アメリカから来た人が本物と喜ぶ「ニューヨーク」
『Pizzicare』がオープンしたのは2021年。なぜか外国人客が多いそうだ。現在ピザの種類は15種類あるが、「人気の上位は『マルゲリータ』と『ニューヨーク』です。外国人でもイタリアの方はマルゲリータ、アメリカの方はニューヨークばっかり頼む人が多いですね」と、Yoさんと呼ばれる店主の金丸洋(かなまるよう)さん。
ピザの代表格でもある「マルゲリータ」は、トマトソース、モッツァレラとバジルの3色でおなじみ。『Pizzicare』の「ニューヨーク」は、トマトソースの上に、ペパロニソーセージ、モッツァレラとパルメザンチーズをのせたものだ。
ニューヨークスタイルのピザに欠かせないペパロニソーセージは、アメリカ産を使用している。「アメリカの方が『Pizzicare』のペパロニは本物だと言ってくれるんですよ」という言葉に俄然興味が湧いてくる。ジンジャーを含めて6種類ほどのスパイスを使っているというホームメイドジンジャーエールと一緒に注文した。
耳はふっくらソフト。500℃近い高温で焼き上がるジャンクな刺激
「ピザの修業をしたわけじゃないんですよ。自分で粉が飛び散らない生地の伸ばし方を考えた」と言いながらYoさんは生地を手に取った。生地が丸く伸びるとトマトソースを敷いて、チーズを散りばめ、その上に極薄くスライスされたペパロニソーセージを満遍なくトッピングして、ピザを窯の中へ。
家庭用のオーブン1.5個分ぐらいの大きさの電気窯だが、500℃近い高温になる。「東京で薪窯を置くのはハードルが高いと考えていたら、この電気窯を知りました。これなら遜色ないものが焼けることがわかったんですよ」。ものの3分ほどで、こんがり焼き上がったニューヨーク。小皿とフォークを添えて提供された。
Yoさんがピザづくりを身につけたのは伊豆の下田にあるリゾートホテルで働いていたころのこと。使い手のいなかったピザ用薪窯があって、作り方を研究した。Yoさん自身は手先の器用なタイプで、そのときすでに調理経験もそれなりにあった。しかし、自力で納得のいくレベルのピザに到達するにはかなり試行錯誤が必要だったと振り返る。
今、ニューヨークに使っているペパロニソーセージはそのときから使っているものだ。『Pizzicare』のピザは薄焼きで、1人で1枚食べられるボリューム。この点は、ナポリピッツァのスタイルを思わせる。中央部分を覆うようなペパロニの油分と辛味、塩加減がトマトソースと組み合わさった味わいは、アメリカンなジャンクさだ。
そのがっつりした味わいのピザに、レモンやはちみつも入ったさわやかなホームメイドジンジャーエールがよく合う。
ローマと下田を経て、高円寺で提供する多国籍なピザ
店名の『Pizzicare』は、イタリア語でつねる、つまむという意味の動詞。本来は「ピッツィカーレ」と読むが、英語風の読み方で「ピジケア」と読ませている。実はYoさんは21歳のころ、イタリア・ローマに滞在した経験を持つ。
10代前半はろくに学校に行かず、建築やデザインを学んだ専門学校も卒業直前にドロップアウトし、その後半年間ローマをエンジョイ。帰国後に外国語を身につけようと外国人が多いレストランで働いたのが飲食業への入り口になり、何年か後に下田で働いてピザづくりを身に付けた。イタリア滞在経験のある店主が高円寺で提供するピザが下田育ち、しかもアメリカの人に好まれるというのもおもしろい。ちなみに高円寺に店を開いたのは「自宅から近いから」らしい。
Yoさんは他にも「おもしろいことをやってみて、自分がお金を取ってもいいなと思えるレベルになったら仕事にする」を繰り返している。『Pizzicare』以外にも、コーヒー豆の卸、デザインに関するコンサルティングなど複数の事業を行う。店で展示販売されているスケートボードやボディーサーフィンのギア、Tシャツのイラストも自ら手掛けている。当然、いつも店にいるわけではない。
だから「他のスタッフがピザをつくっても品質がぶれないように」と、ピザ生地は専門の会社から自分のレシピに近いものを仕入れている。トマトソースも店で一から仕込んでいるわけではなく、仕入れたものに一手間加えたもの。ピザ職人というより経営者としての選択だ。
材料も特別なものは使わず、「味やコストなどトータルのバランスを考えた、店として出せるピザのボトムラインを作っている」と話す。最低基準があれば、それを超えようとする人が出てくるだろう。『Pizzicare』のピザは、誰かにとって飛び越えるべき何かとの出合いになるのかもしれない。
取材・文・撮影=野崎さおり






