手塚理美
てづかさとみ/東京出身の俳優。小学生のころからジュニアモデルとして活躍し、映画、舞台、ドラマと幅広く活動。2025年に芸能事務所から独立、フリーに。趣味は散歩。Instagram:tezuka_satomi
手塚さんから「北鎌倉台商店街はご存じですか? リサーチしたら、なかなか興味深いです」とLINEが届いた。春の気配を感じる穏やかな火曜11時半、JR横須賀線北鎌倉駅改札で待ち合わせ。
—— お待たせしました。北鎌倉駅って、簡易Suica改札機になってたんですね。
手塚 私も北鎌倉駅で降りたのは久しぶり。今日もよろしくお願いします。
—— よろしくお願いします。さっそく、ガチロケハンの鉄の掟のおにぎりスタートです。おにぎりはどちらで?
手塚 それなの、実はそれが難関。あの手この手で調べたんだけど、北鎌倉駅の近くには、おにぎり屋さんが見つからなくって。だけど、20分くらい坂道をのぼれば、『風ねこ食堂』さんっていうお店でおにぎりが買えそうです。だからおにぎりのために、歩きましょう。
——20分も歩いて、おにぎりなかったら、どうするんですか?
手塚 そこはあらかじめ電話をしてちゃんと確認済みなのよ、オホホ。で、そのあとは、今日のメイン、北鎌倉台商店街に向かいます。どんな商店街かしらね、楽しみ。北鎌倉駅からだと30分くらい歩くみたい。
—— 北鎌倉台商店街は、『風ねこ食堂』さんと駅を挟んで完全に反対方向な気が……すみません、ガチロケハンに弱音は禁物でした。歩きます。
なるべく大通りを避け、映画監督がひょっこり顔を出しそうな路地をくねくね進む。梶原方面に抜ける坂をのぼった途中に、映画のワンシーンのような小さな『風ねこ食堂』があった。扉が閉まっていたが、おそるおそるインターホンを鳴らした。
手塚 お店の方……というよりおかあさんね……が、ちょうどごはんが炊きあがったところだからおにぎりつくれるわよ、って言ってくださって、よかった~。ナイスタイミング! では、いただきます! うわ、すごくおいしい! 塩加減もちょうどいいし、自家製の酸っぱい梅干しが、ごはんと相性抜群。海苔には穴があいていて、噛み切りやすくなっているし。おかあさんのこだわりと愛を感じちゃう~。
—— お米はササニシキだそうです。
手塚 さっぱりして、程よくほぐれる感じが、おにぎりにあっているのね。
—— ゴボウとニンジンの甘辛揚げは、サービスでした。ありがたいですね。
手塚 がんばって坂道のぼったあとに、こんなおいしいおにぎりが食べられるなんて! しかも、このベンチのある感じ、シチュエーション的にもとってもいい。めちゃくちゃヒットじゃない? あっという間に食べちゃった。
満足した後は、手塚さんお気に入りの東慶寺へ向かう。東慶寺は、かつて女性が夫の同意なく離婚できなかった時代に、「縁切り寺法」によって女性の救済を果たしたお寺。高台で見晴らしがいい。今は季節の花や紅葉が楽しめるお寺で、この日は梅の花とメジロが共演していた。
そして、念願の北鎌倉台商店街へ。結構なのぼり坂だが、手塚さんはカフェの店先をのぞいたりしながら、てくてく楽しそう。
—— 着きました、ここが北鎌倉台商店街ですね。
手塚 小さいながらも、とっても雰囲気のいい商店街。ただ、残念ながら火曜日はお休みのお店が多いみたいで、Instagramをフォローしている『サカナヤマルカマ』さんというお魚屋さんもお休みです。気になる焼き鳥屋さんも夕方まで待たないと開かないみたい。でも、この先、『一丁焼き こたろう』さんというたい焼き屋さんはやっているはず。この前テレビで、(林家)たい平さんが、たい焼き食べていて、行ってみたいなって思っていたの。
—— たい焼き屋さん、開いています!
北鎌倉台商店街は、標高が高く、山や丘に囲まれ、車道のルートも限られているため「鎌倉のチベット」と呼ばれているエリア。そこにある『一丁焼き こたろう』は、1匹ずつ鋳型を使ってガスコンロで焼き上げるスタイルのたい焼き屋。ちょっと前にテレビ『ぶらり途中下車の旅』に出て、お客さんがいっぱい来ているらしい。
こたろう 小豆餡・うぐいす餡(青えんどう豆)・白餡(白いんげん豆)と3種の餡を自分のところで炊いているたい焼き屋は世界でここだけ。金時の甘納豆のたい焼きは、宇宙でここだけ。3mmのうす焼きは異次元の味だから、ぜひ食べていって~。
手塚 わーぺったんこなたい焼き。いただきます。おいしいですね。
こたろう 北鎌倉駅からここに来るまでの道もよかったでしょ。「急いで上るな」って看板出しちゃおうかと思ってるくらい。ゆっくりゆっくりのぼってさ、完璧な散歩道だよ。
北鎌倉台商店街に別れを告げて、北鎌倉駅方面へ。横須賀線の踏切を越えたところにある浄智寺にも立ち寄り。鎌倉五山の第四位の寺で、評論家の澁澤龍彦の墓があることでも知られている。
手塚 このあとは、『しんとみ』さんに行きたいと思います。お寿司屋さんなんだけどラーメンが有名という不思議なお店で、ずっと行きたいと思っているんだけど、いつもタイミングを逃してしまって。
—— 今日こそは!ですね……わ、手塚さん、入り口の脇に「本日は終了しました」とい看板が出ています!
手塚 うそ~! 食べログに17時まで開いているって書いてあったのに。
—— おっと、お店の中にはまだお客さまいるので、ダメもとで、ちょっと聞いてみますね……手塚さん、二人分なら、まだラーメン作っていただけるそうです。
手塚 本当? うれしい!ついに『しんとみ』さんのラーメンね!
—— 細いちぢれ麺のシンプル醤油ラーメン。ラーメンに必要なものは全て入っていますね。
手塚 やっと食べられました。『しんとみ』さん、ありがとうございました。もう少しゆっくりしたいところだけど、長居してはお邪魔なので、H岩さん、早めに失礼しましょうか。
『しんとみ』ではガチロケハンを締め切れずに、『狸穴 Café』へ。映えるカフェメニューやスイーツが人気の古民家カフェだが、頼んだのは鎌倉ビール2本。2階のソファ席にどっかりと腰を下ろし、1日を回想。散歩道中、すべてが楽しかった。外を見るとまだ明るい。
構成=H岩美香(編集部)
『散歩の達人』2026年5月号より







