにと『せんむすび 縁側SPACE』を開いた。子供たちが宿題する脇で妙齢客がおしゃべりし、『鳥ふじ』の焼き鳥、『ふなちゅう』のコロッケをほおばる学生もいて、その自由なカオスが心地いい。しかも、和菓子屋『喜田家』の元店長・菊地さんがお母さん的存在で、輪を仕切り、世話を焼く情景はまさに台所そのもの。
商店街を抜ければ、路地がまるで迷路。探検気分で彷徨(さまよ)えば、路地裏に看板が。『ことこと、』店主の鈴木孝太朗さんは、千住のシェアハウス仲間で向かいの『編境』オーナー山本さんに誘われ、店を開いたとか。また、落語家が暮らした元民家の『路地裏 久九』では、酒肴のみならず、まさかの洋菓子にうれしい悲鳴。店主の久松直人さんいわく、海外からのリピーターまでいるという。なんて、ワールドワイド!
街の外から呼び寄せうねりを作るスポット続々
小窓から心地よい音が漏れ聞こえて『PECKHAM』に入れば、ジャケットアートが壁を彩るレコードカフェ。ぺッカムと、テムズ川南のサウス・ロンドンに位置する街で、音楽好きに知られたスポットだ。「千住も川に挟まれ、歴史とカルチャーのある街。シンパシーを感じるんですよ」と店長のケンタさん。奥の階段を上がれば、『LONG PARTY RECORDS』、通称ロンパリが控える。実はこの2軒、千葉の柏で活動するバンド「FILTAR」の豊方亮太さんがオーナーで、音楽仲間で運営。週末イベントも人気で、「音楽を楽しむなら、渋谷より千住のほうが面白い!」と豪語するDJもいるほど。
廃墟を活用した『BUoY』はアート系が大注目。劇場の特異な空間を思いっきり使って、回遊しながらパフォーマンスする演者のあとを観客がついて回るなど、独創性に舌を巻く。スタッフの「演じる側も遊べる場ですから」と、ほほえむ姿も印象的だ。
最たるは『DVELP』だ。革小物のアトリエ&ショップの週2バーは、ストリートカルチャーのごった煮の様相。料理担当は店主・鬼木祐輔さんの「学区は違うけど、子供の頃からの公園仲間」で、一見いかついのに、目がやさしい。
千住のあちこちで感じた、世話好き、人好き、コミュ力の高さは、宿場町の気風に加え、子供の頃から鍛え抜かれた賜物(たまもの)か。他愛もない話からアイデアが飛び交い、イベントに発展することも多々。面白がり精神にのれば、いつの間にやら自分も楽しい渦の中にいる。
取材・文=林 さゆり 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2026年9月号より







