現存する日本最古のビヤホール
先日、この国の盛り場の代表格・銀座の、ルーツとも言えるバーの記事を書いた。
そうしたらもう一軒、銀座の飲み屋史では絶対に外せない場所が頭に浮かんだ。「銀座ライオン」である。そう、ビール好きなら店名を聞いただけでほほえんでしまうあそこ。こちらもまた、戦前戦後の飲み屋史そのものを歩いてきた店なのである。
ということで、銀座通りを歩き、七丁目方面へ。見えてきたのは、レンガ風アーチ。『ビヤホールライオン 銀座七丁目店』に到着した。入り口で待っていてくださった女性にお名刺をいただくと、(株)サッポロライオンの広報ご担当・横田友佳さん。おっと、奇遇ですね、同じ姓。家紋はうちと一緒で丸に釘抜きですか、などと軽口をたたいて苦笑させてしまいながら店内へ——。
開放的な気分を連れてくる光景
ドアをあけるや今度は一瞬押し黙ってしまう圧巻の風景。目に飛び込むのは、真正面、ガラスモザイクを使った大壁画だ。アール・デコ調の店内全体のしつらえと高い天井とがあいまって、銀座の超一等地の店とは思えない、窮屈さのかけらもない、広大な視界がぱあっと開ける。これが開放的な気分を早くも作ってくれるのだ。
かといって、ギラギラしたところはない。いぶされたように落ち着いた茶色い天井や柱は、一朝一夕には到底できあがらない年月がつけた味なのである。この建物、大日本麦酒(「麦酒」と書くが、ビールと読む。サッポロビールの前身)の本社ビルとして、昭和9年(1934)に竣工してから戦争の時代も越え、今に至っている。ちなみに、照明や家具などの備品、調度品は同じものが入手できないので、補修しながら大切に使っているそうだ。
注ぎ手によっても味は微妙にかわる
お話を聞く前、まずお願いするのは、もちろんビール!(私はグラスで)。ほどなく運ばれてきた一杯は、ぴったりと金色のフチのてっぺんまで、細かな泡に満たされており美しく、ゴクリとのどが鳴ってしまう。大事な泡が沈んでしまう前にあわてて口をつけ、一息でぎゅーっと半分までいく。う、うまい。なめらかな泡、雑味のない冷え冷えでさわやかなビール液自体の味。実は私はあまり日頃ビールを飲まずチューハイやハイボールが多いのだが、ここのは別。久しぶりにうかがったが、本物のビールのうまさをいつでも教えてもらえるように思う。
注ぎ方が、違うのだ。
ふつう、飲み屋さんのビールサーバーは、最初に液体を注いでから、最後に作った泡をのせる。しかしこちらは、「注ぎながら泡を作る」のである。つまり「一度注ぎ」。地下に1000Lのタンクがあり、ここから直接ガスをかけて、特注ホースを経てビール液が送られてきて、傾けたグラス内にそれを受けると渦が巻き、細かな泡でできた白っぽいビールが満ちてゆく。渦が落ち着くと、ふんわりした泡が上へ浮かぶ。この注ぎ方によって、余分な炭酸ガスが抜け、すっきりした味わいが生まれるのだ。多いときは、中ジョッキで、一日800杯も注がれる。そして、注ぎ手によっても、味は微妙にかわるようだ。広報・横田さんはほほえむ。
「スタッフの『誰々さんで一杯ください』ということもありますよ」
注ぎ手を指定する常連さんも少なくないのだそう。そこまで一杯のビールにこだわることに私が感心していると、横田さんは何気なく、しかし矜持を感じさせる一言をくれた。
「ここは、サッポロの出自を語る場所ですから」
取材・文・撮影=フリート横田







