商品名称はサンポール社製の「ピコリーノ」。子供が乗ってケガしないようにと小鳥の飾りが付いたこの一般的な車止めに、変化が起きたのは1999年の冬のこと。「小鳥が寒そう」と思った江ノ島駅前売店の店員・石川さんが、ニットの帽子とボレロを作って着せたのだ。それから始まった毎月の衣装替え。季節に合うデザインの服を手編みし、着せ替えは見る人の夢を壊さないようにと始発前に行った。

1台に4羽いるピコリーノ。江ノ島駅前には2台ある。
1台に4羽いるピコリーノ。江ノ島駅前には2台ある。

その後、石川さんは退職となり、引き継いだのがご近所の小池さん。だが、後に高齢のため継続困難になり、困っていたところ企画されたのが2022年の「江のピコ編み物グランプリ」だった。「小池さんが顔の広いご友人の岩田さんに相談したら、『みんなに声をかければ衣装は集まるから、まだまだ続くよね』と言われて話が進んだそうです。そこで途切れなかったのは、人のつながりと熱意の賜物ですよね」とは、衣装の着せ替えボランティアとして発足された「江のピコサポーター」の一員、鈴木仁美さん。そう、小鳥はいつしか“江のピコ(江ノ島駅のピコリーノ)”と名付けられていた。

片瀬3丁目の『カモコトキッチン』にはお寿司姿!
片瀬3丁目の『カモコトキッチン』にはお寿司姿!

台湾やオーストラリアからも衣装が届く!

龍口寺前交差点の撮影スポットに昨年(2025年)設置されたマンホール。
龍口寺前交差点の撮影スポットに昨年(2025年)設置されたマンホール。

現在、江のピコサポーターは大学生から50~60代までメンバーは9名。グランプリで集まった約130着はすでに着せ終えたが、2025年に開いたワークショップで参加者が作ってくれた衣装、自宅で作り送ってくれた衣装のおかげであと2年分はあるという。中には、台湾やオーストラリアからも手作り衣装が届いたというから、今や世界のピコちゃんなのだ。

「毎月着せ替えをしていると、いろいろな人から『かわいい』『いつも楽しみなの』『ピコちゃんに癒やされる』ってうれしい言葉をもらうんです。愛されていますよね!」と鈴木さん。

左の小鳥の服はなんと巣とヒナ付き!(写真提供=江のピコサポーター)。
左の小鳥の服はなんと巣とヒナ付き!(写真提供=江のピコサポーター)。
蛍光色がまぶしい80年代風!?(写真提供=江のピコサポーター)。
蛍光色がまぶしい80年代風!?(写真提供=江のピコサポーター)。

実は江ノ島駅前だけでなく周囲に2カ所いるピコリーノ。「私たちって手芸好きの集まりなので、本当は自分の作った衣装も着せたい(笑)。だからこの2カ所は私たちの衣装を着せるピコちゃんにしよう!と自由にアレンジしているんです」。

江のピコはやさしい気持ちのつながりの象徴。これからも愛らしい姿を見守りたい。

夏は浴衣も着る(江ノ電本社前のたこせん屋にて。写真提供=江のピコサポーター)。
夏は浴衣も着る(江ノ電本社前のたこせん屋にて。写真提供=江のピコサポーター)。

取材・文=下里康子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2026年6月号より

江のピコサポーターInstagram:enopico_supporter

海にも山にも近く、自然豊かな鎌倉は、四季折々に訪れたくなる歴史と文化の街。にぎやかな小町通りを抜ければ、静かな路地が縦横無尽に走り、地元の人が太鼓判を押す店も点在する。一日かけてのんびりぐるり、巡りたい。
聞こえてくるのは、風の音や鳥の声。人工的な音が少なく、歩いていると心も体も軽くなっていく気がする。山の景色には四季折々の表情があり、飽きることがない。北鎌倉では、のんびり、自然に身を委ねるのがいい。
今じゃすっかりおなじみの人力車だが、何を隠そう、東日本で初めて観光人力車を始めたのが、鎌倉人力車『有風亭』の青木さんだ。2025年に引退したものの、その背中に憧れた弟子に、未来の古都鎌倉を託している。
鎌倉に来たのならやっぱり乗らずにはいられない。グリーン&クリーム色のツートンカラーのこの単線。今日は、鎌倉駅から江ノ島駅まで6.7kmの距離を、乗って車窓を眺めたり、降りては線路伝いに歩いたり……。気まま散歩へ出発進行!